帝国戦隊長視点 小国の小娘に虚仮にされたので追跡したが、逃げ切られてしまいました
「何が『悪いと思ったらさっさと謝りなさいよ!』だ! 舐めるな、小娘!」
ガシャーン
俺は手に持っていたインカムを地面に叩きつけていた。
「閣下落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるか!」
インカムを踏みつけていた俺は俺を止めようとした副官の胸ぐらを持ち上げて叫んでいた。
「閣下、苦しいです……ギャッ」
そう叫ぶ副官を離すと地面に落ちて悲鳴を上げていた。
「あの小娘絶対に許せん!」
俺は歯ぎしりして悔しがった。
俺の名はドワルスキー少将だ。畏れ多くも帝国の主星と同じ名の戦艦キエフを旗艦とする帝国第一艦隊第二戦隊の指揮官だ。
何しろ皇帝陛下の初陣から25年、ずっとこの艦の責任者だ。25年前はこのキエフの艦長で、20年前からはこの第二戦隊の指揮官になってはいたが……第二戦隊は帝国の第一艦隊の中でも歴戦の戦隊で旗艦以外に巡洋艦3駆逐艦6隻の陣容を誇っていた。
他艦隊への転出の話しもあったのだが、俺様は皇帝陛下の騎士兼突撃隊長を自認ししており、陛下のお側を離れるという選択肢はなかった。俺の艦隊勤務の歴史はすなわち、皇帝陛下の進撃の歴史と同じなのだ。陛下の輝かしい百戦百勝の戦いの全てに俺様は絡んでいた。俺様の第二戦隊はどの戦いでも常に最前線にあり、どんなに戦況が厳しいときでも後退したことが無いのが俺様の自慢だった。
そんな俺を畏れ多くも陛下は賞賛して5年前に男爵位を頂いた。
その辺りの辺境の小国の男爵位ではないぞ。この銀河帝国の男爵位なのだ。下手な王国の国王よりも偉いはずだ。
あの生意気な小娘は王女だと自慢してくれたが、良く考えれば俺様はこの銀河帝国の男爵様で辺境の小国の王女よりも余程偉いのだと言ってやれば良かったのだ! 完全に失敗した。
「ええい、まだトレースは完了しないのか?」
「もう少しお待ちください」
「皇帝陛下の補佐官のアンドレイはまだ出ないのか?」
「どこのどいつだ? こんな夜中に!」
そこにやっと皇帝補佐官のアンドレイが不機嫌極まりない顔で出て来た。
「遅いぞ! アンドレイ!」
「何だ? ドワルか、こんな夜中に、何のいたずらだ?」
寝ぼけ眼のアンドレイはまだ起きていないらしい。こちらは徹夜だというのに優雅に就寝とはいい身分だ。
「いたずらな訳は無かろう! 今、ユバスの小娘の艦がキエフの大気圏外からワープしたのだが、皇帝陛下のご命令が下ったのか?」
「ユバスの小娘? ああ、セラフィーナ王女か? それが何だって」
「惑星キエフからワープしたが良かったのかと聞いている?」
頭の回っていないアンドレイにむかつきつつ我慢して俺様は再度説明していた。
「はああああ! 何を言っている? ジュピターならば皇宮の外に駐留しているはずだぞ」
「何をふざけた事を言っている。確かに目の前でワープアウトしたぞ。小娘は皇帝陛下の命令だと抜かしおったが」
「何だと! そのような訳無かろう! 陛下がそのような許可を許される訳はなかろうが!」
「それだけ聞ければ十分だ。第二戦隊は直ちに小娘を追うぞ」
俺は艦橋のオペレーターを見た。
「閣下、座標特定できました。距離10光年先、太陽系テグラの外縁部です」
「よし、直ちにワープだ。あの小娘を逃すな。奴は我が帝国の銀行から多額の金を詐欺で巻き上げた凶悪犯だ。絶対に逃すな!」
「了解しました。直ちにワープはいります」
「緊急ワープ20秒前」
「おい、ドワルスキー、本当にジュピターだったのか? ジュピターは皇宮の横にいるはずだ」
「ふんっ、調べればすぐに判ろう。こちらは追跡で忙しい」
「3、2、1、ワープ」
「おい!」
アンドレイの声を残して我が旗艦キエフとその僚艦全10隻はワープした。
画面がホワイトアウトする。
「よし、全艦第一級戦闘配置。ジュピターが抵抗した場合は威射した後捕獲する」
「了解しました。全艦第一級戦闘配置」
「全艦第一級戦闘配置」
「主砲発射準備」
戦艦キエフの主砲は50センチブラスター6門だ。巡洋艦一隻などこの斉射で絶対に黙らせられるはずだ。
「おのれあの小娘。良くも俺様に嘘を述べてくれたな。絶対に許さん」
俺は陛下の命令だと平然と嘘をついて俺様に頭を下げさせたあの小娘に目にもの見せてやると怒り狂っていた。
「ワープアウト」
「敵、ジュピター発見しました」
「距離2万」
「よし、全艦あの小娘の船に向かえ」
俺は指示を飛ばした。
「小娘の艦に通信をつなげろ!」
「小娘、貴様、良くも嘘をついてくれたな。陛下は貴様の出航など許可していないそうではないか」
俺は通信が繋がるや叫んでいた。
「ああら、もう判ってしまったのね。でも、その鈍足の戦隊で我がジュピターに追いつけるのかしら」
小娘は俺を笑ってくれたのだ。
「何を言うか、小娘。直ちに停戦しろ。しない場合は攻撃する」
「それはここまで追いつけたらね。そうしたらその時に聞いてあげるわ」
そう小娘は宣言してくれると通信を切ってくれた。
「敵船、高速で逃走を始めました」
「ええい、全艦全速で追いかけろ」
俺は叫んでいた。
「全艦最大戦速」
「全艦最大戦速」
キエフのエンジンが火を噴く。
他の艦も最大戦速で追いかける。
「閣下、敵のパワーが違います。急激に差をつけられています」
「おのれ、まだ射程に入らないのか」
「まだ無理です」
「やむを得ん。戦艦のパワーを最大にしろ。この艦のみで追いかける! 僚艦は追いつかなくても仕方が無い」
俺はパワーのある戦艦一隻だけで追いかけることにした。
戦艦一隻だけならばパワーでは巡洋艦などに負けん!
絶対に追いついてやる。
俺の意地が乗り移ったのか急速に距離を縮めた。
「小娘。追いついたぞ。素直に降伏しろ!」
俺は小娘の船を射程に捕らえてほくそ笑んだ。
「本当に面倒くさいわね。じゃあ、ドワルさん、バイバイ」
ホログラムの小娘が俺様を馬鹿にしたように手を振ってくれたのだ。
そして、通信を再び切ってくれた。
「おのれ、主砲で威嚇射撃しろ!」
「了解。目標ジュピター、威嚇射撃用意」
「撃て!」
戦艦キエフの主砲が唸りをたてて発射された。
それは小娘の艦をかすめて小娘を驚かせるはずだった。
しかし、ブラスターの炎が到着する前に、ジュピターは俺桁の目の前から消えてしまったのだ。
「敵ワープしました」
「何だと、すぐに追え!」
俺様は激怒していた。
「無理です。どんなに頑張ってもこの戦艦キエフでも次のワープまで3時間は必要です」
無情にも副官の声が艦橋に響いた。
「おのれ! 小娘め!」
俺は怒りのあまり、目の前の計器に手を叩きつけていた。
バリン!
計器が割れてしまった。
副官達はぎょっとして俺を見るが俺は地団駄踏んで悔しがるしかなかった。
「おのれ、小娘! この屈辱必ず晴らしてやるからな!」
俺は血まみれの両手を握って心に誓ったのだった。
ここまで読んで頂いて有り難うございます
追跡戦はセラフィの勝利でした。
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続きをお楽しみに








