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試行一回目

 我が主が滅んだ人間のために世界を巻き戻すことは、今回が初めてではない。

 過去何度もやったことであり、そのためまずどうするべきかは何となく自分でも分かる事だった。


「まずは、最後の国を見てみようか」

「かしこまりました」


 主の言葉を聞いて、器の中に映る世界を最後の国と呼べるだけの社会性があったところまで巻き戻す。

 数十年ほどが巻き戻り、極端に数を減らして身を寄せ合う人類の姿が映し出された。


「少ないね」

「そうでごさいますね」

「これだけでは、再構築は出来ないだろうな……ここから進めるなら、何が居るかな?」

「……安全と、食料でございましょうか」

「そうだね、まずは食料が無いと、生き物は繁栄しない」


 ゆったりと響く主の声と共に、最後の国に主の加護とそれによってもたらせる豊穣が訪れる。

 けれど、そのまま時間を進めても人間の数はさほど増えず、滅びまでの時間が少し伸びただけで緩やかに滅んでいった。


「うん、駄目だね」

「やはり数が問題になりますでしょうか」

「そうだね……もう少し巻き戻して、このあたりがまだ栄えてた頃にしてみよう」

「かしこまりました」




 国が一つにまで減った時間から、数年ずつ時間を戻して一帯にまだ村々が存在した頃にさかのぼる。

 既に人間の数は随分と減って、人間たちの顔には不安と絶望がありありと浮かんでいた。


「うーん……どうしようか。このあたりは何が問題かな?」

「……隣の大陸で人が滅んだと知らせが入り、さらにそこから疫病が広がっている様子です」

「隣……あぁ、こちらから滅んだんだね。どこが発生源だろう」

「少々お待ちくださいませ」

「ゆっくりでいいよ」


 ゆっくりと時間を戻していくと、人がまだ栄えていた頃の世界が戻ってくる。

 そこから数年で滅ぶ寸前まで向かうので、どこかで大きく人間が減るのだろう。

 一度目の波を見つけたのは、既に人間が半分ほどに減った頃だった。


「ここが、疫病の発生源のようでございます」

「……うん、これで随分と減ったようだ。治せないほどのものではないようだけど……」

「既に人の数は半分ほどに減っておりますから、研究の時間も無かったのかと」

「なるほど、なら、ここを止めてみようか」


 人を滅ぼす一因となった疫病に対して、主の加護が向く。

 疫病への対抗策となり得る薬は、主が自らの傍によく咲かせる花から作り出された。

 主神の加護だ、と人が騒ぎ、薬の研究が進み、そして薬を奪い合って結局人の数は減って行った。


「……どうなさいますか?」

「与えられる子たちは争う気が無いから、守り切れないだろうね」

「私も、そのように感じます」

「かといって、これ以上加護を撒くのはね……もう少し巻き戻そうか」

「かしこまりました」




 疫病発生以前、人の数が大きく減る波は、そこから数年前に発生していた。

 そこでは人の二割ほどだろうか、大陸の大きな国が、相次いで滅びを迎えている。


「何が原因かな?」

「……戦争が起こったようです」

「なるほど、お互い潰し合ったのなら、数も減るだろうね」

「いかがなさいますか?」

「……この国に、少し大きな加護を落とそうか」


 主が示したのは、戦争を起こした大国二つの傍にある国。

 大きくはないが安定しており、主への信仰が強い国の一つだったと記憶している。


 我が主が争いを好まないことは人間たちも知っており、この国は争いに参加する様子は見せなかった。

 先ほど巻き戻してきた時間を見ている限り、他の国の争いに巻き込まれる形で滅亡しているようだ。

 加護が宿れば、滅ぶことは無くなるだろうか。


 主の加護が宿った国は、戦いに巻き込まれても滅ぶことなく在り続けた。

 そして他の国が疲弊したところで他国へ力を示し、他国を吸収して一つの大国となる事でこの戦争は終息した。


「このまま時間を進めてみよう」

「かしこまりました」


 進みだした時間の中、世界は先ほどより安定していた。

 けれど、流れの変化がありつつも数百年が経つ頃には再び滅びを迎えて、世界に人類の姿は無くなっている。


「駄目か。これは何が原因だろう」

「……かの国が、周辺諸国を侵略したようです」

「なるほど、呑まれてしまったか。確かに途中で、加護が消えているようだ」


 人が滅ぶ原因は、この戦争ではなかったらしい。

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