帝国男爵視点 皇帝陛下から奴隷取引について詰問されたので、小娘諸共証拠を隠滅するために艦隊で出撃することにしました
儂はいらいらしていた。
元々ユバス王国など帝国の儂が本気で息を吹けば飛んでいきそうな小国だ。
その小国の小娘が儂が惑星サーリアに投資していた物件を次々に接収しているとはどういう事だ?
オスモに渡した奴隷館は火山の爆発で跡形もなくなり、そこに閉じ込めていた奴隷共は小娘に接収された。
海賊『辺境の赤ひげ』も小娘に撃沈されて、売り上げがなくなってしまった。
更にはサーリアにたまたまいた商船3隻、向かわしたフリゲート艦1隻、千名ほどの人間がが拘束されてしまった。
売り上げも減るし、人も減るし踏んだり蹴ったりだった。
ユバスの外務卿のオイカリネンに文句を言っても
「殿下には注意しているのですが、全く聞く耳を持たれずにどうしようもありません」
と全く相手にならなかった。
まあ、致し方ない。
こうなれば仕方が無いだろう。
儂は暗部の長のフーバーをサーリアに送り込んだ。
フーバーは儂が小さい時から儂付きでその能力は暗部の中でも抜きん出いた。
昔、儂に髪の毛が触れたと言うだけでユバスの侍女を手打ちにしてくれたこともあった。
あまりにしつこいと儂が少し怒っていたのも考慮に入れてくれたのだろう。
しかし、今の現状を見ると、その侍女を殺すのではなくてその侍女に命じた王女を殺すべきだったのだ。
殺す対象を間違えてしまったようだ。
儂はフーバーが生きたまま小娘を連れて儂の所に帰って来るのは当然だと思っていた。
「閣下、大変です」
そこに執事のボンドが部屋に駆け込んできた。
本当にこいつは落ち着きがない。
何にそこまで驚いているのだ?
「どうしたのじゃ?」
「ヘ、へい……」
咳き込んでいてよく聞こえなかった。
「落ち着け、ボンド!」
儂は執事を落ち着かせようとした。
「これが落ち着いていられますか! 皇帝陛下より通信が入っております」
「な、なんじゃと、それを早く言え」
俺はその言葉に目を見開いた。
皇帝陛下から連絡があるなど、余程のことだ。
儂は執務室から文字通り飛び出したのだ。
慌てて通信室に飛び込む。
「陛下におかれましてはご機嫌麗しう」
儂は通信室に入るなり、そこに待っていた皇帝陛下に跪いたのだ。
既に陛下は50だが、昔の美貌を思い起こすには十分な雰囲気を醸し出しておられた。
銀河帝国皇帝エカチェリーナ陛下は帝位を継がれたのは25の時だった。今では在位25年だ。
即位当時、陛下は若いし女帝だったので、銀河連邦は皇帝陛下を甘く見たのだ。
懸案事項だった領土問題など、陛下の即位を良い機会だと捉えて、一気に無理難題を帝国に主張してきた。
それと同時に艦隊を国境に集めて帝国に圧力をかけてきた。
それに対して予想だにしなかったことだが、皇帝陛下が親衛艦隊を率いて親征されたのだ。
300隻もの大艦隊を終結していた銀河連邦軍は皇帝陛下率いる100隻の奇襲を想定していなかった。陛下の圧勝だった。
そのクーサモの会戦の大勝を手始めに第二次銀河大戦が始まり、破竹の勢いで帝国軍が戦勝を続けた。過半を占めていた銀河連邦は大敗、領地が半減したのだ。
以来、在位25年、皇帝陛下は帝国の中興の祖と呼ばれていた。
普段は温和な方だが、怒らせると廷臣の首がいくつも飛ぶのだ。
とある帝国侯爵が遅刻したが故に領地を半減されたこともあったという。
儂は少しでもご機嫌を取ろうとした。
「フッセン、私はご機嫌は麗しくないぞ」
しかし、銀河帝国女帝陛下は不機嫌そうに鼻をならされた。
「申し訳ございません。呼ばれましたのに時間がかかりまして」
儂は必死に言い訳しようとした。
「そうでは無いわ。近頃その方の良くない噂が余の耳に入ってきての」
「申し訳ありません。どのような噂が入ってきたかは存じ上げませんが、陛下の御不興を買うような噂が流れたこと自体が、臣の不徳のいたすところでございます」
儂は土下座せんばかりに頭を下げた。
「その方、まさか余に隠れて奴隷取引に手を出しているのではあるまいな。余は全ての帝国の臣民に銀河法に則って奴隷を扱ったり取引したりすることを禁じたはずだが」
じろりと陛下の眼光が儂を睨み付けた。
儂は脂汗がだらだら出た。
「滅相もございません。そのような事実は全くございません」
「ほおおおお、そちはそのように言うのか? 火のないところに煙は立たぬと聞くが」
儂が否定したのに、陛下は信じてくれなかった。
「全ては臣の不徳のいたすところでございます。ただ、陛下におかれましては今までの忠義に免じて、それがしを信じて頂きたいとただただ願うばかりにございます」
陛下は儂を頭の上から下まで見つめられた。
「良かろう。その方を信じよう」
陛下がそうおっしゃられて儂はほっとした。
「有り難うございます」
「ただ、フッセンよ。その方が奴隷を扱っていると噂を流している輩がおる。どちらが正しいか、早急にはっきりさせるが良いと思うぞ」
「はっ、直ちに行動に移します」
「そうじゃな」
そう言うと皇帝陛下は画面から消えた。
儂はほっとした。緊張が切れて思わずその場に膝をついていた。
「閣下、大丈夫でございますか?」
周りの騎士が儂に手を貸してくれた。
「ほんに陛下のお相手は疲れるわ」
私は早急に手を打たねばならんと思いついた。
「フーバーからの連絡はまだか?」
儂が聞いたときだ。
「陛下大変でございます」
そこにまたしてもボンドが飛び込んできた。
「今度はどうしたのじゃ、ボンド。また火山でも噴火したのか?」
その噴火で小娘が死んでくれれば万々歳なのだがと良からぬ事を儂が考えたときだ。
「フーバー達が全滅したとのことでございます」
「なんじゃと、奴には25名も暗部をつけたのじゃぞ」
儂は目を剥いた。
あれだけいれば小娘を始末するなど赤子の手をひねるより簡単だったはずじゃ。
儂には信じられなかった。
「王女を襲撃に暗部25名が向かったそうですが、一人として戻って来なかったようです」
ボンドは信じられない報告をしてくれた。
「おのれ小娘め。もう許さん。ボンド、艦隊を終結させろ。できる限りの艦船を率いて儂自らサーリアに向かうぞ」
儂は宣言した。
小娘は高々巡洋艦1隻だ。我が国の戦闘艦だけ集めても旧式の戦艦フッセンを中心に巡洋艦2隻駆逐艦22隻あった。我が艦隊は戦闘艦だけで合計25隻あった。それだけで攻め込めばサーリアの小娘など殲滅するのも容易かろう。
奴隷取引をしていた証拠諸共小娘を抹消することにしたのだ。
ついに帝国の艦隊がサーリアに襲撃します。
ただ一隻で大艦隊に勝てるのか?
続きをお楽しみに








