4.間違った民意に罪を、それを抱かせた者に罰を
目を覚ますと、見知った天井が広がっていた。
ここは確か集中治療室の、、、『アスクレーピオスの癒杖』だったか。
「おはよう、少年」
「、、、おはようございます」
心音を嫌でも意識する。
あの時聞こえなくなった心臓の、人間が生きている証であるそれが、逆説的に主張する―――あの時お前は死んでいた、と。
「あの後何があったんですか?」
「何も、、、ただの話し合いだ」
「内容は?」
「今からの会見で嫌でもわかるさ」
そう言う彼女の瞳は深い悲しみとそれを覆い隠すような怒りで暗く淀んでいた。
「まぁ、これを見れば君にもわかるだろう。この国の愚かな行いの罰がどこに、どのよう牙を剥くかが」
そう言いながら病室の窓のカーテンを開け、丁度そこから見える王城の中庭を親指で指さす。
そこに何があるかが気になり、ベッドからゆったりと立ち上がり―――彼女が何度か目にしたのであろうそれを認識し、人間の恐ろしさを嫌でも理解した。
「これは―――」
「この国の民衆であり民意さ、、、極めて歪んでいるがな」
ある人は『ルミナス・ムーンに死を』と書かれた看板を掲げ、ある人は石を売り、ある人はその石を買う。
そこにあったのはひどく歪んだ民衆の、悪意と憎悪と―――ありとあらゆる醜い感情を煮詰めたような醜悪な姿だった。
――――✧――――
『皆様、聞こえておりますでしょうか』
拡声器を通したノイズ混じりの声で、そう言う。
それに対して帰ってきたのは罵詈雑言と石の礫だった。
『聞こえていらっしゃるようでなによりです。それではご報告させて頂きます』
そんな悪意を意に介さずに話続ける。
横に立つ俺の方にも石は飛んできており、時より体に当たった。
『この度、天使の側からの宣戦布告が御座いました。よって―――』
石が頭に当たり、この場において余りにもちっぽけな少女の美しい銀髪を真っ赤に染め上げる。
それを見た瞬間、反射的に銃を敵の方に向ける。
「やめてくれ」
引き金を引こうとした瞬間、ノイズのない声が響く。
それを誰に対して言ったかは明白で、それを理解した瞬間に自分が何をしようとしていたかに気づき、手が震える。
『失礼致しました。それでは結論を申し上げます、、、開戦です。二十から五十までの者はこれより【徒花】所属隊員として扱われます。以上です』
――――✧――――
「済まないな、あんなところに連れて行ってしまって」
「いえ、、、こちらこそ申し訳ございませんでした」
「あれは君の心がそうさせたんだろう?ならいいじゃないか。こんな国のこんな民衆の為に心を殺す私より幾分かマシじゃないか」
そう言って紅茶を飲み、こちらに優しい目を向けてくる。
「それに彼らも―――あぁやっておけば自分の子供に言い訳ができるだろう―――『俺達は抗議したんだ、軍の連中が強制的にお前を連れて行くんだ』とな。確かにその通りなのだから、私から言えることはないさ」
そう言い切るともう一度紅茶を飲み、ぬるいと愚痴をこぼした。
「兎にも角にも―――1ヶ月後には開戦だ。それまでに彼らの生存率を少しでも上げなければいけない。協力してくれるか?アスト」
「勿論です」