兄弟
ズヴァイグズネ帝国が《五恐指》に襲われて一ヶ月が経った頃。
ヴァイログス・ディヴィは修練場の上から、兵士達の練習を見下ろしていた。
「はぁー。弟は無事に生きているだろうか?」
「ヴァイログス隊長、一人っ子じゃないんでしたか?意外です」
いつのまにか隣に佇んでいた第三騎士団の部下のザルドが親しげに独り言に返事した。
「意外?どこをどう見てそう思った?ロードスターという弟がいる」
「ロードスターですか……へえぇっっかっこいいすね弟さん!!」
瞳を輝かせて大きく声を上げたザルド。
修練場から、木刀がぶつかり合う何百の物音が聞こえている。
「ザルド、今は修練中だろ!なぜ此処にいる?さっさと戻れ!」
ヴァイログスが、ザルドに叱ると彼は落ち込む事なく普段の声で返す。
「相手が弱いんで、仕方なく此処に来たら隊長がいたんです。気になることを呟いていたんで、会話をしてみたんです!!」
金髪の頭を掻いているザルドを見下ろすヴァイログスだった。
まだ幼さが残る顔をしたザルドに、ため息を漏らすヴァイログスだった。
「この間の襲撃でお前も負けたのだ。相手が弱いからといって、修練から切り上げるとはどういうつもりだ?」
「ヴァイログス隊長だって負けたんですよね、俺に説教してる暇だって無いはず。言い訳するんですか?」
「……ぐぬぬっっ!?私も修練はしておる。お前だって一戦力のひとつ、陛下をお護りする為の生命だ!!さっさと修練に戻れ!!」
「はいはい、戻りますよ〜」
ザルドが脱力した声で応え、後頭部に両手を組んで、去っていく。
ヴァイログスは、何百人も練習に力を入れている修練場に視線を移す。
「陛下をお護りするにはまだ弱い……オレはどう導いていけば良いのか、ロードスターよ?」
迷宮に潜っている《猟犬》の面々は食事を摂っていた。
「……くしゅんっっ!はぁー俺の噂を誰かしてるか今ぁ?」
「さぁな。35層まで攻略したら、一度戻るか?」
大きなくしゃみをしたロードスターにそっけない返事をして、今後の方針を告げたフェノメノだ。
「そうですね、リーダー。心配ですから」
「そうしよう。ズヴァイグズネ帝国のようになっていれば我らの存在意義が失われる」
シアンとヴァルカンがフェノメノの方針に首肯した。
彼らは味気ない食事に飽き飽きして、食事を終わらせ、休憩を挟み、次の層に移っていく。
「そういやお前らって、キョウダイはいるか?」
「唐突になんだロードスター?私は一人っ子だけど……?なんでそんなこと聞く?」
シアンが応えて、他の面々は無言だった。
「兄貴ってうざい奴ばっかかなと思って……」
ロードスターが応える。




