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1-6 ヒロイン

 ベルローズは背中に冷や汗が伝うのをハッキリと感じた。

 彼女のローズピンク色の瞳は大きく見開かれながら少女を凝視している。



「あぁ!? なんだ嬢ちゃん、これは俺とこいつの問題だ! でしゃばんな!」

「それは……そうですが……」



 勢いよく飛び出したはいいものの、少女にこの状況を解決する手立ては存在しなかったらしい。言葉に詰まった少女はうろうろと視線を彷徨わせている。

 そうして視線を動かしていた少女は、男の後ろに立つベルローズに気づいて大きく目を見開いた。



「……っ!?」



 少女はベルローズを凝視しながら口をパクパクと動かし、その口の動きにベルローズは大きく息を呑んだ。



「どこ見てんだよ!」



 次の瞬間男が苛立ち気味にそう叫んで、勢いよく後ろを振り返る。



「え!? あ、その……」



 男は後ろに佇んでいる見るからに貴族令嬢の身なりをしたベルローズに大きく驚いた後、わかりやすくうろたえだした。

 その様子にハッとしたベルローズは自分よりもずっと大きな男を威圧するように睨む。

 前世のベルローズには絶対にできなかった芸当だが、今世の彼女は違う。まだ11歳だというのに、既に相手にキツそうな印象を抱かせるベルローズの容姿はこういう表情がよく似合う。



「貴方……」

「は、はい!」



 ベルローズがじろりと睨みをきかせながらそう呟くと、男は上擦った大きな声で即座に返事をする。



「これ、あげるわ。スーツの一着ぐらい買えるはずよ」

「へ!?」



 ベルローズはつけていたブレスレットを外してずいっと男に差し出した。

 男は素っ頓狂な声をあげて慌てふためく。


「いや、いただけません! こんな高価なもの……」

「じゃぁ、選びなさい」

「え?」



 大きな体躯を縮こませた男はベルローズの言葉にビクッと肩を震わせる。

 そんなベルローズに怯えきった仕草に構うことなく、彼女は風が吹いて崩れた髪を手で振り払いながら口を開いた。



「ここでこのブレスレットを断るのならそこの坊やをこれ以上問い詰めるのは私が許さないわ」

「は……?」

「このブレスレットを受け取って新しいスーツを得るか、何も得ずにここを去るか。賢い選択をなさい」



 シャラシャラと揺れながら宝石がきらきらと輝くブレスレットをゆらゆらと揺らしながら、ベルローズは傲岸不遜に言いのける。

 男はしばしの間迷っていたようだが、最終的には何も受け取らず去ることを選んだ。

 おそらくは貴族から装飾品を受け取るなど、その後になにをされるか分からないからだろう。別にベルローズはなにもするつもりはないが。



「それじゃ貴方たちは帰っていいわよ」



 ベルローズはヒロインの方をあまり見ないようにしながら、少年とヒロインにそう声をかけて二人をさっさと帰らせる。

 もともと二人は知り合いだったらしく、慣れたように手を繋いで去っていく。その間ヒロインがチラチラとベルローズをうかがっていた気もするが、ベルローズはそちらを絶対に見ないために目の前で未だ縮こまっている男を見つめた。


 決まりが悪そうに視線を彷徨わせている男にベルローズはぽいっとブレスレットを投げ渡す。

 驚いたように「うわっ!?」と声を上げながらなんとかキャッチした男にベルローズは言い放つ。



「それ、あげるわ。そこそこ高そうなスーツだし、自力でもう一度買うのは大変でしょう」



 それだけ言ってベルローズは踵を返し、馬車へと戻る。

 後ろで「ありがとうございます!」と叫ぶ声がしたが、気にかけることもなく彼女は馬車に乗り込んだ。


 そして、優雅に馬車に乗り込んで座席に座ったベルローズは__



(めっちゃくちゃ緊張したっ!)



 心のなかでそう叫びながら、手で顔を覆う。

 これまでベルローズとして生きてきた経験から、堂々と振る舞うことができた彼女だが前世の記憶を引きずっているため心臓はずっとバクバクと落ち着かなかったのである。


 ゆっくりと動き出した馬車の中で深呼吸を何度か行ったベルローズは、馬車の窓を流れる景色を眺めながらぼそりと呟いた。



「あの子……私の顔を見て、『なんで』って言ってた……」



 先ほどのヒロインはベルローズの顔を見て確かにそう言った。

 驚きのあまりなのか発音はされなかったが、口の動きが明らかにそう述べていたのだ。



(一体どういうこと? ベルローズとヒロインは前から知り合いなの? ……いや、そんなはずない。ベルローズの記憶にヒロインの記憶はないもの……あれほどの容姿なら私だって覚えているはず。ヒロインが勝手にベルローズのことを知っているとか? いや、そうだとしたらあの反応の説明がつかないわ……)



 そうしてグルグルと考え込んでいたベルローズは無意識に避けていた結論に辿り着いてしまう。



「まさか……ヒロインも転生した人間なの……?」



 馬車の中にベルローズの呟きが響いて消えていったのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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