新男爵視点 莫大な借金があるのが判明して自棄になって奴隷の献上を受けたら、その船が速度超過でぶつかってきました
私はエルッキ・フッセン、従兄弟がフッセンの男爵だった。
俺の親父は前男爵とは腹違いの弟でフッセンの一地方を任されていた。まあ、一地方と言っても領地が広大なだけで人口は10万もいなかった。本当に辺鄙な土地だ。俺はそこで親父が亡くなってからその領地を継いで暇な領主の仕事をしていた。
この星全体の支配者の従兄妹のフッセン男爵とは天地雲泥の差があった。
まさか、その男爵位を俺様が継ぐことになるなんて思ってもいなかったのだ。
従兄弟のフッセン男爵が隣国のユバス王国に攻め込んで戦死したと聞いたときは俺は驚いただけだった。従兄弟は俺にとっては雲の上の人だったから、面識もほとんどなかった。
何故隣国などに攻め込んだのかは理解出来なかったが……
そして、俺はその男爵が死亡した件で、急遽領都に呼び出された。
何なのだろうか?
不安に思いつつ、領主の館に入ると、亜空間通信の部屋に連れて行かれて、そこで画面越しに皇帝陛下の側近のアンドレイ・コンドボガ補佐官からフッセン男爵位を継ぐようにと急遽拝命したのだ。
俺にはまさに青天の霹靂だった。
フッセン男爵には子供達も沢山いたはずなのだが、尽く犯罪に加担していたとかで収監されてしまっていた。
そうね親戚の中では継げるのは俺しか残っていなかったのだ。俺は親戚の中では田舎にいすぎたので、男爵達が犯した犯罪などには関与していなかった。
俺はいきなり雲の上のフッセン男爵になどなって戸惑ってしまった。
しかし、戸惑う間もなく、次から次にやることがあって俺はてんてこ舞いになった。
新男爵になって配下の者から、商人から、各地の有力者から面会以来が引きも取らずに大変だった。
前男爵の部下達の多くも犯罪に巻き込まれていて、残った部下達が必死に整えてくれていた。
そんな中、俺は領地の収入の約半分が10の銀行への支払いに充てられている事に気付いたのだ。
「これは一体どういう事だ?」
「さあ?」
俺は側近の一言にむっとした。
「さあとはどういう事だ? 収入の半分も支払えば領地は立ち居かなるだろう?」
「補佐官と銀行が何やらやりとりされて、そうするようにと指示を受けまして」
「補佐官殿が? 取りあえず銀行を呼べ」
「判りました」
側近達が慌てて動き出した。
取り急ぎその中の銀行の一つフッセン銀行の頭取が飛んで来た。
フッセン銀行と言えばこの領地で最大の銀行で昔は俺なんて到底会えない雲の上の存在だった。
その頭取が飛んで来たことに俺は驚いた。これが領主の男爵になれた特権だとほくそ笑んだのだ。
「これはこれはフッセン男爵様。このたびはフッセン男爵ご就任おめでとうございます」
頭取は丁寧に挨拶してくれた。
しかし、それに喜んでいる訳にも行かない。
「頭取、この請求書は何だ? これほどの莫大な金額を払うのは中々厳しいのだが」
「男爵様。これは異な事をおっしゃいますな。これは全て前男爵様方の借金でございます。色々と偽名も使われて我が銀行から借金されていらっしゃったみたいで、なくなると同時に判明した分をまとめさせて頂きました」
「前男爵の分を何故我がフッセン領が支払わねばならぬのだ?」
俺が疑問に思って詰問した。
「何をおっしゃるっていらっしゃるのですか? 全て領地の保証が付いておりましたから支払って頂かないと困ります」
「全てに領地の保証が付いていたのか?」
俺は呆れた。
「はい、おのおのダミー会社とかいろんな所を使っていらっしゃいましたが、相互保証もされており、まとめ上げるとこの金額になったのです」
俺は頭が痛くなった。
「もう少し待ってもらう訳には行かないか? これだけ支払うとなると領地の運営が苦しくなるのだが」
「何をおっしゃっるのですか? 我々共はこれでもとても譲歩しておるのです」
頭取はとりつく島もなかった。
「そこを年数を延ばすとか出来ぬか?」
「フッセン男爵様。言いにくいことですが、これは借金の一部でございます。全ての借金を足すと領地の10年分になります。それを200年ローンに分割させて頂いたのでございます」
「200年ローンだと?」
そんなのは聞いたことがなかった。
というかそんな金を従兄弟はどうしたのだ?
俺には到底理解できなかった。
「さようでございます。我々共はできる限り譲歩いたしました。我々共が回収を諦めて負担した分もございます。これ以上は少しも引く訳には参りません。これはコンドボガ補佐官様にも了解頂いていることでございます。何かございましたら補佐官様におっしゃってください」
俺は唖然として声も出なかった。
「一体全体従兄弟は何にそんな大金を使ったのだ?」
「さあ? それは我々は把握しておりません。おのおのの借金の明細は屋敷のローンや骨董品や宝飾品の購入の名目のローンでしたから、積み重なったのではございませんか?」
俺は頭が痛くなった。
それを残りの9つの銀行のどれもがそうだった。
帝都に本店を置く銀行も多く、銀行が言うにはまさか他の銀行もこれほど多くの借金を抱えているとは思ってもいなかったとのことだった。
借金の総額を足すと領地の収入の100年分に当たっていた。
俺はあまりのことに絶句していた。
「従兄弟は一体、何をしてくれたのだ?」
「「「…………」」」
側近達の前で俺は叫んだが、側近達も一緒に首を振るばかりだった。
その借金の金を工面するのは本当に大変だった。
他の支払いを延ばしてもらい、一部リストラして人件費を減らし、館にあるめぼしいものは売り尽くし、生活をとても質素に変えた。でも、全てが焼け石に水だった。
俺が憔悴しきっているときだ。
ユバスの一領主が俺に面会を要請してきた。
俺はこの忙しいときに他国の領主が何だと怒鳴りそうになったが、側近が言うにはフッセン男爵はこの辺りの盟主で、サーリアの領主もその配下の1人だという事だった。
「何か貢ぎ物があるのかもしれません」
側近の一言で、俺はその男と亜空間通信越しに面会した。
男が言うには就任祝いに見目麗しい女奴隷どもを献上したいとの事だった。
側近に確認したところ、従兄弟は良くその領主から奴隷を買い取っていたとのことだった。
何でも、その領主から手に入れた奴隷を極秘に帝国貴族に販売して利益を得ていたらしい。
俺は考えた。
帝国では奴隷販売は禁止されていた。だから奴隷は莫大な金で売れるそうだ。
それを借金返済に一部でも宛てられれば借金が減らせられるのではないかと側近が言い出したのだ。
少なくとも今年の分の一部に宛てられれば一息つけるはずだ。
「そのついでに奴隷の味美をされたらどうでしょう」
俺はそうだなと思ってしまったのだ。
こんな苦労をさせられているのだ。少しくらいいい目を見ても良いだろう。
そう思った俺が馬鹿だった。
俺はその領主と極秘に会うために、宇宙ステーションの領主専用の第25番デッキで会うことにした。
俺が待っているときだ。
そこに速度超過した宇宙船が飛び込んできたのだ。
船はデッキの中にぶつかって俺がいた出迎えゲートを破壊してくれた。
「ギャーーーー」
俺は衝突のショックで意識を失っていた。
ここまで読んで頂いて有り難うございました。
男爵の極秘裏の借金は何に使われたのか?
続きをお楽しみに!








