帝国男爵視点 小国の王女を直接捕まえてやろうと決意しました
儂はエグモント・フッセン男爵だ。
高々男爵だと申したのは誰じゃ?
儂はユバスや近隣の小国の男爵ではない、銀河帝国の男爵様なのだ。他の小国の男爵とは格が違う。
何しろ銀河帝国は人口だけで千億おり、我が男爵家の領土には一億もの民がおるのじゃ。
そう、儂が一億の平民どもの領主様なのじゃ。一億の平民達の死生は儂が握っておる!
当然見目麗しい女は人妻でも儂の者じゃ。儂に逆らう平民どもは男は処刑か奴隷に、女は性奴隷か、娼婦、あるいは奴隷の世話係の飯炊き女にしてやれた。
この200光年四方では一番偉いのは儂じゃ。
だが、たまにその常識の通用せん愚か者が出てくるようじゃが……
最近儂のテリトリーに生意気な女が出てきおったそうじゃ。まあ、しつけが足りん平民に毛のはえた程度の小国の王女じゃ。儂が自ら調教すれば良い声で泣くじゃろうと、儂の元に送れと辺境の領主に命じた。間も無く送られてくるじゃろう。
どのように泣かしてやるか、楽しみじゃ。
そう思い、待っておった。
「親方様、大変でございます!」
執事の一人が慌てて走ってきおった。廊下を走っては行けないと小さい頃に習わなかったのか? 儂は情けなくなった。
「何事じゃ、騒々しい」
「申し訳ありません。親方様にお願いしてサーリアに派遣していただいた暗部でございますが、消息をたちました」
「今、なんと申した?」
儂は驚いた。執事が言うには、サーリアには10人もの暗部を派遣したのじゃが、その者達からの連絡が途絶えたというのじゃ。
「10人も一度にやられる訳はなかろうが。オスモからは何か申してきたのか?」
儂が確認すると、
「それがオスモからも連絡がつかなくなったのです」
儂は頭が痛くなった。高々辺境の王女を一人連れて来いと申しただけで、何故10人以上の者が連絡がつかなくなるのじゃ!
暗部も暗部では無いか!
「どうなったかすぐに調べさせろ」
「はっ、直ちに」
執事はすぐに出て行った。
さすがの儂も廊下を走るなとはもうよう言えなんだ。
執事に任すだけでは心許ないので、サーリア周辺の儂の知り合いの貴族や商人達にも確認させた。
その結果は芳しくなかった。
やはりオスモなる辺境の田舎者なんぞに任せたのが間違いじゃった。
奴は辺境の王女を捕まえるのに失敗したばかりか、反撃されて領主館は炎上。
オスモ始め多くの者が捕まったそうだ。
本当に情けない。高々一人の女も捕まえられないとは……
わざわざ護送のために派遣した暗部も連絡は入らなかった。
どうやら一緒に捕まったようじゃ。
挙げ句の果てにサーリア山まで何故か噴火して街は大災害になったそうだ。
そのお陰でサーリアに儂が投資していた貸金屋や質屋、奴隷商館など多くの建物が破壊された。
お陰で、借金で首が回らなくなった女達を中心に20名のほどの奴隷に落としたと聞いていたのも、行方が判らなくなっていた。売り先まで既に声をかけ出していたのに、大損害じゃ。
こうなれば早急にオスモの代わりのサーリアの領主を決めねばなるまい。
復興需要もあるだろう。私は早急に儂の息のかかった建築屋をサーリアに派遣するとともに、状況把握のために人員を派遣した。
そんな中、儂は高速通信をユバス王国のオイカリネン外務卿に繋いだ。
「これはこれはフッセン男爵様におかれましてはご機嫌麗しゅう」
オイカリネン外務卿は揉み手もせんばかりの表情をしてくれたが、
「機嫌が良い訳はなかろう。オイカリネン!」
儂は不機嫌さを前面に押し出した。
「以下がなされたのですか? 閣下」
白々しくオイカリネンが尋ねてくれた。
「サーリアで災害が起こったであろう」
「さようでございますな。サーリア山が噴火いたしまして」
「その前にそちらの王女が暴れてくれたそうではないか」
儂はオイカリネンを睨み付けた。
「ああ、あの跳ねっ返りの王女殿下ですな。我が王国でも持て余しておりまして」
「持て余して、儂の配下に手を出してくれたそうだが」
「ご冗談を、閣下」
そこで平身低頭するかと思いきやなんとオイカリネンは儂に反論してきたのじゃ。
「オスモの方から跳ねっ返り王女に手を出したと聞きましたぞ。国家反逆罪を適用しろだの王女からやいのやいの突かれてこちらは今は大変なのです」
オイカリネンは儂の機嫌を損ねたいようだ。
「ほおおおお、オイカリネン殿は御国の王女の肩を持たれると」
儂が威圧を込めていっても、
「あそこまであからさまにされますとさすがの私も庇いきれません。もう少し穏便には出来なかったのですか?」
と言い出す始末じゃ! 儂には信じられなかった。
「もう朝から『地方領主、王女を暗殺未遂』とのニュースが大々的に国中に流れておりまして。放送局の中には帝国の関与の可能性もありと大々的に報じておる所もあるのです。今はその火を消すのが大変なのです」
オイカリネンは信じられないことに言い訳してきた。
今まで儂が散々面倒を見てやったのに、こんな時に言い訳するとは……いずれは考えねばなるまいて。
儂がそう思ったときだ。
「王女からは直接貴国の皇帝陛下に抗議の手紙を送れと督促されておりまして、それを抑えるのも大変なのです」
また、王女か!
儂もいい加減に切れて来た。
「このようなくだらない話を直接皇帝陛下にあげるなど言語道断だぞ」
「判っております。だから苦労しておるのです。閣下もその事をご勘案願いたい」
オイカリネンはその後も色々と言い訳して、埒があかなかった。
儂としては、早急に自分の手のものをサーリアの領主にしたかったのだが、ユバス王国への根回しは出来なかった。
「なんという事じゃ」
儂は完全に切れてしなまった。少しくらい逆らうならば調教くらいで済ましてやろうと思ってやったのに、ここまで逆らうとは。もう許せん!
「暗部の長を呼べ」
儂は命じていた。
こうなれば王女を落ちる所まで落としてやる!
泣きわめこうが何しようがもう遅いわ。
儂は王女に直接手を下すことを決意したのじゃ。
ここまで読んで頂いて有り難うございます。
ついに黒幕の魔の手が厄災女に伸びます。
セラフィーナの運命や如何に?
続きをお楽しみに








