2-22 二人で本屋へ
「あ、ベル。この前言ってた新作の推理小説、ここにあるよ」
「ほんとうだ、ありがとうございます!」
定期テストが終わってすぐの休日。
ベルローズとルシウスは街の本屋を訪れていた。
ルシウスが指し示したところにお目当ての本を見つけたベルローズは、それを手に取りながら弾んだ声でお礼を言う。
「冒険小説はどこに置いてあるんでしょう?」
「小説で一括りにされているから、近くにあるんじゃないかな」
ベルローズの疑問にそう返したルシウスはきょろきょろと本棚を見回した。
「あ、あった。あの辺りだ」
ルシウスは冒険小説が置いてある場所を見つけたらしく、ベルローズも彼に続いてそちらへ行く。
「おすすめとかってありますか?」
「ベルもやっぱりレインの妹だよね、読書好きだ」
「確かにお兄様の影響かもしれないですね」
ルシウスの言葉にベルローズは頷く。
ベルローズが推理小説が好きなのは前世の影響だが、前世を思い出す前から読書に抵抗がなかったのは読書好きなレインに影響されているからだろう。
「これとかは面白かったよ、推理要素も入ってるからベルが好きそうだ」
「面白そうですね、表紙も綺麗だわ」
ルシウスが本棚から引き出した本を受け取り、ベルローズはパラパラとページを捲ってみる。サーっと見た所、文章も丁度読みやすい量だったのでベルローズは試しに購入することにした。
本が高価なこともあり、本屋という存在は少なく、ベルローズは街にこんな本屋があったのかと感心する。
「それにしても、街にこんな本屋があるなんて知りませんでした」
「あまり目立たない場所にあるからね」
ベルローズの言葉にルシウスは苦笑して言う。
ルシウスの言う通り、目立たない場所にあり敷地も狭いが、狭い店内にずらりと本が敷き詰められている様子がベルローズは気に入った。客の入りが少ないこともあり、静かで居心地がいい場所だ。
「買うものは決まった?」
「はい、お会計に行ってきますね」
1時間ほど本屋で物色したベルローズは満足げな表情で会計へ向かう。
その後ろ姿にルシウスは「外で待ってるね」と声をかけようとしたが、ちらりと自分の直ぐ側に置かれた本を見て、結局声をかけなかった。
ルシウスは本を一冊手にとって自分も会計へ向かうのだった。
***
「このあとどうしましょうか……」
「目的は果たしちゃったからね」
本屋を出たベルローズの言葉にルシウスは軽く笑いながら言う。
本屋に来る前にカフェでケーキを食べたので、もう一度カフェに入るという選択肢はあまり気が乗らない。しかし、そろそろ夕食だからと言って帰るにはまだ時間が早い。
どうすればいいのか、と頭を捻るベルローズを眺めていたルシウスが口を開いた。
「ベルは花は好き?」
「え……好きですけれど」
ルシウスの質問に驚きながらも答えたベルローズに、ルシウスは朗らかに笑って、手を引く。
「だったら丁度いいところがあるよ」
***
「わぁ……! ほんとうに綺麗です、ルシウス様」
ベルローズは自分の目の前に広がる光景に目を輝かせながら感嘆した。
ベルローズの目の前には色とりどりの花畑が広がっていて、眼下には先ほどまでいた街が広がっていた。
本屋から15分ほどいわゆる路地裏を通って辿り着いたそこは、小高い丘に花畑が広がる場所だった。
「街から少し離れたところにこんな場所があったんですね……ほんとうに綺麗」
「喜んでもらえてよかったよ。前に使用人が話していたんだ」
ベルローズの喜びようにルシウスは頬をほころばせる。
「そうなんですね……あれ?」
「ベル、どうかした?」
楽しそうに景色を眺めていたベルローズが、一点を見つめながら動きを止め、ルシウスはベルローズにどうかしたのか尋ねながらそちらを見る。
ベルローズが見つめる先には小さな女の子と男の子が花畑の中でしゃがみ込んでいた。
花畑にはちらほらと人がいるのでどこかに保護者がいるのではないか、とベルローズは周りを見渡すがそれらしき人はいない。
加えて男の子のほうは泣いているようだ。
「……行ってみようか」
「はい」
ベルローズの心配そうな視線に気がついたルシウスは、ベルローズの手を取って女の子と男の子のほうへ近づく。
「お姉ちゃぁん……お母さんたち探そうよぉ」
「元々今日はここに来る予定だったんだから、もう少ししたら来てくれるよ」
「でもぉ……」
ベルローズの予想通り女の子と男の子は保護者とはぐれてしまっているようだったが、泣きながら不安そうな表情をしている男の子と対照的に、女の子は集中してせっせと花冠を編んでいる。
「あの、大丈夫?」
「……誰ぇ?」
ベルローズがおそるおそる話しかけると、男の子だけが振り返りうるうると涙が溜まった瞳でベルローズを見上げた。
「親御さんとはぐれちゃったの?」
「そうなの、なのにお姉ちゃんがぁ……!」
ベルローズの言葉に首を何度も縦に振った男の子はビシッと女の子を指しながら言うが、女の子は意に介さず手を進めている。
「なにしてるの?」
ずっと冷静な女の子の手元に興味を持ったのかルシウスが尋ねた。
女の子はちらりとルシウスを見たあと、すぐに作業に戻りながら口を開いた。
「花冠を作ってるの。明日ルイスにあげるんだ」
「ルイス?」
「お姉ちゃんが好きな男の子だよ」
ベルローズが発した疑問に男の子が返した。
男の子はベルローズが無害だと判断したのか、しゃがんでいるベルローズの肩にぴったりとくっついている。
「……できた! どう?」
ずっと冷静だったとはいえ、やはり年相応らしくニパッと笑いながら女の子はベルローズに完成した花冠を見せた。
小さな手で編んだからかところどころガタガタしてしまっているものの、花冠はきちんと丸く仕上がっている。
「とても上手だわ。こんなに可愛いものもらったら、絶対に嬉しいわね」
「でしょー!」
ベルローズの言葉に女の子は満足げに言う。
「お姉ちゃん、僕トイレ行きたい」
男の子が発した言葉は姉が花冠を編み終えたので、ついてきてくれるのではないかと思ったから発されたものなのだろうが、姉である女の子はその希望をバッサリと切り捨てる。
「一人で行ってきなよ、すぐそこのお店にトイレあるのは知ってるでしょ?」
(割とドライね、この子……)
姉の言葉にまたしても瞳に涙が溜まりだした男の子を見て、ベルローズは慌てて口を開いた。
「私でよければついていこうか?」
「いいの?」
「えぇ、もちろん」
ベルローズの言葉を聞いた男の子は小さく頷く。
その様子を見たベルローズは、立ち上がり男の子と手を繋いで、ルシウスのほうを見た。
「少し連れて行ってきますね。ここで待っていてもらってもいいですか?」
「……あぁ、大丈夫だよ。この子と待ってるから」
ベルローズの言葉に頷いたルシウスとせっせと新しい花冠を編み始めた女の子を残してベルローズは男の子と共に近くの店へ向かったのだった。
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