側近の独り言 大学にいたら、王女殿下の家来にスカウトされました
「あなた、私の為にその力を貸して下さらない?」
「はいっ?」
俺はいきなり10歳くらいの女の子にそう言われて目を見開いた。少女はとても高価そうな衣装に身を包んでいた。
俺は少女が何をいきなり言い出したか、理解できなかった。
それが俺と姫様との出会いだった。
俺はヨーナス・パーヤネン、今は姫様の一の側近だ。
これを言うといつもアードルフとどちらが姫様の一の側近かと喧嘩することになるのだが……
23世紀にワープ航法が開発されて人類が太陽系外に進出しだした。俺の先祖はその時に一攫千金を狙って太陽系外に向かったそうだ。
今は帝国領になったその地で先祖は懸命に働いたが、しょせん庶民は庶民のまま、一攫千金は叶わなかったみたいだ。
俺の家は帝国の中では普通の庶民だった。
帝国は基本は中央集権国家で中央の皇帝直轄地と地方の征服した領地は男爵や子爵に与えていた。
俺の生まれた地も第二次宇宙大戦の時のあとのゴタゴタで最終的に皇帝直轄地に編入された。
俺の両親はその時の戦闘で死んだそうだ。幼かった俺は孤児院で育てられた。親の顔なんて覚えていなかった。
孤児院出身だった俺だが、成績だけは優秀だったので俺は帝国の三大工科大学の一つガンダルヴァン工科大学に入学できた。帝国は奨学金制度が整っていて、孤児院出身のおれでも不自由はしなかった。
それよりは俺は寮の部屋が個室だったのに歓喜した。孤児院でも高校の寮でも、俺はいつも相部屋だったのだ。これで何でも好きなことを何時でも出きる。これ程嬉しいことはなかった。
そして、初めて手に入れたゲーム機で、俺は戦略シミュレーションゲームにはまってしまった。これは軍を指揮して、敵を破るゲームでこのゲームで実績を上げたら、帝国軍からスカウトが来ると噂のゲームだった。
俺は授業にも行かずにゲームに熱中したのだ。朝から次の日の朝までゲーム三昧だったこともある。このままではさすがに退学になるのでは無いかと能天気な俺も危惧し出した時だ。
学内でそのシミュレーションゲームの大会があった。そこで優勝できたら一年くらい遊んで暮らせる賞金が出る。例え退学になってもその間に次の生活を考えれば良いだろう。俺は取り敢えず賞金を稼ぐためにその大会に出ることにした。
俺は運も良かったのか大会で決勝まで残れた。決勝の相手は同じ学科で貴族の息子のマイニオだった。こいつは貴族だと言うのを鼻にかけたとてもいけすかない野郎で、俺としては絶対に勝ちたかった。
マイニオはここまで課金で兵士達に武器や防具を買い揃えて最強の軍にして勝ち進めてきた。金だけをかけてきた、本当に成金プレイヤーだった。
まあ、金の無い貧乏人の俺が、本来ここまで勝ち進めて来れたのが奇跡だったのだが……
俺は金はないので、プレイヤー皆に平等に支給される支度金で、首都の街の壁を出来る限り高くして、人力で堀を何重にも掘らせて、間に柵をこれでもかと設けさせた。そして、兵士達には必死で弓を訓練させた。
「ねえ、見てよ、ヨーナスったらお金がないからって必死に弓兵訓練させてるわ」
「本当に貧乏よね。よくここまで来れたわね」
「それになんなの兵士達の装備、ほとんど何もないじゃない」
「重装備で揃えられたマイニオ様の敵じゃ無いわね」
俺は周りの観客達からなんと言われようがどうでも良かった。
余った支度金で多くの馬を買ったのだ。それに兵士達を乗せて軽騎兵にした。
「ねえ、何あの騎士、マイニオ様の騎士達に比べたらなんて貧相なの?」
「防具も武器もほとんど無いじゃない」
「これではマイニオ様の敵じゃ無いわ」
「あっという間に勝負がつくんじゃない?」
周りの奴らは好き勝手に言ってくれたが、俺としては負けるつもりはなかった。
ゲームが始まると俺はまず、城の周りの人間を食料を全て持たせて、首都の城壁の中に入れた。これでマイニオの部隊が物資の徴発をしようにもできないようにした。
その後はひたすらマイニオの軍隊とぶつかるのは避けて、軽騎兵で、その補給部隊を襲ったのだ。軽騎兵と言えども、補給部隊相手には強かった。軽騎兵の偵察部隊を数多く派遣していたから、補給部隊の位置は手に取るように判っていた。だから瞬く間にマイニオ軍の補給線は絶たれて、俺の首都を包囲していたマイニオ軍はたちまち餓えたのだ。敵兵の士気は地に落ちた。
「卑怯だぞ、ヨーナス!」
「なんなのよ、これは?」
「軍を餓えさせる作戦を取るなんて、まともな男のやる事じゃないわ」
マイニオや周りの取り巻き達は俺の悪口を言ってくれたが俺は一切気にしなかった。
俺はやむを得ず撤退を始めたマイニオ軍を途中で襲って、完璧なまでに叩いたのだ。
俺の圧勝だった。
「こんなの勝負じゃないわ」
「こんなの反則よ」
俺は非難轟々だった。
そんな時だ。俺が、姫様に声をかけられたのは。
「おい、見てみろよ。ヨーナスなんて卑怯な野郎は、ガキにしか相手をしてもらえないぜ」
「本当だな。お嬢ちゃん。そんな卑怯な奴の力なんて借りてちゃダメだぜ」
マイニオが、俺に声をかけてきた少女に横から口を出してきた。
「力なら俺が貸してやるから、そんな男からは離れな」
マイニオが少女の手を引こうとした。
バシン!
少女はそのマイニオの手を叩いたのだ。
「き、貴様、何をしやがる!」
「ふん、お金しかない能無しには私は用は無いわ」
毅然として少女は言いきってくれた。
「その点、ヨーナス、あなたは素晴らしいわ。金持ちボンボンの軍隊を金を使わずに完璧なまでに叩き潰すなんて。私がほしいのはあなたのその軍才よ」
俺は今までそんなふうに褒められたことなんてかつて一度もなかった。
「姫様、この様なところにいらっしゃったのですか? お探ししましたぞ」
そこに慌てて、駆け寄ってきた立派な服装をした騎士達に俺たちは驚いた。
姫様と呼ばれるなんて、皇女殿下か、他国の王族だ。
少女に手をあげようとしていたマイニオは慌てて、逃げ出した。
そして、俺はそのユバス王国の姫君の参謀になったのだった。
俺はユバス王国がここまで小さな国だとは思ってもいなかったし、姫様のくれる給与はとても少なかったが、姫様は俺の才能を見つけ出してくれたのだ。
俺はこの時に一生涯、姫様のそばに仕えると心に決めたのだった。








