湖の【浄水】と提案
私はユムツの池を【浄水】し終えた3日後に冒険者ギルドに赴いた。
相変わらず、冒険者を見掛けない。
受付カウンターに歩み寄って、受付嬢に声を掛けた。
「おはようございます。報酬は——」
「おはようございます。メグリさん、用意が出来ております。こちらがユムツの三ヶ所の池を浄水して下さった報酬です」
金貨が大量に積み上げられたトレーが出された。
「金貨65枚です。お確認ください」
私は財布としている麻袋にしまっていく。
「ありました。えっと残っている湖の依頼を受けます」
「承知しました。ピーエネースの湖ですね、お気をつけてください。護衛の依頼は——」
「ジェルズさんに直接お願いしますので、結構です」
「そうですか。改めてお気をつけてください、メグリさん」
「はい」
冒険者ギルドを後にして、ジェルズの自宅に赴いた。
ジェルズの自宅の玄関扉をノックした。
日本では馴染みのインターフォンがなかったので、木製の玄関扉をノックした。
「ジェルズさん、また護衛依頼をお願いしたいのですが」
玄関扉の向こうから、慌てた脚音が聞こえ、彼が玄関扉を開けて姿を現した。
「メグリさんか……護衛か?」
「はい。またお願いしたいんですが良いですか?」
「まあ構わないよ。俺一人じゃ魔物の討伐依頼は受けられないから、助かるよ。えっとどこまでだい?」
「ピーエネースの湖までです。遠いのでしたら馬車で行きたいのですが、知り合いに御者はいませんか?報酬は高く出すので!」
「遠いな。御者か、出られる人をあたってみるよ」
ジェルズが御者を探しに出かけたので待った。
彼が御者を伴って戻ってきて、挨拶を交わした。
「はい、これで満足いきますか?」
「こんなに貰って良いのか、ほんとに?」
「はい。これだけでは渋られるかと思ったんですけど」
「多くて銀貨50枚くらいかと思ってたんですが……貰いすぎで騙されてるのかと思うくらいです」
御者が金貨4枚を受け取り、手を震わし、驚いていた。
「俺の依頼にも金貨を出してたぞ、見かけによらず大金持ちなんだろメグリさんは。早速なんだが、ピーエネースに連れてってくれ」
「あぁ、わかったジェルズ!」
私とジェルズはピーエネースに馬車に乗って赴いた。
道中で鹿を見掛けたが魔物化した影鹿でその群れに馬車が襲われた。
「げほげほっ、おいジェルズ!魔物化した鹿が群れで襲ってきた、頼む!」
「あぁ、わかった!」
ジェルズが馬車を飛び降り、影鹿に斬り掛かった。
「可哀想だが……襲ってきたなら倒すしかない!おりゃーーッッ!!」
太陽が出ているが汚染された空気で紫がかっているので影が薄い。
影鹿が自身の影に潜るが地面に剣を突き刺され、悲鳴をあげていた。
影と同化しても攻撃は当たった。
「影に潜っても攻撃は当たるんですね」
「空気が汚染されてるお陰だな。普通なら影に潜った影系の魔物は、攻撃は受けないよ」
「へぇ、そうなんですね」
影鹿を倒して戻ってきたジェルズに疑問を訊ねた私だった。
ピーエネースの湖で浄水を行って、帰りの馬車の中で彼に提案した。
「ジェルズさん、この街を出て治癒師に治して貰って冒険者を続けたらどうです?税金を納めるのに今のままでは大変でしょ」
「そうはいうが、腕利きの治癒師を探すのも一苦労だ。余所者が滅多に来ないサウラインスだ。無駄に金が消えるだけだ」
「それもそうですが……湖の報酬を受け取ったら、サウラインスを出る予定です。そのときに一緒に汚染されてない土地に行きましょ。それなら情報も集められます」
「うぅーん……今答えは出そうにない。時間をくれ、メグリさん」
「報酬を受け取れるのに3日掛かりそうですし、それまでに決断したら間に合います」
帰る道中はジェルズの唸り声が馬車内に充満した。
サウラインスに戻って、馬車を降り、ジェルズに報酬の8枚の金貨を渡した。
またも前回のように貰いすぎだと拒まれたがサウラインスを出るときに必要になるだろうということを告げ、押し付けた。




