1-1 乙女ゲームの悪役令嬢
ベルローズ・フェルメナース。
それはとある乙女ゲームにおける悪役令嬢の名前である。
その乙女ゲームでは平民出身のヒロインが奨学生として貴族学園に通うことになり、周りに白い目で見られるなか見目麗しく魅力的な男性キャラクターたちと交流を通じて愛を育む。
そして身分をかさにきて、それをことごとく邪魔する人物がベルローズだ。
そんな障害を乗り越えて悪役令嬢を断罪し、ハッピーエンドを勝ち取るというありきたりな乙女ゲーム。
しかしこの乙女ゲームのバッドエンドは他と少し異なる。
キャラクターデザインは攻略対象とひけを取らない美貌なのに、出番がとてつもなく少なかったキャラクターが突然ヒロインを監禁するのだ。
そのキャラクターこそがルシウス・ヴェリアンデ。ヒロインに歪んだ愛情を向ける男である。
この男がどこでヒロインに心を奪われたのかは描かれていないが、彼がヒロインを手に入れるために用いた方法は鬼畜の所業だった。
ルシウスはベルローズがヒロインの恋路の邪魔をするよう唆したのだ。ベルローズが幼馴染であるルシウスに対して狂気的な愛を抱いていると知っていたルシウスは彼女を利用した。
そうしてルシウスに唆されるままヒロインに対し悪行の限り__なかにはヒロインの生死を脅かす犯罪行為もあった__を尽くしたベルローズは、乙女ゲームのハッピーエンドではヒロインと結ばれた攻略対象に断罪され処刑を命じられる。
それに対してバッドエンドでは命は助かるかと思われたベルローズだが、『もう用済みだから』という理由でルシウスが差し向けた暗殺者によって殺される。
また、この乙女ゲームには攻略対象者と友人関係でエンディングを迎え、ルシウスに監禁されることもないノーマルエンドも存在するが、そんなエンディングでもベルローズは『ちっとも役に立たなかった』という理由でバッドエンドと同じようにルシウスが差し向けた暗殺者によって命を落とす。
ちなみにハッピーエンドで攻略対象者によって断罪され処刑されたときは、法に従った処刑だったのでそこまでひどい殺され方ではなかったベルローズだが、他のエンディングでは暗殺者の手によって惨たらしい殺され方をする。
どこまでも愛する相手に利用され、どんな未来だとしても死に至るベルローズは製作陣からひどく憎まれているのではないかとプレイヤーの間でまことしやかに囁かれたのだった。
***
「いやっ、うそ……なんで………」
11歳のベルローズは自室に置かれた姿見に映る自身の姿に絶望の声を上げる。
姿見には前世の彼女がプレイした乙女ゲームの悪役令嬢、ベルローズ・フェルメナースの幼い姿が映っていた。白い肌に整ったパーツが並ぶ顔。ローズピンク色の瞳にキュッと吊り上がる目尻。そして極めつけの真っ白な長い髪。
1週間ほど熱病にうなされた彼女は、たった今自分が凄惨な未来しかない悪役令嬢に転生してしまっていることに気づいたのだ。
小心者だった前世の性格に引っ張られて、ベルローズはその場で気を失ったのだった。
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