謁見1 銀河帝国皇帝に睨み付けられましたが、跪きませんでした。
銀河系最大の国家である銀河帝国は人口1000億を超えた。
その中心に位置する主星キエフは人類生存可能な第15太陽系に位置していた。
キエフはその第三惑星で、人口は20億を越えており、銀河帝国の中では多い方だ。
主星キエフは帝国の主星なだけに経済の中心であり、大半の帝国企業の本社機能が集まっていた。多くのビジネスマンとその家族が生活していた。
また、それ以上にこの星には帝国の皇宮がありその周りには政治の中枢である数々の省庁の本庁と、軍の総司令部がおかれていた。
また、この主星キエフには帝国の第一艦隊100隻が駐留していた。
銀河大戦から25年が経つが、皇帝エカチェリーナが指揮して、未だかつて負け無しの最強艦隊だ。
その第一艦隊所属の第10戦隊10隻に守られて、いや違う、護送されてジュピターはゆっくりと太陽系内を主星キエフに向けて航行していた。
「こちら貨物船キールナ。航路E1415ポイントからE1416ポイントに移動中」
「こちら船艦ビスマルク、航路E1416ポイントからE1415ポイントに移動中」
「こちら管制、ビスマルクの戦隊を優先する。貨物船キールナはGポイントに下降してください」
「こちらキールナ、了解した。G1416に下降する」
「こちら管制、その後ろの貨物船アゲシオもGポイントに下降せよ」
「こちらアゲシオ、了解した」
さすが帝国の主星なだけはある。
航路にはひっきりなしにいろんな船が航行していた。
でも、さすが皇帝直属の帝国第一艦隊所属の第10戦隊だ。尽く船を退けさせて、最優先で航行させていた。
青い星キエフが大きくなってきた。
第10戦隊はこのまま大気圏に突入するようだった。
ビスマルクとジュピターは並行して航行し、他の宇宙船が宇宙港に移動する中、皇宮の駐船場にそのまま降り立った。
皇宮は我がユバス王国の王宮とは全然規模が違った。
皇宮の城壁だけで10キロメートル四方あり、中には皇帝の住まいの本宮から、数々の離宮、後宮があり、数々の庁舎の本庁が点在していた。
当然歩いての移動など不可能で、中の移動にはエアカーが使われていた。
私達は迎えに来た軍部の差し向けたエアカーに乗せられて一路皇宮に案内された。
結局皇帝に会いに行くのは私と今回の金銭流用の主犯のボニファーツとヨーナス、ボッチ、それにアードルフの護衛隊5名の9名だった。
冷血非道と噂されるな皇帝だ。いざという時はそのまま戦闘もあり得た。
まあ、しかし、帝国の本拠地で戦闘して勝てとは到底思うなかったが……いざという時は皇帝と差し違える覚悟は出来ていた。
まあ、やるだけは無駄だと思えたが……何しろ皇帝も私がしている絶対防御システムの劣化版を纏っているのだ。皇宮内にも近衞騎士は揃っているだろう。
帝国の近衞騎士は百戦錬磨のはずだ。
数から言って勝ち目は無いだろう。
案内された謁見の間もユバス王国の謁見の間とは規模が違った。
広大な空間に、豪華な敷物が敷き詰められて、中央には赤い絨毯が正面の玉座まで続いていた。
ぐるりと取り囲んだ二階席まであって収容人員は1万人を越えるそうだ。
入り口から玉座までがとても遠かった。
中には100名以上の近衞騎士が真ん中の絨毯を挟んで並んでおり、その後ろには数百人の貴族達が並んでいた。私達は近衞騎士の間を玉座の手前まで歩かされた。
皇帝はまだ来ていなかった。
どうなるんだろう?
私は少し不安になった。
「姫様、玉座に並んでいる人の数が左右25人ずつです」
ヨーナスが下らない事を教えてくれた。
「それがどうしたのよ!」
私は不機嫌になった。
官僚と近衛騎士が並んでいたが、私にはその他大勢としか見えない。
よく数えたなと呆れた。
わざわざ25を探すな!
私は切れた。
「いや、姫様をリラックスさせようとしただけです」
リラックスさせるって、何よ! 25って聞いて更に心配になったわよ!
「まあ、姫様、そう心配めさるな。陛下は罪を憎まず才能を愛される方ですからな。そんなに酷い目には遭わされないと思いますぞ。本当に良い方なのです。ただケチで金に渋いのが玉に瑕ですが」
ボニファーツがそう教えてくれた。
「誰がケチで金に渋いだ!」
いきなりいないと思っていた玉座から声がした。
そこには50代半ばの昔は絶世の美女と思えた美貌を残した赤い髪の女帝がいた。
さすが帝国の女帝として近隣諸国におそれられた事はある。威圧感が凄まじかった。
「これはこれは皇帝陛下お久しぶりでございますな」
慌ててボニファーツが跪いた。
他の者も慌てて跪く。
でも、私は小さいとは言えユバス王国の王女だ。
父ならば即座に跪いていたと思うが、私はこの場では対等の王族のはずだ。
まあ、年上には敬意を表するが跪くことは無い。
「これは銀河帝国に君臨される皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私はユバス王国の第一王女セラフィーナと申します」
軽く頭を下げただけだった。
「あの王女、陛下に跪かないぞ」
「なんと生意気な女だ」
「小国のくせに」
廷臣達がざわめく。
でも、私は涼しい顔で流した。
「ほお、ボニファーツに良いように使われるだけの王女かと思いきや、少しは度胸があるようじゃな」
皇帝は軽く笑ってくれた。
でも、次の瞬間にその鷹のよう鋭い視線は私を貫いた。
殺される!
私の本能が悲鳴を上げたが、ここで視線を逸らせたら負けだ。
私は視線を逸らせもせずに睨み返したのだ。
二人の視線が絡まった。
その場の空気が凍った。
先に表情を緩めたのは皇帝だった。
「ふんっ、良かろう。私が銀河帝国皇帝、エカチェリーナだ」
皇帝は笑うと私に自分の名前を告げてくれたのだ。
銀河帝国皇帝の登場です。
果たして無事にセラフィーナはいられるのか?
続きをお楽しみください。








