良い王女になろうと日々努力していたら老婆にナイフで突き刺されました
「スージー!」
私はベッドから飛び起きた。
寝汗をかいていて汗だくだった。
昔の夢だった。
最悪の……
私は小さい時は本当に生意気なお子ちゃまだったと思う。
何しろ王女様だ。
周りからはとてもちやほやされていた。
まあ、我が家は秩序に煩い東欧出身の帝国系とは違って身分差に緩い西欧諸国の中の出だったからそれほど身分差については煩くなかったけれど。でも、それでもこの国で一番偉い王族だというのはその時には既に頭にあった。だから基本は何をしても許されると思っていた。
私には妹が一人いたが、妹は何もない私と違って聖なる力を持っていた。
聖なる力がなんなのかは幼心にも良く判らなかったけれど、周りからは特別扱いされていた。
両親も妹に構って私は侍女任せだった。
それに対しても反発心もあったのだと思う。
まだ甘えたい盛りだったのに、母も父も妹大事だった。
「こんなの美味しくない!」
「こんなまずい物を食べさせるコックなんて首にしてよ」
と私は平気で命令して周りを困らせたり、スープをこぼしてくれた侍女を叱責したこともあった。
そんな時には私の侍女のスージーが言葉を尽くして私に注意してくれた。
でも、我が儘な私はスージーの言う事があまり良く判らなかった。
スージーにも散々我が儘を言っていた。
その日は初春なのに、とても寒かった。
私は無性にイチゴが食べたくなった。
妹がイチゴ農家からイチゴを献上されたて食べていたというのもあった。
イチゴは赤みがかってとても美味しそうだった。
私も少しくらい食べられると思っていたのに、妹が全部食べてしまったのだ。
私はそれをみて、ヒステリーを起こした。
「イチゴが食べたい!」と。
父と母は我が儘言わないで我慢しなさいとしか言わずに、私の言うことは聞いてくれなかった。
私はその時に我慢すれば良かったのだ。
でも、子供心に妹ばかり贔屓されるのが許さなくて大声で泣きわめいた。
「スージー、この子を下がらせて、きちんと言い聞かせなさい」
母はお手上げだと言わんばかりに私の侍女に任せた。
部屋に下がっても私は大声でわめき続けていた。
コックが厨房からイチゴを持って来てくれたが、
「こんな小さなのではいやだ!」
とそれを投げ捨てていたのだ。
本当に私の黒歴史だった。
見かねたスージーが、
「姫様。少しお待ちください。イチゴを手に入れてきますから」
スージーが申し出てくれた。
「えっ、本当に?」
現金なもので私は泣き止んでいた。
「だから姫様、良い子にして待っているのですよ」
「判った」
私はスージーに頷いた。
私はスージーを待っている間、本を読んでいた。
その話は機動歩兵を駆る勇者がお姫様を悪徳皇帝から助けるお話しだった。
我が国の建国神話だ。
聖なる姫を初代国王陛下が帝国の皇子と争ってかっ攫ってきたお話しだ。
私は乙女心に、何故か小さい頃からこのご先祖様みたいに格好良い騎士になると決めていたのだ。
男でもないのに!
私は女だてらに剣術も機動歩兵の操作方法も私は習っていた。
それさえしていれば静かにしているので、私の事をあまり気にしていなかった父と母は黙認していた。
でも、待てども待てどもスージーは帰ってこなかった。
いい加減に私が我慢出来なくなったときだ。
王宮の入り口が騒がしくなった。
なんだろう?
私は慌てて駆け出したのだ。
しかし入り口で私は固まってしまった。
「す、スージー!」
そこにはバッサリと切られて血だらけのスージーが担架に乗せられて運ばれてきたのだ。
「スージー、どうしたの?」
「姫様、近寄っては行けません」
「誰だ。姫様を連れてきたのは?」
私は止めようとする侍女や騎士達をくぐり抜けてスージーに抱きついたのだ。
もう、きれいな服が血まみれになろうがなんだろうが関係無かった。
「姫様。頑張って立派な王女様に…………」
スージーはそこで事切れていた。
「スージー!」
私は大声で鳴き叫んだ。
「いや、スージー、生き返って、私は二度と我が儘言わない。だからお願いよ。生き返って!」
私が泣き叫ぼうが、神に祈ろうが二度とスージーは目を開かなかった。
私はその時に心に決めたのだ。
スージーの言ったような立派な王女様になるって。
だってスージーは私の我が儘を聞こうとした為に殺されたのだ。
だから私はもうそうなるしか、手がなかった。
生きていれば謝れば良いけれど、スージーは死んでしまったのだ。
もう謝ることも出来ない。
「イチゴなんて手に入れに行かなくて良いから私の傍にいて!」
私はそうスージーに言えば良かったのに!
我が儘だった私が悪いのだ!
「姫様。姫様は人の上に立つ方です。領民達が税金を払ってそのお金で贅沢な暮らしをしていらっしゃるのです。でも、その贅沢できる分、その領地の民が困っていたら助けてあげないといけませんよ。そのために領民は姫様達に税金を払っているのですから。特にお年寄りや小さい子には優しく接してあげてくださいね」
その時は意味はよく判らなかったけれど、その日から私は心を入れ替えてそうなろうとしたのだ。
宇宙ステーションを地上に激突させたり、流星雨を惑星に降らせたり、火山を爆発させたりしたけれど、決して自分でやろうとした訳ではなかった。
私は良い王女になりたいのだ。
いつも上手くいかないけれど、いつかは必ずそうなれるはずだ。
だからその日も目の前で転けたおばあちゃんには駆け寄って助けてあげたのだ。
「おばあちゃん大丈夫?」
そう言って私は手を差し出した。
今日もスージーの言ったように自然に出来ていると思ったときだ。
いきなりその老婆が私に向けてナイフを突き刺して来た。
そんなことになるなんて予想だにしていなかった。
あっと気付いた時には私は胸に凄まじい衝撃を受けていた。
民の為に日々努力しようとするセラフィーナ。
そのセラフィーナの仏心を逆用した帝国の暗部!
神はいないのか?
続きをお楽しみに!








