騎士の独り言 王女の騎士になったら心配ごとが増えました
俺はアードルフ・エスコラ、姫様、すなわちセラフィーナ殿下の護衛騎士だ。
この時代の騎士は太古の騎士と違って、馬の代わりに人型の基起動歩兵と言われる兵器を駆って宇宙を飛び回る者の事だ。
俺は親父もそうだったから、小さい時から騎士を目指していた。
俺の親父は近衞騎士で陛下の護衛の1人だった。
でも、俺は近衛になるのではなくて、出来たら強い隊で切磋琢磨して自分を磨きたかった。
我が国には2人の王女殿下がいるが、本来は近衞騎士は花形なのかもしれないが、そんな軟弱な奴らの中で仕事はしたくなかった。
ユバス王国では操縦シミュレーションの大会が多々あって俺はそこで結構頭角を現していた。
その金髪碧眼の女の子に会ったのもそんな大会の中でだった。
最初は全く俺の相手にもならなかった。確か俺が12歳の時だったと思う。
こんな小さいガキも出ているんだと俺は驚いたのを覚えている。
次に14歳で会ったときはその子はそこそこ出来るようになっていた。
まあ、俺の敵ではなかったが……
そして、その次の16歳で会った時だ。
俺はその少女に初めて負けたのだ。
俺はとてもショックを受けた。
たまたまだと思いたかったが、負けたのは事実だ。
女に負けるなんて初めてだった。
そのショックを引きずったまま、俺は騎士に就くために親父に連れられて王宮に行った。
王女の護衛騎士に若手の騎士を求めているとのことだったが、俺は近衞騎士なんてなりたくなかった。
親父にはいやだとごねていたのだが、一度でいいから来いと言われて親父の顔を立てるために仕方なしについていった。顔だけだして、すぐに断って帰れば良いだろう。あの子に負けたままでは男が廃る。絶対に再戦して、今度こそ勝ってやると俺は心に決めていた。
「あなたがアードルフ・エスコラね。あなたの事は良くあなたのお父様のエスコラから聞いているわ。あなたには是非とも私の隊に入ってほしいと思うのだけどどうかしら?」
セラフィーナ王女殿下は14歳と言う事だった。
見た目はとても可愛い女の子だった。
でも、それがどうした?
俺は起動歩兵を駆って宇宙を駆け巡りたいのだ。
「殿下、お言葉ですが私は殿下の護衛騎士にはなりたくありません」
俺ははっきり断った。
「こら、アードルフ! いきなり何を言い出すんだ?」
親父が俺を睨み付けてきたが、俺は親父の言う事を聞く気はなかった。
「俺は強い隊に入りたいんです。申し訳ありませんが、殿下の護衛騎士になってちまちまお守りするのは性に合わないんで」
「アードルフ、殿下になんて口をきくんだ。殿下、申し訳ありません」
親父が俺を窘めて殿下に謝っていたが、俺は信念を曲げるつもりはなかつた。
「良いのよ。エスコラ。でも、私の隊はちまちまはしていないと思うの。宇宙に出るのは確実よ。それでもいやなの?」
セラフイーナ殿下の言う事がよく判らなかった。王女殿下が宇宙空間に出るなんて他の星の王族に外交目的で出るという事だろうか?
でも、俺はそんなお飾りみたいな騎士はいやだった。やるなら海賊退治とかもっと実践的な部隊に配属されたかった。
「俺は強い隊の中で切磋琢磨したいのです」
「私も結構強い者達を集めようと思うんだけど、あなたが最初の1人では駄目なの?」
王女はなかなか強情みたいだった。
俺はいい加減に反論するのが面倒になってきた。
「じゃあ、殿下、あなたが俺に勝てれば部下になっても良いですよ」
俺は王女を見つめて言った。
「こら、アードルフ、なんて口をきくんだ」
親父が注意してきたが、俺は自分の考えを曲げるつもりはなかった。
でも、その瞬間王女の目が光った気がしたんだけど、何故だ?
「それは本当なの?」
「はい。騎士に二言はありません」
俺がそういった時だ。王女は笑ってくれたのだ。
俺はまだ騎士ではないけれど、心は騎士なのだ。
それを笑われたのか?
俺はむっとしそうになって、その瞬間、俺はその笑顔を見た気がした。
どこだっけ? つい最近だ。どこでだ!
「じゃあ、アードルフ、あなたの負けね」
王女殿下は笑って言い出した。
「何を言うんですか? 私はあなたに負けていませんよ」
「あなたいい加減に気付きなさいよ。あなた先日セラフィに負けたでしょ。セラフィは私のニックネームなのよ」
俺は王女殿下の顔を二度見した。
そうだ。この顔は俺に勝ってニコリと笑ったその女の子の顔にそっくりだったのだ。
そう言えば今は着飾って髪を下ろしているが、髪をまとめてヘルメットを被ると確かにあの女の子はセラフィーナ殿下だった。
「えっ!」
俺は開いた口が塞がらなかった。
まさか王女殿下が大会に出ていたなんて思いもしなかったのだ。
俺を見て笑う笑顔に俺は完全に負けてしまった。
以来、俺は姫様の護衛隊長だ。
姫様は最初の言葉にあったように専用巡洋艦を指揮して俺を引き連れて宇宙を巡ってくれた。
俺は手に汗握る体験をいやほどさせてくれた。
でも、姫様は俺に冷や汗をかかせる天才だった。
俺があまり無茶はしてくれるなと頼めば頼むほど無茶をしてくれるのだ。
俺は姫様の護衛隊長として心が安まった事は無かった。
そして、今も、ワープ前の敵船にビーナスで突っ込んでくれた。
「姫様!」
俺も追いかけようとして目の前で敵船諸共ワープ空間に消えてくれた。
ちょっと待ってくれ!
護衛を置いて一人で行くのはあれほど止めてくれと言ったのに、俺はワープ空間に消えた姫様の残像を見ていた。
「くっそう、まただ、またおいて行かれた」
俺は直ちにトレースするためにジュピターに帰った。
まあ少し待てばジュピターもワーブ出来るはずだと安心していた。
でも、ジュピターはすぐにはワープ出来なかったのだ……
ここまで読んで頂いて有り難うございます。
続きをお楽しみに!








