遠国の姫君に告白されて私は貞操の危険を感じて逃げ出しました
爆発する宇宙船から乗客達を助け出すのは大変だった。
「セラフィ様! 怖かったです!」
私に抱きつくピンクの髪の女を助け出すのも大変だった。
後で聞いたら彼女はバミューダ王国のヴェルネリ王女だった。
彼女を私から引き剥がすのも大変だった。
海賊に襲われて、相当な恐怖心をもったみたいで、
「怖いです!」
甲高い声で訴えてくるのだ。まあ、私が男だったら嬉しかったかもしれないが、私は女だ。いい加減鬱陶しくなって飛んで来た私の専用巡洋艦ジュピターに下ろしてアンネに強引に預けてきたのだった。
すぐ傍で待機していたジュピターはあっという間に現れて乗客達を次々に救助してくれた。
乗客達は緊急時の脱出ボットや救命艇、最後は修復ペイントを纏って飛び出してきた。
修復ペイントは戦いなどで船に穴が開いたところを応急処置で空気の流出を押える泡状の液体で、濃度を濃くすれば真空の宇宙でも人間の体を保護してくれる球体になるのだ。
1時間くらいは人間はその中で生き延びられる。
宇宙船に最初に乗るときに非常用脱出講習でみんな練習させられるので、大半の人間がなれていた。
なんとか大半の人を救助し終えた。
ほっとしたところで、そう言えば海賊船はどうしたんだろうと私が思い出した時だ。
アステロイドベルトで大爆発が起こったのだ。
海賊船が爆発したのだ。
「どうなっているのよ?」
私が報告に来たアーロンを問いただすと、それまで静かにしていた海賊船が突然逃亡しようとしたので仕方なく撃沈したとのことだった。
「でも、何もアステロイドベルトの中で爆破する必要は無いじゃない!」
私が注意すると
「しかし、姫様。それならさっさと増援を寄越して下さいよ。そうすればもっと早く制圧できましたけれど、もうあの場では破壊するしか手段がありませんでした」
「エンジンを壊すだけとか出来なかったの?」
私はアーロンの言いたいことも判ったが、どうしても言わざるを得なかった。
「噴射口だけ潰そうとしたんですけど、エンジンも一緒に暴発してしまったんですよ」
「そんな……でも、」
私は納得いかなかった。
「まあ、姫様。アーロンらをそれ以上責めるのは酷ですよ」
艦長のミカエルがアーロンを庇ってくれた。
「それは、判るんだけど、あれ見てもそう言えるの?」
私が今の実況している画像を見せた。
画面上では爆発で吹き飛ばされたアステロイドベルトの隕石群が大挙して惑星サーリアに落ちていたのだ。
「ああ、あれは地面まで到達しますね」
艦長が諦めたように肩をすくめてくれたが……あなたはそれで済むかもしれないけれど、また厄災女の黒歴史が増えるじゃない!
私はもう泣きたかった。
「まあ、詳しくは後ほど陛下から叱って頂きます」
能面でアンネが断罪予告をしてくれた。
私は頭が痛くなった。このままどこか遠くに逃げていきたい気分だった。
「それよりもヴェルネリ王女殿下が助けて頂いたお礼を申し上げたいとおっしゃっておられますが」
ミカエル艦長が確認してきた。
「そうよね。良いわ。入ってもらって。ここで会うわ」
私から離れずに泣きわめいていた王女にはあまり会いたくはなかったが、私も王女だ。一国の王女から会いたいと言われれば会わない訳にはいかないだろう。
まだ、指示することは山のようにあるのだ。
私はこの場から動く訳には行かなかった。
私はコクピットの艦長席の隣の自分の席から頷いた。
艦長が後ろに立っていた衛兵に合図する。
衛兵が王女を連れてきた。王女は美しいピンクの髪をたなびかせてやってきた。
「セラフィ殿下。この度は私の危ういところを助けて頂いて有り難うございました」
私の前まで来るとそう言うとヴェルネリ王女は頭を下げた。
「いや、少し遅くなってしまって申し訳なかった。海賊が暗躍しているのは聞いていたので、待ち伏せしていたのだが思った以上に海賊の行動が早くて、殿下には怖い目に遭わせしまい申し訳なかった」
立ち上った私も頭を下げて謝った。
「いえ、殿下には本当に良くしていた抱きました。
でも、殿下があと少しいらっしゃるのが遅かったと思ったら本当に怖くなって。殿下!」
涙を目に貯めた状態で上目遣いに私を見るヴェルネリ王女は女の私が見ても色っぽかった。
私が思わずドギマギしてしまった時だ。
私の前にずいっとアードルフがいきなり出て来たんだけど……ええええ! 堅物のアードルフがヴェルネリ王女の色気にやられたの?
私が唖然としたときだ。
「あっ、思い出した。あの女、姫様に婚約を申し込んで来た遠国の王女だ!」
後ろでアーロンが素っ頓狂な声を上げてくれた。
「ああああ!」
私も思いだしていた。
こいつか! こいつが勘違いしてくれたお陰で私はアーロン等に笑いものにされたのだ。
私がむっとしてヴェルネリを見ても、私をキラキラした視線で見てくるヴェルネリは変わらないんだけど……
いい加減に私が女であると気付けよ!
私とヴェルネリの間にアードルフが入ってヴェルネリの視線を邪魔するが、それを必死に避けて私の顔を見ようとヴェルネリとアードルフがお互いにやり合っているんだけど……
私はいい加減に馬鹿らしくなってしまった。
本当のことをカミングアウトすれば誤解は解けるだろう。
「ヴェルネリ王女殿下。大変申し上げにくいことだが、私は女だぞ」
私は言いにくそうに言った。
アーロンが後ろから吹き出していた。
後で叩いてやる!
私が心に決めたときだ。
「えっ、そんなの知っておりますわ。私はセラフィ様の凜々しいお姿に恋してしまったのです。それも、今回私を命がけで助けて頂けて更に恋してしまいました」
その答えに私は唖然としてしまった。
「えっ、いやだから、私は女で」
「それがどうしたのですの。女だろうが男だろうが関係ありませんわ。私はセラフィ様の物になりセラフィ様は私の物なのです」
目をギラギラ輝かしてヴェルネリが私を見つめてくれて私は背筋がぞわっとした。
「おい、聞いたかヘイモ!」
「ああ、うちの姫様は男勝りすぎて、王子殿下ではなくて王女殿下から言い寄られるようになったんだな」
外野が何か叫んでいた。あいつらは後で百叩きの刑だ。
「ちょっとそこのでくの坊。いい加減に退きなさいよ」
「何を言うか。うちの姫様に痴女など近寄らせられるか!」
「まあ、あなた、なんで私とセラフィ様の間を邪魔するの!」
「はああああ! 姫様に変態を近付ける訳には行かないだろう」
「変態ですって失礼な。高々護衛騎士風情がバミューダ王家の王女になんて事を言うの!」
「ふんっ、そんな事言っても無駄だ。姫様が守れとおっしゃる限りお前を姫様に近付ける訳にはいかない!姫様ここは任せてお逃げください」
「お待ちになって、セラフィ様!」
私は言い寄ってくるヴェルネリから逃げ出したのだ。
何で艦の主の私が逃げないといけないのかとも思ったが、貞操の危険を感じて私は逃げ出した。
「ギャーーーー」
後ろでアードルフの悲鳴が聞こえた。
私は逃げながら心の底で被害に遭ったアードルフに謝っていた。
ここまで読んで頂いて有り難うございました。
セラフィは女の子の間で大人気です!
続きはユバス本星の予定です。
お楽しみに








