銀河帝国皇帝視点 挑発されたので受けて立つことにしました
「遅いぞ!」
私は報告を待っていた。
逃げ出したユバスの船を直ちに第一艦隊を率いて追いかけようとしたが、急すぎると廷臣共が反対したのと、ドワルスキー等が追跡していると聞いたので、その結果を待っていたのだ。
「陛下、今しばしお待ちくだされ。間もなく結果が入ってくる頃でございます」
内務大臣のゲラーシムが私をなだめてくれた。
「うーん、しかし、待つのは辛いの」
「陛下、爪を噛まれています」
侍従のグレゴリーが注意してくれたので慌てて止めるが、待つのは本当に性に合わない。
「陛下、ジュピターを追っていた第四戦隊と第六戦隊から連絡が入りました」
そこにやっとアンドレイが報告を持ってやってきた。
「ユバスの船は捕まえられたのか?」
「それが逃げられたとのことでございます」
「2つの戦隊で追っても逃げられたというのか?」
私は頭が痛くなった。帝国第一艦隊は帝国の精鋭を集めた部隊なのだ。その装備も練度も最高の物を与えているはずだ。
ユバスの船はたった1隻、20隻で追えば普通は捕まえられるはずだった。
「はい。第六戦隊は搭載機動歩兵を全て失ったそうでございます」
「なんだと、機動歩兵は最新のM103 を配置していたはずであろうが!」
「第六戦隊のルキヤノヴィチによりますと、ユバスの搭載機動歩兵はその上をいったそうでございます」
私はそれを聞いて舌打ちした。
「ボニファーツの仕業か?」
「おそらく、ボニファーツが噛んでいるのは間違いないかと」
ボニファーツは兵器専門の科学者だ。それも自分でドンドン改良して作っていくのだ。
帝国の機動歩兵はM102まではボニファーツの作だった。
その次の103の時にボニファーツは駆逐艦並みのブラスターを搭載すると言ってきた。
「どこまで火力を強化すれば気が済むのだ! 会計監査員からも軍に金を使い過ぎていると文句を言われているのだぞ。そんな兵器を搭載する余裕などないわ!」
私はボニファーツを怒鳴りつけた事を思い出していた。
「ユバスの機動歩兵に駆逐艦並みのブラスターを搭載したのか?」
「おそらくそうしたかと」
「しかし、そうした場合に機動性が失われると軍部も反対していたでは無いか?」
「そこは判りませんが、射程外から攻撃されて全滅したようです」
アンドレイに言われて私は何も言えなかった。
銀河大戦初期、私はボニファーツが言うままに機動歩兵にブラスターを搭載させたのだ。
「そんな非常識な事をなさる必要はありません」
そう言う古狸共を一喝して、その時は強引に装備を一新した。
それが銀河大戦での帝国の勝利に繋がった。
「M103でもそうすれば良かったか?」
「陛下、ユバス側はたった20機だから出来たのです。我が帝国のように千機を超える戦力にそこまでの金を使えませぬぞ」
内務大臣のゲラーシムが反論してくれた。
まあ、ゲラーシムの言う通りなのだが……
「ところで第二戦隊はどうしたのだ?」
最初に追っていったドワルスキーの話が無くて私は尋ねていた。
「それがコンドラートとルキヤノヴィチの止めるのも聞かずに、追いかけていったと言う事でございます」
アンドレイが苦虫をかみ殺したような顔で報告してきた。
「まあ、いつものことだ。ドワルスキーならばユバスの船を捕まえてくれよう」
私はドワルスキーに期待していた。
「しかし、航続距離が足りぬと言い切って戦艦と巡洋艦だけで追いかけていったのですぞ」
「まあ、ドワルスキーらしいと言えばらしいでは無いか」
私は全く心配はしていなかった。
「しかし、陛下、あの辺りの宙域は第二艦隊の領域ですぞ」
「構わぬでは無いか。第二艦隊にもドワルスキーに協力するように連絡を入れろ」
「第二艦隊に協力するように命じられるのですか?」
アンドレイは躊躇してくれた。
「当然だ。なんとしてでもユバスの船は捕まえねばならん。全艦隊にも協力するように伝達しろ」
私はアンドレイに指示した。
「まあ、猪突猛進の所はございますが、戦績は確たる物がございますからな。直にユバスの船を捕まえたとの報告が入りましょう」
私の言葉に内務大臣が頷いてくれた。
しかし、それからドワルスキーからの報告が中々入ってこなかったのだ。
報告が入ったのはその日の夜だった。
「なんだと、第二戦隊のドワルスキーが怪我をしたというのか?」
私はアンドレイの報告を聞いて思わず水の入ったグラスを落としていた。
頑丈だけが取り柄のドワルスキーが怪我をするなど本来あり得ないことだ。
「ジュピターが長距離ワープを行い、ドワルスキーの第二戦隊はそれに付いていけずに、戦艦キエフと巡洋艦3隻で追ったのですが」
「そこは聞いたぞ」
「密集しているところにそのユバスの船がワープアウトしてきまして、巡洋艦3隻が撃沈、戦艦キエフも大破したとのことです」
「おのれ、ユバスの小娘とボニファーツはそこまで私に敵対するというのだな」
もう許しておくことは出来なかった。
ここで許せば帝国の威信に傷がつく。
対応を誤れば辺境の蛮族共が騒ぎ出すし、弾圧して勢力を弱めていた共和派が息を吹き返す可能性もあった。
「陛下、ユバスの船からメッセージが入ってきました」
「なんじゃと、奴らから謝ってきたのか? しかし、もう謝るだけではすまさんぞ」
私は取りあえずそのメッセージを見ることにした。
「日出ずる国の王女より、日沈む国の皇帝に告ぐ」
そこにはユバスの王女が映っていた。
何が日登る国の王女だ! 太古の地球で大国相手にふっかけた東洋の島国の書面が確かこのような物だったと記憶していた。
「なんとも身の程知らずですな」
ゲラーシムが舌打ちしてくれた。
「帝国の艦隊がどれほど強いかと思い試してみたが、その弱さに私は甚だ呆れた」
「なんじゃと小娘!」
私はぎりりと握りこぶしを玉座の肘置きに叩きつけた。
「違うと言われるのならば、20日後、ユバス星にてお待ちしている。そこで雌雄を決しようぞ」
小娘はそう言うと画面から消えた。
「おのれ、小娘、何をいうのじゃ!」
私はここまで馬鹿にされたのは初めてだった。
絶対に小娘は許さないと心に決めた。
「陛下聞いて頂きましたかな。我が姫様は陛下は取るに足らないと仰せになっての。儂も初めて陛下と干戈を交えられると思うとワクワクしますわ。それと我が姫様が陛下に勝てれば一京ドルの費用は帝国が持つという約束、くれぐれもお忘れ無きようにとのことでよろしくお願いいたしますぞ」
ボニファーツはそう言うだけ言うと画面から消えてくれた。
「陛下、ボニファーツが勝ったら借金を帳消しにするつもりですか?」
ゲラーシムが慌てて聞いてきた。
私はその口調にカチンとくるものがあった。
「ゲラーシム、誰に物を聞いておる!」
じろりとゲラーシムを睨み付けた。
「も、申し訳ございません」
私の口調にゲラーシムは慌てて跪いてきた。
「私は百戦百勝の銀河帝国皇帝ぞ。間違っても辺境の小娘なんぞに負ける訳は無いわ」
私は立ち上った。
「ふんっ、私を迎え撃とうなどと100年早いことを小娘とボニファーツに思い知らせてやるわ。直ちに第一艦隊に遠征準備を始めさせろ。10日以内に出撃する」
「「御意」」
その場にいた廷臣一同はさっと頭を下げてくれた。
私は皇帝親征で未だかつて負けたことは無いのだ。
兵器は多少はユバスの方が性能が良くても、こちらは100隻もいる。
絶対に負ける訳は無かった。
偉そうな口を叩いたあの王女とボニファーツを地面にひれ伏せさせて一生涯使ってやる。
私は負ける可能性などこれっぽっちも考えていなかった。








