1-4 彼の無表情
こちらを先日間違えて先に投稿してしまいました。本当に申し訳ありません。
(すっかり夕方ね……)
眠りから覚めたベルローズは窓の外に映る空が茜色に染まっているのを見て、心のなかで呟いた。
よくフェルメナース家の屋敷を訪れるルシウスだが、たいてい日が暮れ始める前に帰宅する。だからもう帰っただろうと判断して、ベルローズは自室を出る。少しぐらいは動いたほうが回復にも良いと医者が言っていたからだ。
屋敷の廊下をゆっくりと歩いていると、いつのまにかベルローズは窓から屋敷の門が見える場所まで来ていた。
屋敷の門の前には馬車が1台停まっていて、その様子にベルローズはさっと青ざめる。
馬車に彫られた家紋はまさしくヴェリアンデ家のものであり、ということはまだルシウスは帰宅していない。
早いところ自室に戻ったほうが良いと判断したベルローズが来た道を戻ろうとしたとき。
屋敷から出てくる二人の青年が窓に映った。
一人は兄のレイン。そしてレインと楽しげに話しながら歩くもう一人は……
「ルシウス・ヴェリアンデ……」
ベルローズはぼそりと彼の名を呟く。
レインの隣でサラリとしたミルクティー色の髪を揺らす彼こそが、将来ベルローズを殺害する人間である。
すぐにでも踵を返して自室に戻ったほうが良いとわかっていながら、ベルローズはルシウスから目を離すことができなかった。
それは将来自分を殺す人間への恐怖心からか、それともいまだわずかながらに残っている愚かな恋情からなのか。
どちらが原因かはわからないが、じっと食い入るようにルシウスを見つめていると不意に彼が振り返り、ベルローズとばっちり目が合う。
「……っ!」
目が合ってしまった以上それをなかったことにして避けるという選択肢はベルローズに許されていない。
今にも逃げ出したい気持ちを抑え込んで、ベルローズはひらひらと手を振る。
(……一体、どうしたっていうの?)
今まではベルローズが手を振ればニコリと笑って__今思い返してみればそれらの笑みにはなんの感情もこもっていなかったが__手を振り返してくれたルシウスだが、今はなぜか無表情でベルローズを凝視している。
そうして10秒ほどベルローズを見ていたルシウスだったが、レインに話しかけられたのか前を向き直してそのまま馬車まで歩き、馬車に乗り込んだ。
いつもベルローズの前で紳士的な笑みを絶やすことがないルシウスが、無表情でベルローズを見ていたということがとてつもなく不穏な気がしたベルローズは、ようやく動くようになった足を酷使して廊下を疾走しながら自室に戻ったのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。