皇帝の廷臣を側近達が煙に巻いて誤魔化してくれました
私はその後帝国の首都のある本星キエフに連れて行かれる事になったのだ。
「ボニファーツ、ヨーナス、一体どうするのよ!」
私は私の前に並んだ頬を腫らした二人を怒りの籠もった視線で睨み付けた。
生まれて初めて気絶から目覚めると主犯の二人を張り倒していた。
「どうすると言われましても、使ってしまったものは仕方がありませんからな」
ボニファーツはひょうひょうと答えてくれた。
こいつは全く反省していない!
「ボニファーツ!」
「銀行も馬鹿なのです。いくらフッセン男爵が絶倫でも1万人も隠し子がいるわけはないでしょう。裏金で使っていることなど当然知っていたはずです」
「いや、待って、普通は審査か何かで引っかかるでしょう?」
私が聞くと、
「まあ、銀行のAIなんて馬鹿ですからの。儂のボッチに任せればあっと言う間でしたわい」
「ボッチ、あなたもこの件に噛んでいたの?」
私が専属のアンドロイドに聞くと、
「任せてください。麻薬や奴隷販売をしていた銀河法違反の悪徳領主から金をふんだくって、姫様の為に使うのは当然のことです」
「でも、限度があるでしょう」
「姫様の船を史上最強艦にするのは当然のことではありませんか? それにそういう悪徳領主を取り締まらなかった皇帝陛下も悪いのです」
「おい、ボッチ、お前不敬だぞ!」
何故か、ここにいたアンドレイが注意してきた。
「事実ではないですか? 陛下はフッセン男爵がサーリアにて麻薬販売と奴隷取引に手を染めていたのをご存じのはずです。そうですよね。アンドレイ補佐官?」
「いや、それはだな、陛下にもいろいろお考えがあってだな……」
「自業自得です」
ボッチは一顧だにしなかった。
「いや、しかし、一京ドルはやり過ぎだろう!」
「一ドルも一京ドルも流用は流用です。同じなのです」
「そんな訳あるか!」
「アーダ、このおじちゃんがフッセンを取り締まらなかったから、あなたは奴隷としてフッセン男爵にもてあそばれたのです」
ボッチは何故か私の横にいさせられたアーダをアンドレイの前に押し出した。
「えっ?」
流石のアンドレイ補佐官もアーダを前にして何も言えないみたいだった。
「酷い、おじちゃん!」
涙目でアーダがアンドレイを見上げた。
「いや、その……」
アンドレイはしどろもどろだ。
「酷い! アンドレイ補佐官、知っていたのに見逃したせいでこの子は奴隷にされたのですよ。これを連邦のマスコミが嗅ぎつけたらどうなるんでしょう?」
「連邦のマスコミがどう関係する?」
そうアンドレイが言った瞬間だ。
アンドレイの周りに連邦の電子新聞がずらりとホログラフで浮かび上がった。
『小国の王女、悪徳領主を成敗』
『一隻で悪徳領主の大艦隊を撃破する小国の可憐な王女』
『無敗の銀河帝国艦隊、小国の王女のたった一隻の艦隊によって殲滅される』
『銀河法で禁止の奴隷取引か』
『悪徳領主、奴隷を取り戻すために小国に攻め入り返り討ちに遭う』
何か凄まじい数の電子新聞が現れて、全部に笑顔で国民に手を振る私の顔写真が映っているんだけど……
「ボッチこれは何なの?」
驚いて私が聞くと
「ヨーナス様に言われて連邦の新聞社やテレビ局など主要1000社に情報を流しました」
平然とボッチが説明してくれたんだけど……
「ヨーナス、どういう事よ!」
私がヨーナスを睨むと
「姫様の勇姿を流すのは当然のことです。マスコミはニュースに飢えていますからすぐに飛びついてくれました。全世界2000億の民が見たかと」
「ええええ! ちょっと何を無断でしてくれているのよ」
私がむっとしてヨーナスを見ると
「無敵の帝国艦隊を殲滅したのは事実ですからな。こちらから流さずともマスコミ共は大ニュースにわいておりましたから、そんなに対して変わりませんぞ」
「これを見て世界各国から姫様に婚姻の申し込みが殺到していると聞いております」
「マスコミからも取材の依頼が殺到しています。今のところ受けておりませんが」
アンネが報告してくれた。
私は頭が痛くなった。
「おい、ちょっとこれは何だ?」
アンドレイ補佐官がとある電子新聞を指さした。
『冷酷非道の皇帝、可憐な王女を捕獲』
そこには怒り顔の銀河帝国皇帝陛下の写真と涙目の私の写真の表紙がデカデカと載っていた。
他の新聞には私をいかめしい顔をしたアンドレイ補佐官が連行する写真が写っていた。
「何も糞もないわ。無実の我が姫様が悪の銀河帝国の皇帝陛下のところに連行されるのだ。世界に発信するのは当然だ」
ボニファーツの言葉とともに
「その理由が悪の帝国艦隊に勝つために帝国の銀行から金を流用した悲劇の姫様になる訳です。でも、一京ドルも流用されるまで気付かなかった帝国の銀行も皇帝陛下も馬鹿にされるでしょうね」
ボッチが哀れむようにアンドレイを見下しているんだけど……
まあ、気付かなかった銀行も皇帝も抜けているとは思うけれど、それを知らなかった私も私だとは思った。
「お前らその情報を流したのか?」
青くなってアンドレイが言った。
「まだ流してはおらん。しかし、時間の問題かの」
「まあ、帝国での姫様の扱い次第ですね」
「お前ら、陛下を脅す気か?」
「脅すなんて人聞きの悪い」
「そうじゃ。単に姫様の正当な扱いを望むだけじゃ!」
アンドレイではボニファーツとボッチには対抗できない事は判った。
でも、銀河帝国の皇帝陛下は何万という海千山千の廷臣達を従えているのだ。
こんなに上手く誤魔化せるとは私には到底思えなかった。
ここまで読んで頂いて有り難うございます
次は皇帝陛下に謁見です。
お楽しみに!








