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1 庭師

 始まりの記憶は、この掃き溜めのような路地裏だ。

 両親のことは、何も覚えていない。捨てられたのかも、どこかで野垂れ死んだのかも分からない。今となっては、どうでもいいことではあるが。

 

 俺には、力があった。


 生命の流れ、それは生き物全てに等しく存在し、体中を血管のように巡っている。勿論、俺以外の人間にそれを見ることはできない。俺だけに許された、『視る』というの能力。この能力のおかけで、生き残ることができた。そして、今から6年前、ある男との出会いから、俺は生まれ育った路地裏を出ることになる。


「おい、黒髪の小僧。何も取って食おうってわけじゃない。その殺気を抑えな。俺はただその力が欲しいだけだ。俺に付いてくれば、莫大な富と最高級の食事が食えるぞ」


 当時の俺は、そう声をかけてきた。フード付きのみすぼらしい外装を纏い、顔を隠した男の言葉を無視し、襲いかかった。

 今までも甘い言葉を投げかけてきたやつに碌なやつがいなかったからだ。ここで学んだことはひとつ、やられる前にもやることだ。

 いつものように、命まではとらないが、自身の人差しと中指にに命の流れを収束させ、はさみをイメージする。後は、それで相手の足に流れる命の線を截斷するだけだった。


 男と接敵した瞬間、俺は天を仰いでいた。


「気の力だけで生きてきたようだな。そいつは、確かに強力だが、まだまだ、青いな」


 そういうと、男は俺の顔面に渾身の鉄槌を見舞った。


-----------------------------------------------


 純白のベッドの上で、寝かされていた男を、刺激した最初の感覚は、爽やかな果物の香りがするお茶の匂いであった。


 男は今までに感じたことのないような心地よい目覚めと、力を使った気怠さから、ゆっくりを目を開けつつ、上半身を起こすと、眠りつく前に見た呪いに犯されていた美麗な少女の姿が目に入った。

 

「おはようございます。一瞬、うめき声を出されてましたが、それ以外は気持ちよさそうに寝られていましたよ」


 少女はそう言い、カップに入れらたフルーツティーを一口嗜んだ後、一人で椅子から立ち上がり、男の寝るベッドに寄り添うように座った。

 

「歩けるのか?俺はどのぐらい寝ていた?なぜ、俺を生かした」


 男は、昨夜の儚げな輝きとは打って変わって、神聖な黄金の輝きを纏わせる少女に一瞬目を奪われた後、矢継ぎ早に質問をした。


「おかげさまで一人で歩くのは問題ありません。まだ、お茶を入れたりしたりはできないので、助けてもらっていますが。あなたは丸一日寝ておられましたよ」


 一呼吸置き、少女はくすくすと笑いながらこう言う。


「命の恩人にそのうようなことをするわけありませんわ。そんなことをしたら、天にある母に怒られてしまいますわ」


「なら、俺の命はあなたの物だ。好きにするといい。何か命じたければ、なんでもしよう。例えば、その呪いをかけたやつを殺せと命じれば、必ず遂行してみせるが?」


 少女は少し悲しい顔を帯させながら言う。


「あなたには、そういうことはして欲しくありませんわ。なので、代わりといってはなんですが、この家の庭師になってくれませんか?その大きな、剪定鋏もありますことですし」


 男は窓際に立て掛けられた、ガーデニングにとてもにつかわない己の武器に視線を移した後、部屋の入り口に立っているなんともいえない表情をした小太りの男に目を向けた。


「さっきから、何か言いたそうなしているおっさんがいるが」


「おっおっおっさんとは失礼な!!私はガーデニア家当主のガーデニア・カーネだぞ!!」


 ここにきた初めて口を開けた男は、口荒く続けて言う。


「愛しいリーナよ。パパはこんな見ず知らずのましてや暗殺者の男を雇うなんて許せないよ!!」


「お父様。私はこの方に救われたのですよ。お願いします」


「パパは嫌ですー。絶対に嫌ですー」


 中年な男が幼児のように駄々をこねる姿にため息をついた後、リーナは顔は微笑みながらも、瞑られたまま眼からまるで、笑っていない瞳が垣間見えるように発した。


「私が今まで人のことをみてきて失敗したことがありますか?いやありませんね。むしろ、それでお父様のために色々としてあげたことを忘れたとは言わせませんよ。例え、この目が見えなくてもです」


 リーナの言葉にカーネは分かりやすくしゅんと肩を落とし、うなだれる。


「お父様の許可も得たことですし、先ほどの件を了承してもらえますか?」


 リーナは父に向けた笑顔とは真逆の微笑みを男に向ける。


「それがあなたの命令であるならば俺はそれを受けるだけだ。ただ庭師とはなんなんだ?」


「少しばかり広めのお庭があるのですが、そちらのお手入れをお願いしたくて。お花たちの元気がないので、私にしてくださったようにお花たちにも力を与えて下さると助かります。」


 リーナは少し含みを持たせた笑顔でそう告げるのであった。


「そういえば、あたな様のお名前を聞いてなかったですわね。教えて下さりませんか?」


 男は夢の中での出来事を思いだしつつ、彼から名付けられた名前を名乗った。


「クロウと言う。姓はない」











 

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