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2-30 彼にこの思いを

「どうしたの? 浮かない顔して。2日後だっけ? 婚約式でしょ?」



 ベルローズを覗き込んだリアが不思議そうな表情で言う。

 ベルローズはどこか落ち込んだ顔で口を開いた。



「ルシウス様がため息をついてたの。婚約式の打ち合わせのとき……最近顔色も悪いし……」



 放課後にベルローズの教室に遊びに来ていたリアはベルローズの言葉を聞いて意外そうな表情をした。



「あいつのことだからぴょんぴょん飛んで喜びそうなのに」

「ぴょんぴょん飛ぶかはわからないけど……」

「飛ぶでしょ。あいつはヤンデレ枠なんだよ? めちゃくちゃ激重で愛してる相手に気持ちを返されたらそりゃ喜ぶ__」

「あ……」



 ベルローズはリアの言葉を遮るように言葉を漏らし、顔を真っ青に染める。

 その様子を見ていたリアは「え、まさか……?」と呟いた。



「好きって言ってない……なんてことないよね?」

「言ってないわ……」



 真っ青になってリアの質問に答えたベルローズに、リアは「嘘でしょ……」と愕然としながら顔を手で覆った。


***


「いい? ベルローズ。あいつは確かにストーリーとはすっごいズレてるけど、変わらないところもあるの。あいつ絶対ヤンデレだから。ベルローズへの執着はもうヤンデレっていう言葉でしか言い表せないから。わかったら今すぐにでも気持ちを伝えて!」


「ヤンデレは大好きな相手に気持ちを返されたら落ち着くし、多分気分もすごい上昇するから。ね?」



 ベルローズは昨日の放課後にリアが力説した『ヤンデレの取説について』を思い出しながら、街を歩いていた。

 婚約式を明日に控えた今日。ルシウスに思いを伝えることを決心したベルローズは、なにか贈り物を持っていこうと思いつき、その贈り物を買うために街を訪れた次第だ。


 婚約式は明日の夕方から夜にかけて行われるので、準備のためにベルローズは今日の夕方から会場であるヴェリアンデ邸に泊まることが決まっている。

 ヴェリアンデ邸に向かうまでに贈り物を購入したいベルローズは目的の宝石商へ急ぐ。



「いらっしゃいませ、フェルメナース伯爵令嬢」

「突然のご連絡だったのに時間を開けてくださってありがとうございます」

「いえいえ、フェルメナース伯爵家の皆様はお得意様ですから」



 宝石商で出迎えてくれた店員にお礼を言いながら、ベルローズは店員に促されて個室に入る。



「それで、本日はどういったものを?」

「男性が身に着けやすいものをお願いします……シンプルなデザインのもので、この宝石と同じ宝石があしらわれたものはありますか?」



 ベルローズはそう言いながら自分が身に着けていたネックレスを外して店員に見せる。そのネックレスを白い手袋をつけた手で持ち上げた店員はじーっと宝石を眺めた。



「これはまた珍しい宝石ですね……当店でご購入されたものですか?」

「いえ、違うお店で3年ほど前に……」

「そうですか……希少なものなので、あるかはわからないですが確認してまいります」



 店員はベルローズのネックレスを丁寧にベルローズへ返し、いそいそと個室を出ていった。



(ほんとうに珍しいものだったのね……)



 店員に返されたネックレスの宝石が光の加減でピンクと水色に輝きを変える様子を眺めながらベルローズは心のなかで呟く。

 5分ほどすると店員が申し訳なさそうな表情で入ってきた。



「申し訳ありません。その宝石は当店では取り扱っていなかったようです……他の宝石であれば男性用のものがいくつかありますが、いかがなさいますか?」

「……いえ、この宝石に思い入れがあるので……」

「左様でございますか……もしご購入された宝石商が近いのであれば、そちらに行ってみてはいかがでしょう? 宝石商は店によって取り扱う宝石が異なるので、宝石重視となればご購入された店に行かれるのが一番確実ですよ」

「そうなんですね……ありがとうございます」


 ベルローズは親切にも教えてくれた店員にお礼を言って宝石商をあとにする。


 宝石商を出たベルローズははぁーっと深くため息をついた。



「あの宝石商は人気すぎて、割り込みなんて出来そうにもないわ……我が家は使ったことがないお店だから無理を言って時間を作ってもらうこともできないし」 



 落ち込んだ声で呟きながらも、立ち止まってても解決しないと思ったベルローズはダメ元で3年ほど前にルシウスに連れられて訪れた宝石商へ向かった。


***


「申し訳ありません、本日は空きがなくて……」

「そうですよね、すみません、ご迷惑をおかけして。」



 ルシウスと共に訪れたことのある宝石商に入店したものの、申し訳なさそうな顔をした店員にそう言われてしまったベルローズは装飾品は諦めて他のものを買おうと考え直し、宝石商を出ようとする。

 しかしベルローズが店を出ようとしたときに、後ろから声がかかった。



「フェルメナース伯爵令嬢? ですよね」

「はい……」



 ベルローズが声に反応して振り返ると、そこに立っていたのは3年前にネックレスを購入した際、ルシウスとベルローズの接客を担当してくれた店長だった。



「お久しぶりです。本日はどういったご要件で?」

「その、贈り物を買いたかったんですけれど……予約をしていなかったものですから」

「その贈り物のお相手はもしかしてヴェリアンデ侯爵令息だったりしますか?」



 ずいっとベルローズに近寄った店長にベルローズは驚きながらも頷く。



「それであれば予約なんて不要です! なんせヴェリアンデ侯爵令息はこの店を救ってくださった方ですから!」

「え? そうなんですか?」

「はい。まぁ話すと長くなるので、ここでは割愛させていただきます。こちらへどうぞ」



 押しの強い店長によって個室へ促されたベルローズは先ほどの店で伝えたことを繰り返した。



「懐かしいですねぇ、このネックレス。もちろん男性用のアクセサリーにこの宝石が使用されているものもありますよ」

「ほんとうですか!?」

「えぇ、お持ちしますね」



 奇跡的にも最初に思いついた通り装飾品を贈ることができそうで、ベルローズは口元をほころばせた。

 しばらくして店長はいくつかの箱を持って個室に戻ってきて、ベルローズの前にずらっとそれらを並べた。


 カパッと開いた複数の箱の中には同じ宝石があしらわれたピアスとブレスレット、ネクタイピンなどが入っている。


 どれもシンプルでありながら洗練されたデザインで、ベルローズはどれにしようか悩む。



「ありがとうございました! またのご来店お待ちしております!」



 結局ピアスを選んだベルローズは、笑顔で挨拶をしてくれる店長に深くお辞儀をしたあと、小さな紙袋を見て口角を上げながら宝石商を出た。



(試しに来てみて、ほんとうによかったわ)



 まさかの嬉しい結果にニマニマしながら歩いていたベルローズだったが、そちらを注視するあまり通行人とドンッとぶつかってしまう。



「すいません!」

「いえ、こちらこそ……ってベルローズ嬢?」

「リュシール様」



 ベルローズがぶつかった相手はまさかのリュシールだった。

 世間とは狭いものである。

 リュシールはベルローズがぶつかった弾みで落としてしまった紙袋を手に取り、ベルローズに渡してくれた。



「気をつけて歩いたほうが良い」

「おっしゃるとおりで……」



 己のドジさ加減に恥ずかしさを覚えたベルローズは頬を赤く染めながら、リュシールにお礼を言ってルシウスへの贈り物が入った紙袋を受け取る。

 リュシールにぶつかってしまうというアクシデントはあったものの、望んでいたものを購入できて上機嫌なベルローズは、レインに「ベルローズなら街に行ったぞ」という言葉を聞いて街に来ていたルシウスが、ベルローズとリュシールとぶつかった一部始終を見ていただなんて夢にも思わなかったのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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