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1-24 フェルメナース兄妹の誕生日

「ベルローズ、今年の誕生日はどうしようか?」

「え、あぁ……誕生日」



 ぼんやりとしながら朝食を口に運んでいたベルローズは父親の言葉に我に返り、そういえばそろそろ誕生日だったと思い出した。

 毎年フェルメナース家はベルローズの誕生日近くに誕生を祝う夜会を開いていた。兄のレインと誕生日が一日違いということもあって、毎年どちらかの誕生日の夜に行っている。


 知り合いだけを集めた小規模な夜会なので、デビュタント前の子どもでも参加することができ、レインが赤ん坊の頃から毎年訪れるイベントである。



「レインの誕生日でもあるし、例年通り夜会は行う予定だが……」

「知り合いしか集めない夜会ですし、ベルローズを参加させてもいいのではないかしら?」



 そばで話を聞いていた伯爵夫人が伯爵の言葉を遮るように言った。伯爵はそんな伯爵夫人の言葉に「それもそうだな」と頷く。


 そして伯爵夫人からベルローズへと意識を戻した伯爵は「出席ということで大丈夫か?」と確認してきた。知り合い同士の夜会であれば出席してもいいかもしれないと思ったベルローズはコクッと頷く。


 そうしてベルローズは2週間後の夜会に出席することになった。

 

***



「結局夜会には参加するんだな。パートナーはどうするんだ?」

「……あ、どうしようかしら……」



 訳あって朝食には同席していなかったレインに、誕生日に行う夜会に参加することを告げると彼は首を傾げながらベルローズに尋ねてくる。

 夜会に参加することは決めたものの、パートナーを誰にするかなんて考えていなかったベルローズは言葉を濁した。


 レインはそんなベルローズの様子が意外だったようで、目をパチクリとさせた。



「どうしたのお兄様? お兄様が聞いてきたのよ?」

「いや、確かにそうだが……てっきりルシウスかと」



 レインの言葉にベルローズはギュッと眉根を寄せる。



「私はもうルシウス様のことを好きなわけじゃないんだけど……?」

「いや、それはもう十分わかってるが……最近は友人として親しくしているみたいだったし」



 兄の言葉にベルローズは沈黙してしまう。

 お見舞いのあと、彼と出かけたあの日。ベルローズは確かに彼に少しだけ心を開いていたが、それ以前の日々は心の扉を頑丈な鎖で固定していたつもりである。

 ルシウスのほうもそれを察していたし、察してなおベルローズに話しかけてきていたのだがレインにはまったく通じていなかったらしい。

 どうりで嫌がるベルローズを何度も何度もルシウスが訪れる自室に呼んでいたわけだ。



(お兄様って……もしかして鈍感…………?)



 辿り着きたくない答えに辿り着いてしまったベルローズは、小さくため息をついて口を開いた。



「ルシウス様にパートナーは頼まないわよ」

「でもベルローズは他に知り合いなんていないだろ?」

「……」



 レインがきょとんとしながら発した正論はベルローズの心臓にグサリと刺さった。

 彼の言う通り、ベルローズに年頃の令息の知り合いなんてルシウス以外に存在しない。様々な理由があるが、一番の原因は言わずもがな『ルシウスへの恋心』だ。



「お兄様は?」

「俺はリオネがいるから無理だ」

「まぁ、そうよね。婚約者だもの」



 ベルローズはレインが婚約者のユリアデナ伯爵令嬢と出席することを薄々想像していたので、そこまで落胆せずに言う。

 しかしそれにしても困った。レインもダメ、ルシウスは誘いたくない、となればもう他にパートナーを頼める人間など存在しない。



「いっそお父様とか?」

「お父様はお母様と参加するに決まってるだろ」



 政略結婚とはいえ、夫婦仲がすこぶる良好なレインとベルローズの両親が自分たち以外の人間とパートナーになることはほとんどありえない。

 娘であるベルローズがわがままを言えばどうにかなるかもしれないが、夜会の主催側である夫婦が別々のパートナーを伴うのは混乱を招くのであまりよろしくはない。



「もう仕方がないから一人で参加しようかしら……」

「馬鹿言うなよ、主催側の令嬢が一人で参加するなんてできるわけあるか」

「……はぁ……」



 大きくため息をつくベルローズを眺めていたレインが突然「あ!」と大きな声を出す。



「どうしたの?」

「ルシウス以外の令息、一人だけいたじゃないか」

「え?」

「ロバートだよ、ロバート」



 レインの言葉にベルローズは「あぁ……」と納得しかけた……がしかし。



「ロバート兄様は6つも上なのよ? 頼めるわけないわ」



 ロバートとは、レインとベルローズの父方の従兄弟である。年が離れているし、普段は少し離れた領地で過ごしていることが多いため会う機会は少ない。



「この際仕方がないだろ? ロバートは婚約者もいないし、丁度いいじゃないか」



 レインの言葉に(そういえばまだロバート兄様には婚約者がいないのだった......)とベルローズは思い出す。

 貴族にしては珍しく農業をこよなく愛するロバートは、爵位を継がない次男ということもあり悠々自適に領地の農業発展に勤しんでいる。ベルローズとレインの親戚であるのだから、顔立ちは整っているし性格も温和で女性からモテそうなものだが、自領地にいるときはずっと土いじりをしているためか王都のきらびやかなものを好む貴族令嬢との縁はなかなか結べないのだという。



「そうね……ロバート兄様は多分夜会には出席するし、頼んでみるわ」



 6つも年上の彼に、突然11歳の従兄弟のパートナーになってほしいと頼むのはかなり気が引けるが、ルシウスに頼みたくない以上仕方がないと諦めてベルローズはロバートに向けて手紙を書くことにしたのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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