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2-10 ベルローズとリアの不安

(ほんとうにベルローズのパートナーにリュシール先輩がなっても大丈夫なの……?)



 午後の授業を受けながらリアは授業そっちのけで”あること”を考え込んでいた。

 ”あること”とは昼休みに突然レインが発した提案__建国祭でベルローズとリュシールがパートナーになればいいというものだ__のことである。


 てっきりルシウスの思いを応援しているのだと思っていたレインがリュシールをベルローズのパートナーに勧めたことに驚愕したリアだが、冷静になって考えるとそんなことをすればルシウスがどんな行動に出るかわからない。


 必ずルシウスのリュシールに対する好感度はマイナスになるだろうし、彼がベルローズにも怒りをぶつける可能性だって非常に高い。


 しかしながらレインの提案はおかしなところなどどこにもなかった。まだパートナーが決まっていないベルローズとリュシールに、『リュシールがずっと王宮にいることになるのは大変だから』という理由でパートナーになることを勧めただけである。


 ベルローズとリアにはその提案をルシウスがみすみす許すはずがないということがわかっていたが、ルシウスの執着を知らないリュシールにそれを説明することはできなかった。説明していたとしてもおそらく理解は得られなかっただろう。それほどまでにルシウスの外面は完成している。


 そうして結局、上手い言い訳が思いつかなかったベルローズはリュシールとパートナーとして建国祭の夜会に参加することになってしまった。この結果がベルローズにとって幸運なことなのか、不運なことなのかはわからない。

 リアからしてみると、ルシウスを鼻で笑いながら「ざまぁみろ」と言いたい出来事ではあるが、それよりもベルローズを心配する感情が勝っていた。



「……大丈夫なのかな?」



 窓の外を眺めながらぼそっと呟いたリアの視線の先にずいっと歴史教師の顔が入り込んでくる。



「リアさん? 授業中なのに窓の外ばかり見ていますわね?」

「あ! すみません、先生!」



 教師に凄まれたリアは慌てて机の上に広げたノートに視線を落としたのだった。


***


(まさかワステリア公爵令息と夜会に参加することになるなんて……)


 翌日の昼前。

 朝食の食卓で建国祭の話が出たことを思い出したベルローズは、ボフッとベッドに身体をうずめながら考える。


 今日は学園は休みなので、1週間の疲れを癒やすためにベルローズは朝からダラダラと過ごしていた。

 ベルローズの部屋の扉を控えめにノックする音がして、使用人が扉を開いた。



「ヴェリアンデ侯爵令息がお見えです。レイン様のお部屋にいらっしゃいます」

「……来いってこと?」

「お嬢様が顔をお見せすれば必ずヴェリアンデ侯爵令息はお喜びになるかと」



 少し嫌そうな顔をして尋ねたベルローズは、使用人が返した答えに憂鬱そうに息を吐いてベッドから身体を起こす。

 ベルローズがレインの部屋へ向かうことを察した使用人はベッドに寝転がっていたことで乱れた彼女の髪にブラシを通した。


 ささっと最低限の身支度だけ整えたベルローズはレインの部屋へ向かったのだった。


***


「ごきげんよう、ルシウス様」

「やぁ、ベル。わざわざ悪いね」

「悪いと思っていらっしゃるなら、お兄様と談笑を続けていて大丈夫ですよ?」

「ははっ、手厳しいね」



 休日を邪魔されたベルローズはやや刺々しくルシウスに言ったものの、彼は飄々と笑って返した。


 レインはそんな二人の様子を慣れたように眺めながら、コーヒーを啜っている。


 ここまで来てしまったのだから仕方がない、と諦めたベルローズはレインの隣にストンと腰掛けた。



「そういえば、もう少しで建国祭だね」

「……えぇ」

(まさかその話題になるとは……)



 しばらく3人で話していると、ルシウスが突然夜会の話を始めて、ベルローズは少し黙り込んだ後に小さく頷く。



「ここ3年ずっとベルと参加していたからね、今年もてっきりそうするものだと思っていたんだけど……」

「……」

「レインからベルはワステリア公爵令息と参加すると聞いて__」

「お兄様、もう話したの?」

「あぁ、人助けとしてリュシールとパートナーになったって言った」



 あっけからんとベルローズの質問に頷いたレインにベルローズはため息をつきたくなる気持ちを抑えて、ルシウスを見た。

 レインがいるから、ということもあるのか彼はいつも通りにこにこと微笑んでいるが、その薄い水色の瞳には昏い影がちらちらと覗いている。



「僕が悪いんだよ、毎年のことだったから今年もそうだと勘違いしていた」



 にこやかに言うルシウスを警戒するようにベルローズは見据えながら微笑んだ。



「申し訳ありません……お兄様の提案だったものですから」



 このあと、ルシウスと二人きりになることは絶対に避けたいベルローズだが、一応自分が言い出しっぺではないことだけを強調して伝えておく。少しでも彼の暴走を止めたい一心からである。


 しかし、そんなベルローズの心配は杞憂に終わった。

 コンコンと扉をノックする音が響き、使用人がベルローズの母親である伯爵夫人がベルローズを呼んでいる、と言った。



「すみません、お母様のほうへ行ってきますわ」



 これこそ好機だ、と思ったベルローズはにっこりと微笑みながらルシウスとレインに告げる。



「あぁ、また学校で会おう、ベルローズ」



 驚くほどあっさりとベルローズに言ったルシウスに、ベルローズはほっとしながら部屋を退出する。

 さっさとルシウスに背を向けてしまったベルローズは、ルシウスの瞳の影が未だに消えていないことに気づかないのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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