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終章

他の話と比べて、長くなりました……

「お義姉様……!」

「リオネ先輩……!」

 

「「とっても綺麗です!!!!」」



 カラッとした青空が広がる秋の中頃。

 フェルメナース邸の一室でベルローズとリアは揃って大きな声で叫ぶ。


 二人の合わさった声量に驚いて身を固めたリオネだったが、すぐに嬉しそうに顔をほころばせた。



「ふふっ。ありがとう、二人とも」



 幸せそうに笑いながら言うリオネは、純白のウエディングドレスを身に纏っている。リオネが学園に在籍しているときから製作されていたというオーダーメイドのウエディングドレスは、リオネのふんわりとした容姿によく似合っていた。


 リオネが学園を卒業して初めての秋。

 何年も前から予定されていたレインとリオネの結婚式がもうすぐ始まろうとしている。


 義妹となるベルローズと、生徒会の後輩であるリアは特別に結婚式の前にリオネと話す時間を少しだけもらい、あまりにも綺麗すぎる大好きなリオネを前にして、彼女の眩しさに今にも泣き出しそうになっていた。



「それにしても、晴れてよかったですよね」

「えぇ、昨日の朝まで雨が続いていたからどうなるかと思ったけれど……予定通り庭園で式ができそうでよかったわ」



 リアの言葉に穏やかに微笑みながら「お義母さまとお義父さまも庭園で式を開かれたって聞いていたから、憧れだったの」と付け足したリオネにベルローズはまたしても涙が込み上げてきそうになる。



「そろそろ交代してくれないか?」

「あ、レイン先輩」

「あら、お兄様」



 なかなかリオネの控室から出てこないベルローズとリアに痺れを切らしたのか、レインが開きっぱなしにされていた扉から室内に入ってくる。



「綺麗だ、リオネ。よく似合っている」

「ありがとうございます。レイン様もいつもにまして格好良いですよ」

「そうか?」



 白色のタキシードを身に纏い、髪をかきあげているレインは小さく笑いながらリオネの近くまで寄ってくる。

 二人から醸し出される甘い雰囲気を察したベルローズとリアは、そーっと控室から出た。


 控室から十分に離れるまで息を潜めていた二人だが、ちらほらと参列者が集まりつつある庭園に出ると堰を切ったように話し始める。



「リオネ先輩、ほんっとうに綺麗だった!」

「そうね、ほんとうに綺麗だったわ」

「思い出すだけでうっとりだよね……」

「えぇ……」

「レイン先輩もいつもより笑顔が多かったね」

「幸せそうだなって感じだったわね」

「リオネ先輩に褒められて嬉しそうだったなー……リオネ先輩もレイン先輩に褒められて嬉しそうだったけど」

「我が兄ながら、お義姉様とお似合いだと思うわ」

「ほんとうにそう。生徒会にいたときなんて、あの二人が話してるだけで皆ほわほわしてたからね」



 リアの言葉を受けて、リオネとレインが話している側で生徒会役員がニコニコしている場面を思い浮かべたベルローズはクスクスと笑う。

 5年制の貴族学園にベルローズが入学して3年。無事4年生になったベルローズと、生徒会役員として活躍しながら最終学年に進級したリアは談笑を続ける。会話の内容はほとんどが『リオネが綺麗すぎる』というものだ。



「ベル」



 ベルローズのすぐ背後から甘いテノールの声が響いたかと思えば、次の瞬間ベルローズは後ろから軽く抱きしめられていた。



「ルシ様、お待たせしました。お義姉様、ほんとうに綺麗でしたわ」



 突然の抱擁にも慣れているベルローズは嬉しそうに笑いながら少しだけ後ろを向いて、自分を抱きしめているルシウスに言った。



「そっか、良かったね。ベルもいつだって綺麗だよ」

「ふふっ。ありがとうございます、ルシ様もいつも格好良いです」

「ベルに言われると嬉しいな」



 密着したまま甘い雰囲気を垂れ流すベルローズとルシウスに、リアは複雑そうな顔をする。



(親友が婚約者と仲睦まじいのは良いこと……良いことだけどさ! 甘すぎない? 距離感近くない? あとベルローズにくっつけるからって自慢げな顔すんな!)



 心のなかでギャーギャー騒いでいるものの、お世話になっている先輩たちの結婚式でいつものようにルシウスと口喧嘩をすることなんて絶対にできないリアは、淑女らしい笑みを無理やり浮かべた。



「ルシ様、リュシール様はどちらに?」

「あいつのことが気になるの?」

「リアのパートナーですから。お義姉様の控室に行く前は、一緒にいましたよね?」



 リュシールの名前がベルローズの口から出た瞬間、スッと目を細めて嫉妬するような声を出したルシウスだが、ベルローズはそれを気にすることなく笑って返す。


 そんなベルローズの様子に観念したルシウスはパッとベルローズを離して、庭園のとある方角を示した。



「あの辺りにいたはずだよ……あぁ、ほら来た」



 ルシウスの言葉の通り、彼が示した方向から礼服に身を包んだリュシールが小走りで向かってきている。



「リア! もう戻ってきていたのか」

「はい! もうすっごく綺麗でしたし、レイン先輩とリオネ先輩、ほんとうに幸せそうでした」

「そうか、ほんとうにめでたいことだな」

「ですよね!」



 リアの言葉に嬉しそうな表情で返すリュシールと、うっとりした表情でリオネのウエディングドレス姿を思い出しているリアは、リュシールが学園を卒業すると同時に交際を始めた。

 リュシールは学園を卒業するまでにも何度かリアに思いを告げていたらしいが、交際に至らなかったのはリアが身分の差を気にしたからなのだという。

 公爵家という貴族の中でトップの爵位を持つリュシールが相手となれば、交際だって気持ちだけで貫けるものではない。

 しかし、ワステリア公爵家の3人息子のなかでも一番剣の腕が立ち、見習いとして入団した騎士団でも注目を置かれているリュシールは、当主にはならず今現在彼の叔父が務めている騎士団長の後継になるらしく、それに従って近い内に彼の叔父のように子爵の爵位を授けられるのだという。


 リュシールの両親は『当主にならないのだから、結婚だって自由にすればいい』という考えで、リアとの関係を応援してくれたことがきっかけで、リアは交際を受け入れたのだとか。



(リアもリュシール様が学園にいた頃から彼のことが好きだったらしいし、身分差で諦めることにならなくてほんとうによかったわ)



 笑顔を輝かせながらリュシールと話すリアを見ながら、ベルローズはふふっと笑う。

 そんなベルローズの様子を見ていたルシウスは『構って』というふうに、ベルローズに自身の腕を差し出した。

 彼が差し出した腕を目をパチクリさせながら見たベルローズは、口元をほころばせてその腕に自身の腕を絡ませる。



「そろそろ席につきますか?」

「そうだね、立ち続けて式の前に疲れるといけないし」



 ベルローズの質問にルシウスは頷く。

 ベルローズはリアとリュシールに、席に座ってくるから、と言って二人と別れてルシウスと共に席へと向かう。

 新郎側の親族であるベルローズと、ベルローズの婚約者であるルシウスはフェルメナース伯爵夫妻の近くに座ることになっている。


 先に席に着席していたフェルメナース伯爵夫妻は笑顔でベルローズとルシウスを手招きし、二人は隣り合って席に腰掛け、結婚式の始まりを待つのだった。


***


「お義姉様もお兄様も幸せそう……」

「そうだね、レインがあそこまで嬉しそうなところを見るのは初めてかも」



 式の中盤になり、参列者に挨拶して回っているレインとリオネを眺めながら、庭園の端のほうでベルローズとルシウスは言葉を交わす。



「お義姉様、ほんとうに綺麗だわ」

「あのドレス、ベルも着たい?」

「え?」



 突然の質問に驚いたベルローズはルシウスのほうへ視線を向ける。

 彼はにこにこと微笑んでいながらもベルローズの答えを待っていて、ベルローズはちらりとリオネのドレス姿を見た。



「……いいえ、あのドレスはお義姉様に似合うように作られていますもの。とても綺麗なドレスだけれど、私が着てもお義姉様ほど着こなせないです……だから」

「だから?」

「ルシ様、私に似合うウエディングドレス。着させてくださいね?」



 得意げに笑ってルシウスを見上げながら言ったベルローズは、ルシウスが目を見開いてぽかんとしているのを見て、クスクスと小さく笑った。

 その笑い声にからかわれていることに気がついたルシウスはペチッとベルローズの額をとても軽く叩いた。



「あら、痛い」

「からかうからだよ」



 まったく痛みなどないが、口をとがらせてベルローズは言い、ルシウスは朗らかに笑いながらそれに返す。

 ちらりと周りを窺ったルシウスは、周囲が新郎新婦に夢中なのを察してベルローズに顔を近づける。



「……っ!」



 庭園の端のほうへいるとはいえ、参列者が大勢いるなかキスをされたベルローズは目を見開きながら頬を真っ赤に染めた。婚約してから何度もキスをされているベルローズだが、未だに慣れることなく初々しい反応を見せる。

 潤んだローズピンク色の瞳で咎めるようにルシウスを見るベルローズだが、そんな視線を意に介さずルシウスは口角を上げてみせた。



「仕返しだよ」

「…………からかいはしましたけど、本気でもありますからね。ルシ様との式で着るドレスしかいりません」

「……ありがとう、ベル」



 真っ赤な顔をそっぽに向けて言ったベルローズをルシウスは愛おしそうに見つめながら言う。


 心地よい秋晴れのなか、フェルメナース邸の庭園にザァーっと気持ちのいい風が吹き抜けた。

 たなびく髪を抑えたベルローズは、やっと頬の赤みが消えたようで、ちらりと隣のルシウスを窺う。


 ルシウスはレインとリオネの姿を眩しそうに見つめていた。

 彼のミルクティー色の髪と同色の睫毛に縁取られた薄い水色の瞳は、確かに親友の幸せを祝っているが、どこか憧れるように、羨ましそうに彼らを見つめていることがベルローズにはわかった。

 ベルローズは、ふいっと視線をレインとリオネのほうへ戻した。



「……ルシ様」

「なぁに、ベル?」

「これからもずっと大好きです。貴方と結婚したい、家族になりたい……私、ほんとうにそう思ってますからね」



 レインとリオネのほうを見ながら発されたベルローズの言葉に、こぼれんばかりに目を見開いて少し口をつぐんだルシウスは、身体の底から絞り出すように声を紡ぐ。



「…………知ってるよ、ベル。僕もずっとそう思ってる」



 ルシウスが今にも泣きそうな声で言ったので、ベルローズは心配になってルシウスを見上げるが、予想に反して彼はほんとうに嬉しそうに、ほんとうに幸せそうにふわりと笑っていたものだから、ベルローズもつられて笑ってしまうのだった。



「僕もずっと大好きだよ、ベルローズ」


お読みいただき、ありがとうございます。

これにて、一度完結とさせていただきます!

ベルローズとルシウスのお話を見守ってくださり、ありがとうございました。


最後までお読みいただき、ほんとうにありがとうございました。

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