仇討ちできてお酒で乾杯したら意識をなくしてしまって補佐官に苦労をかけました
私はフッセン男爵に圧勝した。
フッセン艦隊をボニフアーツの最終兵器で殲滅した。
さすがマッドサイエンティストのボニファーツが作り出した最終兵器、自信作だけあって凄まじい破壊力があった。
強大な戦力を誇る帝国の男爵をやっとやっつけられた。
スージー、やったよ! やっとスージーの仇を討てたよ!
私は心の中でスージーに報告した。
私の目には一筋の涙があった。
私は5歳の時に無礼打ちで斬り殺されたスージーの仇を討ててほっとした。
王女としても中継惑星サーリアの民を食い物にしていたフッセン男爵家の艦隊を完膚までに叩けて良かった。
私はスージーと約束した、民の為に頑張る良い王女としてまだまだ足りない点は多々あるが、私なりに行動したという自覚があった。
特にフッセン男爵によって食い物にされていたサーリアの民のために頑張って働いたと思っていた。
「いやあ、殿下。さすがでございます。帝国軍を殲滅して頂けるとは。本当にここまで完勝されるとは思ってもいませんでした」
ジュピターでサーリアに帰ると領主代行になって行政を代ってもらったクフモ男爵が諸手を挙げて私を迎えてくれた。
「あっ、殿下だ」
「帝国軍に勝った殿下だ」
「セラフィーナ様!」
私を見つけて歓声を上げてくれる民に私は手を振って応えた。
一緒に戦った兵士達も高揚して歓声には手を振って応えていた。
しかし、別室に入った途端にクフモは父からの召喚状を渡してくれたのだ。
そこには「戦が終わったのならばすぐに帰ってこい」と書かれていた。
「陛下は姫様が返事されないので相当お怒りなのではないですか?」
艦長の言葉に私は頭が痛くなった。
でも、この国の国民のために仕方なしに戦ったのだ。
それで呼び出されて叱責されたらたまったものじゃない!
まあ、サーリアの復興はまだ始まったところだったが、フッセンの敵を叩き潰した今となっては我が艦がこの地にいなくても少しも問題はないと言えたんだけど……怒られる未来しか見えなくてあまり本星には帰りたくなかった。
「スージーの墓参りにでも行こうかな」
私は自分の心を誤魔化すために、仇を討った事を墓前に報告しに帰るのを本星に帰還する主目的にすることにした。
私は戦勝に騒ぐ兵士達のために、出航は翌朝にして、その日は街に繰り出す兵士達を見送ったのだ。
私としては、父と会う事を考えると億劫になって、皆と騒ぐという気分でもなくてジュピターの自分の部屋のベッドに寝転がって空を見ていた。
ジュピターの私の部屋はボニファーツが電気を消せばプラネタリウムになるようにしてくれていた。
昔、小さい頃、一度スージーに夜空を見たいと無理を言って見せてもらったことがあったのを思いだした。王宮の私の部屋のベランダは明かりが明るすぎて星は見えなかったので、わざわざ隣のあまり使っていない白い塔に連れて行ってもらったのだ。
少し寒くなり出した季節でスージーは私に一杯服を着せて、私を抱っこして連れて行ってくれた。
ユバスのあるヤムサ太陽系は多くの時期は暗黒雲に囲まれてあまり星は見えないのだが、その時は丁度暗黒雲が少なくなっている時だった。
私は大きく光っている恒星カンノンを指さして、いつか必ず、このカンノンに行くと宣言したのだった。
「姫様、そのカンノンには栄えている中継惑星のサーリアがあるそうです。姫様が行かれるなら、その星に是非とも私も連れて行ってくださいませ」
スージーがそう言ってくれたことを覚えていた。
「スージー。私は今そのサーリアにいるよ」
そう呟いた私の瞳から一筋の涙が流れ出た。
せっかくサーリアに来たのに、スージーを連れてくることは出来なかった。
そして、もう二度と会えないのだ。
「姫様、大丈夫ですか?」
私はいきなり声をかけられてぎょっとした。
慌ててベッドから起き上がるとそこにはヨーナスが液体を入れたグラスを二つ持って佇んでいた。
「ヨーナスか」
私は指を振ってライトをつけた。
「私で悪かったですね」
むっとしてヨーナスが私を見てきたが、
「いきなり部屋にいたから驚いたのよ」
私が説明したら、
「すみません。何回もノックしたんですよ。返事がないからどうされたのかと少し心配になって」
「ゴメン、ちょっと考え事していたから。それより、どうしたの、何か用?」
私が聞くと、
「いや、艦橋に残って仕事していたらアンネが私の事を見て聞てほしいって言って来たので」
「何だ。用があったんじゃないんだ」
私は拍子抜けした。
「用は色々ありますよ。姫様が陛下から召還命令を受けて落ち込んでいらっしゃるかと思いまして、お慰めしようと来たのです」
「別に父上に叱責されるのはいつものことだから慣れているわよ」
私が強がると
「そうですか?」
疑り深そうにヨーナスを私の顔を覗き込んでくれた。
「私は別に大丈夫よ。それよりもヨーナスは皆と街に繰り出さなかったの?」
私が強引に話題を変えたら、
「私は色々と仕事が溜まっていましたから出られなかったんです」
ぶすっとヨーナズか答えてくれた。
「えっ、ゴメン、皆が騒いでいるのに一人だけ仕事させてたのね」
私が慌てて謝ると
「まあ、仕事だから良いんですよ。本星の状況も気になりますし」
「本星の状況って、父上はやはり怒っているわよね?」
私が心配になっててき聞くと、
「そらあ、怒っておられるでしょう。姫様は陛下の許可も取らずに勝手に戒厳令を出されるわ、勝手に帝国の艦隊と戦われるわ、怒られない理由を探すのが難しいです」
ヨーナスは私が忘れていたいことを無理矢理思い出させてくれた。
「だって、許可を取る暇も無かったのよ。でも、父上が怒っているのなら、なんかもう、帰りたくないんだけど」
私は夜逃げしたくなった。
「この船で逃げ出しますか? 帝国でも連邦でも引く手あまただと思いますけど」
ヨーナスが魅力的なことを話してくれた。
「確かに何やっても怒られるこの国はいやだけど……私はこの国の王女なんだから逃げ出す訳には行かないわ」
一瞬夜逃げしたくなったが、私が諦めると、
「スージーさんとのお約束があるからですか?」
ヨーナスが確認するように聞いてきた。
「うーん、それもあるけれど、私はこの国の王女なのよ。この国の民が汗水垂らして働いてくれたお金で贅沢しているんだから、逃げ出す訳にはいかないわ」
「でも、この船の建造費も運用費も国からは一銭も受け取っていませんよ。ほとんど姫様がご自身で稼がれたお金を使っているではありませんか」
ヨーナスが呆れてくれたが、
「うん、でもまあ、王女として生を受けたからには仕方が無いわよ。王女である私がこの国を捨てて逃げ出す訳には行かないわ」
私は首を振った。
「もっと自由にされても良いと思いますけどね」
「十分に好きにさせてもらっているわよ。皆のお陰でフッセン男爵をやっつけられてスージーの仇も討てたもの」
私の言葉にヨーナスは首を振っていた。
「じゃあ、姫様、スージーさんの仇を討てた姫様に乾杯しましょうか」
ヨーナスが私を慰めるためかグラスを差し出してくれた。
「えっ、祝ってくれるの?」
「私は姫様の僕ですから」
私はヨーナスからグラスを受け取った。
召還令で少し落ち込んでいる私の為にグラスを差し出してくれるヨーナスの気持ちが少し嬉しかった。
「姫様の仇討ちに乾杯」
「乾杯!」
私はヨーナスとグラスを重ねた。
そして、私はその赤い液体を一気に飲み干したのだ。
そうしたら何かとても陽気な気分になった。
「ヨーナス。何か、とても良い気分になってきたわ」
私が言い出して
「えっ、姫様、このお酒ちょっと度数が高かったんですけど一気飲みしたんですか?」
ヨーナスが少し青くなったけれど、私は気にしていなかった。
「ヨーナス。もっと!」
私はヨーナスに絡みだしたのだ。
いや、相当ヨーナスに絡んだらしい……
でも、その夜はとても楽しかったという記憶しか私には残っていなかった。
翌朝凄まじい頭痛がして大変だったけれど……
ここまで読んで頂いて有り難うございます
セルフイーナは絡み酒みたいです……








