番外編 リアの想い
本当に遅くなりました。申し訳ありません。
一応、番外編ラストです。よろしくお願いします!
「すまない、待たせた。夜会から出てくる時に少し捕まってしまって……」
「いーえ、大丈夫ですよ。むしろリュシール先輩の人気ぶりでガッチガチに捕まらなかったことのほうが奇跡ですから」
「……ありがとう」
わかりやすくしょぼーんとしながら言うリュシールに、リアは軽く笑いながら答える。しかし、それでもリュシールの気は晴れないらしく、まだどこか落ち込んだ様子だ。
真面目な人だよなー、と思いながらリアは彼を見上げた。
昔リュシールが言っていた『夜会の日は母に強制的に化粧をさせられる』という言葉の通り、リュシールの精悍な顔立ちには控えめなメイクが施されていて、フードを被っていなければいつも以上に視線を集めていただろう。
そんなふうにリアがリュシールを眺めていると、小さく身体を動かしたリュシールからふわりと漂った香りにリアはパチクリと瞬きをする。
「リア?」
「ワインを飲まれたんですか?」
今度はリュシールが目を瞬かせる。そして少し決まりが悪そうに身体を動かしてから口を開いた。
「あぁ。あまり得意じゃないんだが、断るわけにもいかなくて……酒くさいか?」
「いえ、そんなことはないですよ。うちの商店でワインも取り扱ってるので気づいただけです。というかやっぱり貴族の関係は大変なんですね」
「はは……まあ、必要なことだから」
苦笑しながらそう言うリュシールをリアはじーっと見つめたあと、ゆっくりと目を逸らす。
「リュシール先輩は本当に真面目ですよね」
「そうか?」
「そうですよ。生徒会の仕事もバンバン請け負って……生徒会に入ってすぐの頃なんてやつれすぎてて、いつ過労死するか心配だったんですからね」
「それは……ありがとう」
ふわりとわずかながらに笑みを浮かべて唐突にお礼を述べたリュシールに、リアは目を見開いた。
「私の今の言葉で感謝されるようなこと、ありました?」
「いや……心配してもらえていたのが嬉しかったから」
「……リュシール先輩ってちょっと変わってますよね」
「そうか?」
「多分」
リュシールは首を傾げて自分のどこが変わっているのかしばらく考え込む。そんなリュシールを眺めていたリアは堪えきれなくなったのか溢れるように笑い出した。
「ふっ……あっははは! そういうところですよ、リュシール先輩」
「そういう、ところ?」
未だにリアの言い分がピンときていないらしいリュシールは首を傾げ続けているが、横に並んで立っていたリアは弾むように彼の前に躍り出た。
そして__
「今は置いておいて、お祭りを満喫しませんか? あまり長い時間はいれないんでしょう?」
キラキラと輝く街のランタンに照らされ、スカートを揺らしながら快活に笑うリアにリュシールは小さく息を呑む。リアは彼のそんな様子に気づいていないのか、まるでリュシールがどこぞのお姫様かのように恭しく彼に手を差し出す。
その様子はリアの男気あふれる性格も相まって恋愛小説に出てくるヒーローのようだ。
「……かっこいいな」
「え? 私がですか?」
「あぁ。誰よりもかっこいい」
思わずリュシールの口からこぼれた言葉にリアが目を丸くする。リュシールが再度言葉を強めると、彼女は少し考えるような顔つきになった後、ニヤリと笑いながら口を開いた。
「それではお姫様。ぜひ私と一緒にお祭りを楽しみませんか?」
「……ふっ。あぁ、ぜひ頼む」
「笑わないでくださいよ」
リュシールが小さく吹き出したのを聞き逃さなかったリアはわかりやすくむくれるが、彼に差し出した手を引っ込めることはしない。それに安堵しながらもリュシールは差し出された自分より一回り小さく、白い手に自身の手をのせた。
「リアが好きな所を案内してくれると嬉しい」
「任せてください!」
***
「楽しかったですか? リュシール先輩」
「あぁ、とても。王宮に戻りたくないくらいだ」
「あははっ! 冗談でもそう言っていただけて嬉しいです」
1時間ほど祭りをまわっていた二人は祭りの中心地から少し外れた高台にある公園にいた。
公園からは祭りが賑わっている様子を見下ろせる。その様子を眺めながら軽く笑うリアをちらりと見つめてリュシールは目を逸らした。
彼の眼下には先ほどまで満喫していた祭りの賑わいが広がっている。そこから少し離れただけで、喧騒が遠ざかり、この場に二人きりだという事実が色濃く彼の頭に浮かび上がる。
そして同時に思い浮かんだのは……
『え、建国祭で告白ですか? ……二人きりになった瞬間に言えばいいのでは? シチュエーションとか考えてるだけ無駄ですよ多分』
リュシールに色々と合ってるようで間違ってるようなアドバイスをしてきたルシウスの一言である。
ちなみに言うとルシウスはベルローズに世間一般的な告白はしていないわけだが、そんなこと知る由もないリュシールは最近のルシウスとベルローズの親密度合いから、ルシウスのアドバイスに全幅の信頼を置いている……いや、置いてしまっている。
ルシウスの言葉がなかったにせよ、リュシールはもう時間があまりないことをわかっていた。
リュシールはリアよりも3つほど年上だ。卒業までにどうにかリアとの関係を生徒会役員同士というものから、少しでも進めなければならない。
だから____
「リア」
「どうかしましたか? リュシール先ぱ__」
「好きだ。俺の恋人になってくれないだろうか」
いざ決心してしまえばするりとリュシールの喉から出てきた言葉に、リアがこぼれんばかりに目を見開いた。
ハクハクと小さな口を開いては閉じを繰り返すリアは突然の告白に頭が追いついていないようだった。
ちらりとリュシールが公園の入口を見ると、そこにはすでに迎えの馬車が到着してしまっている。王宮の夜会は最後に建国祭の閉会式を行う。そしてその場に公爵家の人間であるリュシールは必ず出席しなければならない。
少しだけ後ろ髪を引かれる思いを抱きつつも、貴族としての責任は果たさなければならないとわかっているリュシールは未だに目を見開いているリアに向かって口を開いた。
「すまない、もう時間みたいだ。返事はまた後日で頼む」
「え、あぁ……本当だ、もう馬車が来ていますね」
「リアの家の前まで送っていくから、一緒に__」
「あ、いえ! ここから歩いて5分もかからないので、大丈夫ですよ」
リュシールの申し出にリアは両手をブンブンと振りながら言う。しかしそうは言っても一人で帰すのは危ない。結局、リュシールの迎えの馬車に乗っていた従者にリアの家の前まで同行するようにリュシールが言い、リュシールが乗った馬車は動き始めた。
ガタガタと小さく揺れながら進む馬車の中でリュシールは小さくため息をつく。
自身の手を見てみると、剣ダコだらけの分厚い手が小さく震えていた。
「……はぁ」
どっと緊張が押し寄せてきたリュシールは深くため息をつき直して、きらびやかな王宮へと向かうのだった。
***
「あ、リアお帰りー」
リアの家にまだ残っていたララが玄関のドアが開く音に気づいて、ひょこっとそちらに顔を出して言った瞬間。
ビュンっ! とララの横をリアが全力で通り過ぎ、リアはスピードを落とすことなく階段を駆け上がっていく。そして、リアの姿がララから見えなくなって少ししてから、バンッ! と扉が閉まる音が響いた。
「ふーん」
風のような速さで消え去ったリアだが、しっかりとリアの顔を見ていたララはにやりと不敵に笑う。
(告白されたっぽいね。初々しいわぁ)
勘の鋭いララは心の中で呟いて、にやにやと笑いながらリビングへと戻る。
その上階でリアは顔どころか全身を真っ赤に染め上げて、自室の中をうろうろと歩き回っているのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。




