1-2 3つの誓い
(まさかあのベルローズに転生していただなんて……)
姿見の前で気を失った日の翌日、ようやく状況を受け入れ始めたベルローズは心のなかでそう呟く。
この世界を舞台にした乙女ゲームは前世で数少ない友だちから勧められたもので、忙しい仕事から現実逃避するのにうってつけだった。しかし前世のベルローズが好きだったのは優しく愛情表現をする攻略対象たちであり、歪んだ愛を押し付けてくるルシウスでは決してない。
この乙女ゲームをプレイした多くのプレイヤーがルシウスに監禁されるバッドエンドに『ヤンデレ最高』と喜んでいたが、前世のベルローズにはヤンデレの旨味はよく理解ができなかった。
そしてその思いは今も変わらず引き継がれている。
(とりあえず……ルシウスに関わらないようにしよう)
ベルローズはそう心のなかで固く決意した。
だがしかし____
「1週間前までの私は……すでにルシウスに執着してたよね……」
ベルローズはベッドの上で丸くなりながら小さく呟く。
残念ながらベルローズはすでにルシウスと知り合って5年ほど経っており、今はちょうどルシウスに対する狂気的な愛情が垣間見え始めた時期とも言える。
それほどまでに1週間前のベルローズはルシウスにベッタリだったし、なんならストーカー気味ですらあった。
そしてそんな幼馴染を見るルシウスの目はすでにゴミ以下のなにかを見る目であったことが、前世分の精神年齢が加算されたベルローズにはわかった。
「いや……でも、好都合だよね? すでに興味を持たれてないから、離れてもなにもないはず……」
一抹の不安が残るものの、自分が生き残るにはもうこの方法しかないのでベルローズは必死に自分に言い聞かせる。
そうしてベルローズが乙女ゲームが終了する6年後も生き続けるためにたてた誓いは3つ。
1つ。ルシウスとの接触を怪しまれないように少しずつ絶っていく
2つ。貴族学園入学後にヒロインと接触しないようにする
3つ。ルシウスに利用できる駒だと思われないよう、他の人を好きになった素振りをする
今までのベルローズの態度からすると、突然ルシウスとの交流を全て遮断すると怪しさしか残らない。あのルシウスがベルローズに興味関心を持つなど到底考えられないが、念には念を入れたほうが良いのでベルローズは少しずつ距離を置くことにした。
そしてヒロインには接触しない。これはかなり簡単なことだろう。乙女ゲームにおいてもヒロインにベルローズから突っかかっていたのでベルローズが行動を起こさない限り接触するとは思えない。
そして一番上の条件であるルシウスと交流を絶った後、他に好きな人ができたかのようにみせることが最後の仕上げとして重要だ。
ルシウスとの交流を断つ時点でルシウスへの好意が薄れていると考えるのが普通だが、普通では推し量れないのがベルローズの狂気的な愛情である。最後の最後まで油断することは許されない、とベルローズはつばを飲み込んだ。
この3つの誓いをどこまで果たせるかにベルローズの人生がかかっていた。
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