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序章

新連載です。

よろしくお願いします!

 フェルメナース侯爵家の屋敷の玄関口で向き合う青年とドレス姿のベルローズ。



「あの、ルシウス様……? どうして我が家にいらっしゃるんですか?」



 言葉が震えそうになるのを必死に隠し、ベルローズは少々引き攣った微笑みで言う。

 そんなベルローズの様子に目の前にいる青年が気づいていないはずがない。彼は秀麗な顔立ちに甘ったるい微笑みをのせて口を開いた。



「どうしてって……夜会のパートナーを迎えに来るのは普通のことだろう?」



 コテッと首を傾げる動作とともに彼の艷やかなミルクティー色の髪の毛がサラリと揺れる。

 彼は『なぜベルローズが疑問に思うのかがわからない』といったふうにきょとんとしているが、おかしいのはどう考えたって彼のほうである。



「私……今夜はルシウス様とパートナーじゃないですよね?」



 そう、ベルローズはルシウスからの今夜の夜会の誘いをハッキリと断っていた。

 しかも今夜のパートナーは別にいる。だからルシウスがベルローズを迎えに来る必要性は全くない。



「あぁ! そのことか。たしかにそうだったね」



 ベルローズの言葉に、ルシウスはわざとらしく『たった今思い至りました』という顔をする。

 ベルローズはその様子に軽い違和感を覚えつつも、ほっと胸を撫で下ろした。



「それでは私はパートナーの方との約束がありますので、失礼します。また会場でお会いできたらいいですね」



 さっさとルシウスを追い出したいベルローズは早々に話を断ち切り、かなり失礼にあたるかもしれないがルシウスを置いて屋敷の外に出ようとした。


 しかし____



「……ルシウス様?」



 屋敷を出るためにルシウスの直ぐ側を通り過ぎたベルローズの細腕をしなやかでありつつも大きなルシウスの手がガッシリと掴んでいた。

 ベルローズは勢いよく彼の手を振りほどきたい衝動をどうにかこらえて、おそるおそる彼の方へ振り向きながら彼の名を呼ぶ。


 ベルローズのほうを見ている彼はうっそりと彼女に笑いかけた。その表情は彼の容姿の良さも相まって背筋が凍るものであった。



「だめじゃないか。僕以外の誰かとパートナーになるなんて……ねぇ、可愛いベル?」

「ひっ......」



 薄い唇から発せられた甘ったるいシロップのようなルシウスの声は、ベルローズにとって命の手綱を握られているかと思えるほど恐怖を抱くものだった。

 ベルローズの口からこぼれ落ちた小さな息を呑む音は、おそらくルシウスにも聞こえてしまっていたのだろう。

 クツクツと低く笑った彼は再び口を開いた。



「君が考え直すと思って、わざわざ君の家まで来たのに自らその機会を棒に振るなんて……ほんとうにおバカさんだね、ベル?」

「放し、て……」



 目の前で狂気的に笑うルシウスに震えそうな声で訴えるベルローズだったが、彼はより強く彼女の腕を握りしめた。

 ギリギリという音がなりそうなほどの強さにベルローズは顔をしかめるが、お構い無しにルシウスはその手を離さない。

 それどころかグイッと自分の方へベルローズを引き寄せた。



「僕から離れるなんて許さないよ?」

「……っ!」



 ルシウスは今までの微笑みながらの話し方とは一転、なんの感情も乗らない声でベルローズの耳元でそう囁く。

 ビクリと肩を大きく揺らしたベルローズに少々気を良くしたのか、身体を一度離したルシウスはベルローズの腕を放して彼女の両肩に手を置いた。

 頑なにルシウスの方を見ようとしないベルローズの顎に右手を添えてグイッと勢いよく上を向かせる。



「うっ……」



 夜会用のヒールを履いているとはいえ、元の身長が150cmほどのベルローズと長身で190cmは超えているであろうルシウスとでは身長差がありすぎて、急に上を向かされたベルローズは小さくうめき声を上げる。

 そんなベルローズを見て、昏い瞳を愉しげに細めたルシウスは低い声でベルローズにこう告げた。



「君は僕のモノだよ。可愛い僕のベルローズ」

「私はあなたのモノなんかじゃ__んぅ!」



 ベルローズの反論は最後まで述べられる前にルシウスの唇によって妨げられた。

 突然の口付けに目を見開いたベルローズはルシウスを突き飛ばそうと押すが、彼はびくともしない。しかもかえって口付けは力強くなり、ルシウスがつけているさわやかな香水が一層濃く香るのをベルローズは感じた。


 ルシウスの気が済み、ベルローズを解放した頃には彼女のメイドが丁寧につけたベルローズの口紅がほとんどルシウスの唇に移っていた。



「今日のところはこれで許してあげる。でも次他のヤツにパートナーを任せたら……わかるよね、ベル?」



 そんな不吉な言葉を吐いたルシウスは踵を返し、口付けのせいで息を荒げているベルローズを残して屋敷を出ていった。



(……なんで、なんでこんなことになったの…………?)



 一人残されたベルローズは床に座り込み呆然とする。

 ルシウスからの無理やりな口付けは今回が初めてではなかった。それなのに毎回不意をつかれたり、今のように逃げられない距離に捕まり避けることができない自分への苛立ちと、こんなことになるはずではなかったという思いでベルローズの心の中はグチャグチャだった。



 そもそもルシウスはベルローズに興味なんてなかったはずだ。だからこれ幸いと彼から離れようとしていたのに。


 だってルシウスは将来ベルローズを利用するだけ利用して、殺害する人間なのだから。


お読みいただき、ありがとうございました。

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