双児館の決闘! 光の巫女、壺中の天地にて斯く戦えり(第5楽章)
闇の中――見つめている。
血走った眼。魔眼の箱の瞳。
気味の悪い視線を受けながら、私は決闘礼装に指をかけた。
《魔眼の鋼鉄箱》――。
「壺中天」のエルさんが私のフィールドで発動した不気味なコンストラクトカードによって、デッキの一番上のカードが公開されたままターンを迎えることになった。
時を超える魔瞳に映りし未来は《「神造人間」ザイオンX》だ。
「(次にドローできるカードはザイオンX。ここからウルカ様のデッキが得意とする錬成で……反撃に転じます!)」
先攻:「壺中天」のエル
【シールド破壊状態】
アルターピースサークル:
《五連祭壇体「Fe Iron Z」》
BP3000
後攻:「壺中天」のユーア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
なし
サイドサークル・アリステロス:
《魔眼の鋼鉄箱》
「私のターン、ドロー!」
ところが……。
デッキに手をかけた途端に、魔眼に映る未来は異なるカードに書き換わった!
「これはっ……!?」
「私にはあるのだよ。君の未来を書き換えることができる権利がね」
魔眼の箱が緑色のオーラを放つ。
これは――コンストラクトカードの効果!?
エルさんはしたり顔で口元を歪めた。
「予言はあくまで予言に過ぎないのさ。《魔眼の鋼鉄箱》がフィールドにあるかぎり、そのカードのコントローラーにとっての対戦相手――つまりは私――は1ターンに1度だけ、デッキの一番上のカードを墓地に送ることができる」
エルさんの言うとおり、気づくとデッキの一番上にあったはずのザイオンXは墓地へと送られていた。
代わりに手札に加わったのは《エマージェンシー・コクーン》のカード……!
「このカードじゃ、錬成は実行できません……!」
「――やはり。こちらの世界の君には、フォーチュン・ドローは使えないようだね」
「…………っ!」
――見抜かれていた。
エルさんの言うとおり――頭の中にもやがかかったような「壺中天」の世界の中では、私は思うようにカードをプレイすることができないでいた。
あれだけ一緒に決闘をして、動かし方を熟知しているはずのウルカ様のデッキでさえ……まるで知らないデッキのように映ってしまう。
やはり、私の生得属性は光のエレメントだけ。
それに加えて、記憶を奪われ、魂を裂かれ、この奇妙な箱の中に閉じ込められた今の私には――ウルカ様のデッキのスペックを半分も引き出せていない。
それでも――ザイオンXのカードさえ引ければ。
そう、考えていたのに。
「(シオンちゃん……!)」
私は墓地に送られた《「神造人間」ザイオンX》のカードに目を落とした。
「(ぶい)」
「(えっ……!?)」
カードのイラストに描かれていたシオンちゃん――ザイオンXが、活動写真のようになめらかに動いてVサインをした。
すごい、そんなこともできるんだ!
「(私を励ましてくれてるんですね。ありがとうございます!)」
「(こくり)」
シオンちゃんは表情を変えずに頷くと、指で何かの字を描いた。
これって……。
「『武と云うよりは舞……舞踊だな』?」
「(否定する。書いてないよ、そんなこと)」
ふるふる、とシオンちゃんは首を横に振る。
あらためて、よくよく読んでみると……。
「(アルファベット……?)」
シオンちゃんは空中に7文字の単語を描いていった。
「I」「N」「F」「E」「R」「N」「O」
「い……いんへるの?」
〇〇〇
一方、現実世界では。
「やっぱ、箱の中の私は本調子じゃない……それなら、せめて私が全力で戦います!」
私は右手に黄金の光を宿らせる。
この局面で必要なカードは、あのスピリットだ。
「応えて……!フォーチュン・ドロー!」
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「衒楽四重奏」生まれる命の讃来歌》
BP1000
サイドサークル・アリステロス:
《「衒楽四重奏」嵐の夜の追奏曲》
BP1000
エクストラサークル:
《「衒楽四重奏」七つの海の幻想交響楽》
BP3500
後攻:ユーア・ランドスター
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《戦慄のワルキューレ騎士、ランドグリーズ》
BP2000
サイドサークル・アリステロス:
《極光の巨人兵士》
BP2500
黄金の軌跡が弧を描く。
決闘礼装から手札に加わったのは――新たなる戦乙女!
私はランドグリーズをコストに、グレータースピリットを召喚する。
「全能なるアースの神々の下にその名を告げる。シルヴリントップに導かれた銀の聖戦士――振るいし剣の名はシグルドリーヴァ!もっとも貴き魂、もっとも気高き誉れの元に、ただ勝利を求める者!」
メインサークルに白銀の鎧をまとった戦乙女が降臨する。
それは勝利という戦果をもって、戦を平定する最終執行者。
「《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》!」
戦場に降り立った戦乙女。
シグルドリーヴァをエルさんは見定めているようだった。
「……ユーユーの新しいワルキューレ。でもでも、ランドグリーズをコストにしたわりにBPは大して変わってない……それじゃ、召喚しただけ損だよね?」
「ふふっ。それは、どうでしょうか?」
このカードには召喚するだけの価値がある!
「《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》の召喚時発動効果!
このカードはワルキューレをコストに召喚することで、墓地から光のエレメントを持つレッサー・スピリットを配置することができます!」
《極光の巨人兵士》も持っていたコストを再利用する効果。
エルさんは不機嫌そうに舌打ちをして、口元を尖らせた。
「なになに、その効果……!グレーター・スピリットのくせに、それじゃコストを払ってないようなもんじゃん……!ずるいずるいっ!」
「ズルではありません!これは光のエレメントが導く、結束の力!」
光は新たな光を呼び、光が結びついた運命は新たな絆を結ぶ。
そう、私とウルカ様のように――!
墓地からサイドサークルにスピリットを配置する。
第一ターンに《遥かなるナグルファル》によって墓地に送られたスピリットの一体だ。
「あなたの出番だよ!《移り気なリョースアールヴ》!」
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「衒楽四重奏」生まれる命の讃来歌》
BP1000
サイドサークル・アリステロス:
《「衒楽四重奏」嵐の夜の追奏曲》
BP1000
エクストラサークル:
《「衒楽四重奏」七つの海の幻想交響楽》
BP3500
後攻:ユーア・ランドスター
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》
BP2100
サイドサークル・アリステロス:
《移り気なリョースアールヴ》
BP2500
サイドサークル・アリステロス:
《極光の巨人兵士》
BP2500
墓地から光をまとった少女の姿をした妖精が現れる。
リョースアールヴ――天上界アールヴヘイムの住人。
エルさんは「ちょっと待ってよ!?」と叫ぶ。
「そのカードは……《移り気なリョースアールヴ》はレッサー・スピリットなんだよね!?なのになのに、どうしてグレーター・スピリット級(2500)のBPを持ってるのっ!?」
「それは、この子が『通常の方法では召喚できない』というデメリットを持ってるからです」
《移り気なリョースアールヴ》は、その名の通り気難しいスピリットだ。
故に手札に引き込んでも、そのまま召喚することはできない。
手札からランドグリーズの召喚コストにしたり、《遥かなるナグルファル》で墓地に送ったあとで……シグルドリーヴァや《ヴァルホルの角笛》のような墓地から配置するカードを使うことでしか力を借りられないのだ。
「その分、レッサー・スピリットとしては強力なBPを持ってるから……頼りになる子なんですけどね」
私が褒めると、リョースアールヴは得意そうな顔をして胸を張った。
すぐ調子に乗るあたりは扱いやすいと言えるかもしれない。
すると――ガンッ!と音を立てて、エルさんが修行場の地面を踏んだ。
なにやら、様子がおかしい。
「エルさん……?どうしたんですか」
「……ずるいよ。『光の巫女』だかなんだか知らないけど……使ってるカードはみんな、つよいカードばっかり。ずるいよ。ずるいずるいずるいずるい!」
元から幼い印象だったエルさんは、まさに子供のように駄々をこね始めた。
たしかに光のエレメントを操ることができるのは、この世界で私だけ。
でも、条件付きでBPをグレーター・スピリット級まで上げるのは――エルさんの使う炎天下の行進曲だって同じなのだし。
「落ち着いてください。貴族のエルさんは、平民の私が持っていないエンシェント・スピリットだって使えるんですから……」
「うるさい、うるさい!ボクは、ユーユーなんかに負けない。ずるいカードを使われたって、ボクたちの方がつよいんだから。ボクは……絶対につよくなきゃいけないんだからっ!」
☆☆☆
(強くなければ……ユーアに勝てるぐらいじゃなきゃ……!)
(あの人に――私はあの人の力になれなくなるッ!)
☆☆☆
――エルさんの様子は尋常ではなかった。
本来、この昇格戦にはアンティは存在していなかった。
私とエルさんが追加したアンティにしたって、カードやランクを直接奪い合うようなものではないはず。
なのに……。
「(――感じる。悲壮なまでのエルさんの想いが)」
エルさんは――この決闘に、絶対に負けられないという決意を抱いているのがわかる。
どうして?
何がエルさんをそこまで駆り立てているんだろう?
そのとき、私は視線を感じた。
修行場に鎮座する「箱」の中で、向こうの世界の私がこちらを見ていたのだ。
向こうの私は――空中に指を這わせている。
「(あれは……何かの、字を書いているの?)」
何の字を書いているのか、注意深く観察することにした。
ええと、なになに……?
「『武と云うよりは舞……舞踊だな』?」
「(そんなこと、書いてません!)」
箱の中の私は手でバッテンを作る。
もう一度、読んでみると――。
「I」「N」「F」「E」「R」「N」「O」
「……インフェルノ?」
私はエルさんが腕に入れていたタトゥーの文字を思い出した。
”事実6:完全なる地獄を目指せ”
「完全なる地獄って――もしかして?」
決闘礼装のモニターを操作して、これまでの「壺中天」の決闘で変形した「RINFONE」の各形態をおさらいしていく。
「RINFONE」、「Inner Of」、「No Infer」、「Zero Fin」、「Fe Iron Z」……。
どれも「RINFONE」の文字を入れ替えることで作られている。
その果てにある最終形態は――インフェルノ?
「……そっか。「RINFONE」が変形を繰り返す目的は、自身の文字を入れ替えることで「INFERNO」――完全なる「地獄」を作ることにあったんだ!(超速理解)」
RINFONEはすでに第五形態。
正方形五枚のカードによって作られたパズルは、あと一枚で立方体が完成する!
残された猶予は、おそらくは今が最後……!
私の独白を聞いて、エルさんは調子を取り戻したようだ。
ニイッと挑発的に口元を歪ませると、決闘礼装を構える。
「にひひ。いまさら気づいても、おそいおそいっ!」
「いいえ、まだ遅くはありませんっ!」
このターンで決着を着けます。
エルさんに……これ以上の時間は与えない!
☆☆☆
「ぶい。指文字作戦、大成功」
「ありがとうね、シオンちゃん。……なんだかユーアちゃん同士でディスコミュニケーションが発生してたみたいだけれど。伝わったから、良しとしましょうか」
――エルちゃんが目指している終着点。
パズルの完成形が「INFERNO」であることは伝えられた。
ウルカとシオンが考える、今後の懸念点としては――。
「箱の中のエルちゃんに、あと一撃を入れるのは……そう難しくはないわ。というより――「INFERNO」を完成させるためには、第五形態が破壊される必要があるのだから。きっと、ダメージを恐れないで向かってくるはず」
「肯定する。問題は、箱の外のエル」
七つの海の幻想交響楽。
BP3500を誇る「衒楽四重奏」のエース・スピリットだ。
エクストラサークルにあのスピリットがいるかぎり、メインサークルやサイドサークルへの攻撃はできない。
さらにサイドサークルのスピリットをコストに墓地に送ることで、戦闘や効果による除去を無効にする能力まである。
エルのサイドサークルにはコストにできるスピリットが一体。
単純に戦闘だけで排除しようとしたなら、BP3500のスピリットを二回戦闘で倒さなくてはならないわけだ。
シオンは盤面を指差した。
「質問。どうする?マスターが、あのスピリットを攻略するとしたら」
「そうね……たとえば、サイドサークルのスピリットをカード効果で除去してから攻撃するのはどうかしら?それなら、戦闘で倒すのは一回だけで済むもの。他には、エクストラサークルに有効な除去カードを使う、とかかしらね……」
「肯定する。本機が戦う場合でも、そうする」
シオンは、どこか弾んだような声色で質問を重ねた。
「重ねて質問。なら、ユーアならどうする?」
「そんなの……決まってるじゃない」
小細工なんて必要ない。
二回、戦闘で破壊する必要があるというのなら――。
〇〇〇
「二回、戦闘で倒すだけですっ!」
「……はぁ!?そんなの、できるわけ、ないないっ!?」
いいや、実現できる。
正面から打ち倒せるだけの兵力の用意は、すでに出来ていたのだ。
《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》の更なる効果を発動した。
「シグルドリーヴァの召喚時発動効果には続きがあります。墓地のスピリットを二体、除外するたびに――自分フィールド上のスピリットすべてにBP500アップの効果を付与できる!」
「それってそれって、ランドグリーズと同じ効果を……みんなに与えるってこと!?」
「全軍の指揮を取れ……エインヘリアル・ヘルフォーズ!」
私はこの効果で墓地から六体のスピリットを除外した。
上昇するBPは――合計で1500!
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「衒楽四重奏」生まれる命の讃来歌》
BP1000
サイドサークル・アリステロス:
《「衒楽四重奏」嵐の夜の追奏曲》
BP1000
エクストラサークル:
《「衒楽四重奏」七つの海の幻想交響楽》
BP3500
後攻:ユーア・ランドスター
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》
BP2100(+1500UP!)=3600
サイドサークル・アリステロス:
《移り気なリョースアールヴ》
BP2500(+1500UP!)=4000
サイドサークル・アリステロス:
《極光の巨人兵士》
BP2500(+1500UP!)=4000
「これでBP3500を超えるスピリットが三体ッ!バトルです!」
《極光の巨人兵士》がエクストラサークルに進撃する。
巨人の振るう棍棒の一撃!
嵐の夜の追奏曲を墓地に送ることでエルさんは戦闘破壊を防ぐ。
だけど――《移り気なリョースアールヴ》の攻撃を止める手立てはない。
「ふたたびエクストラサークルに攻撃です!」
光の妖精が、波打つオーロラの髪をなびかせて灯を放った。
タンポポの胞子のようにも見える光の粒子の塊が、少女楽団の楽士長に触れた途端に――すさまじい光と熱量の反応が巻き起こる!
「七つの海の幻想交響楽、撃破!」
「…………」
あとには何も残らない。エルさんは無言でうつむく。
残されたのは――生まれる命の讃来歌だけ!
●●●
箱の中。
私は覚悟を決めた。
たとえパズルを完成させることになろうとも……!
「このターンで決着を着けます!錬成が無くたって、ウルカ様のデッキの力はこんなもんじゃありません!」
インセクト・スピリットのみんな。
今だけは、私に力を貸して!
「私は手札から《死出虫レザーフェイス》を召喚して、効果発動!このカードは自分フィールドのコンストラクトカードを破壊することで、カードをドローできます!」
死出虫レザーフェイス。
泣き苦しむ人の顔のような不気味な(ごめんね!)模様が描かれた甲虫型スピリット。
何度もウルカ様が使っていたから知っている。
このスピリットはフィールドのコンストラクトを餌にして、ドローにリサイクルできるのだ。
魔眼の箱と目が合った。そう、私が破壊するのは――。
「《魔眼の鋼鉄箱》を破壊して、カードを一枚ドローします!」
「……へぇ。私が送り付けたカードを利用してドローに繋げるとはね……どうやら、利敵行為をしてしまったようだ。私も一つ、賢くなったよ」
エルさんは殊勝な言葉とは裏腹に、余裕を崩さない不遜な口調で言った。
「さて。ここから何を見せてくれるのかな?」
「もっとも美しき昆虫――ウルカ様のエースです!」
サイドサークル・アリステロスが空いたことで、コンストラクトが設置可能となる。
これで、このターンにドローしたカードを使えるようになった!
「《エマージェンシー・コクーン》を発動!このカードの発動時、私はデッキから《エヴォリューション・キャタピラー》をサイドサークルに配置できます!」
チューチュー、と鳴き声をあげて芋虫型スピリットが現れる。
そういえば――この子は以前にも私の場に配置されたことがあった。
忘れもしない、ウルカ様との最初の決闘。
「久しぶり。また一緒に戦おうね!」
チュー!と気合を入れて芋虫が応えた。
……なんだか、ちょっとかわいく思えてきたかも。ちょっとだけ。
これで布陣は整った。
「私は《エマージェンシー・コクーン》の更なる効果を発動します!このカードを墓地に送ることで、《エヴォリューション・キャタピラー》をコストに含むシフトアップ召喚を追加でおこなうことができる!」
《エヴォリューション・キャタピラー》。
《死出虫レザーフェイス》。
二体のレッサー・スピリットを墓地に送る――そう、私が召喚するのは。
本来は平民である私が持ちえないスピリット・カードだ!
私は手札のエンシェント・スピリットを見つめる。
蒼銀の翼――昆虫界の最高峰。
ウルカ様のエース・スピリット。
「現れ出でよ、《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》!」
先攻:「壺中天」のエル
【シールド破壊状態】
アルターピースサークル:
《五連祭壇体「Fe Iron Z」》
BP3000
後攻:「壺中天」のユーア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》
BP3000
虹青色の大翼が現れ、その威容をフィールドに誇示する。
鉄製の大巨神と、最強の昆虫スピリットがにらみ合う形となった。
そのBPは一見して互角――このままでは相打ちで、ダメージは与えられない。
だけど……勝算は、ある!
「……バトルです。ブリリアント・スワローテイルで「Fe Iron Z」を攻撃します。
絢爛たるハビタット・ストーム!」
「何が狙いか……見極めることにしよう。
迎え撃て、「Fe Iron Z」――ラスト・ハリケーン!」
触れたものを消滅させる驚異の毒鱗粉と、あらゆるものを吹き飛ばす終焉の嵐!
二つの攻撃が重なる刹那――私は手札からスペルカードを発動した。
「介入!《緊急化蛹》――このカードによりデッキから《コクーンポッド》を発動して、スワローテイルに装備します!」
「《緊急化蛹》……。一つ、賢くなったよ。そのための攻撃宣言か」
《コクーンポッド》は装備したインセクト・スピリットのBPを500アップさせるコンストラクトカード。
ただし、デメリットとして装備したスピリットは攻撃できなくなってしまう。
「『このカードを装備したスピリットは攻撃できなくなる』というのは、正確には『攻撃宣言ができなくなる』ということです。すでに攻撃宣言をおこなったスワローテイルは、たとえインタラプトによって戦闘中に《コクーンポッド》が装備されたとしても、一度おこなった攻撃宣言が取り消されることはありません!」
すなわち――バトルは継続!
鉄よりも硬い堅牢な繭をまとったスワローテイルは、その肢を折りたたんだまま敵スピリット目掛けて飛来する。
さながら、その姿は白い弾丸のよう。
先攻:「壺中天」のエル
【シールド破壊状態】
アルターピースサークル:
《五連祭壇体「Fe Iron Z」》
BP3000
後攻:「壺中天」のユーア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》with
BP3000(+500UP!)=3500
「(ウルカ様のデッキ、こういうヘリクツじみた小技が多くて使うのが難しい……!)」
でも、それだけに幅広い対応力を持っているのが強みだ。
――弾丸と化したスワローテイルが「RINFONE」第五形態を撃ち抜いた。
エルさんのライフコアが破壊される。
勝利まで、あと一歩!
なのに……敗北まで追いつめられているというのに、エルさんはどこまでも冷静で。
汗一つかかずに――かといって、笑みを浮かべるようなこともなく。
ただただ、破壊された「RINFONE」を組み替えていく。
新たな形態――第六形態へと。
――なにか、嫌な予感がする。
同時進行している決闘でも、箱の外の私は優勢だった。
エルさんが展開したスピリットを、力任せの圧倒的な高打点で蹴散らしていく。
どちらの世界でも勝利は目前。そのはずなのに。
「……出来た」と、エルさんは手を動かすのを止めた。
組み上げられたパズル――予想通り、それは正方形のカード六枚で構成された立方体だった。
エルさんは正六面体となったパズル(カード)を、正二十面体のパズル(決闘礼装)にセットする。
怖い。
完全なる地獄――エルさんが完成させようとしていたスピリットの完成形。
それがどんな力を持っているのか……考えるだけでも恐ろしい。
恐怖に駆られて、私は思わず叫ぶように声を張り上げた。
「もう、決闘は終わりです……!そのスピリットがどんな力を持っていても……箱の外で、私がエルさんを倒したら意味がありません!」
私の声が、聞こえているのか聞こえていないのか……エルさんは静かに、その名を告げた。
第六の形態――パズルの本当の名を。
「変幻自在のシックス・チェンジャーよ。地獄への片道を今こそ数えよう。
第一の英知は箱の中。
第二の知見は愛欲に溺れた熊。
第三の見識は貪食にむさぼる鷹。
第四の識認は貪欲に身を焦がす魚。
第五の認否は人の似姿をもって憤怒を示せ。
究極の苦難は拓かれる――ルマルシャンの秘蹟をここに。
《六連祭壇画・完成全能体「INFERNO」》」
ついに明かされる「RINFONE」の第六形態――。
でも、これって……!?
「……嘘。だって、これじゃスピリットじゃなくて、まるで……!?」
〇〇〇
「これで……決着です!」
箱の外――私にはシグルドリーヴァの攻撃が残されていた。
エルさんのメインサークルを守るのはBP1000のスピリット。
BP3600であるシグルドリーヴァの敵じゃないはず!
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「衒楽四重奏」生まれる命の讃来歌》
BP1000
後攻:ユーア・ランドスター
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》
BP2100(+1500UP!)=3600
サイドサークル・アリステロス:
《移り気なリョースアールヴ》
BP2500(+1500UP!)=4000
サイドサークル・アリステロス:
《極光の巨人兵士》
BP2500(+1500UP!)=4000
「(あえてBP4000のスピリットではなく、BPが低いシグルドリーヴァの攻撃を温存したのは……メインサークルのスピリットの戦闘には、敗北した場合にはダメージのフィードバックがあるから。でも、このBPの差ならスペルカードの支援を受けたとしても敗北することはないはずです……!)」
私は勝利を確信した。
「壺中天」の決闘では、すでにエルさんはライフコアを破壊されている。
この一撃で二つめのライフコアを破壊して、決着を着ける……!
「《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》でメインサークルを攻撃です!」
もう、エルさんには打つ手はないはず。
だけど……エルさんは手札のカードを一枚選んで……笑った。
「……にひひ」
――まずい。まだ罠が残されていた?
「でも、この局面で逆転する方法なんて……!?」
敗北の直前にまで追いつめられていたエルさんは――。
それまでの狼狽が、まるで演技だったかのように喜色満面の笑みを浮かべた。
「ボクは、スペルカードを発動するよ。介入――」
●●●
「RINFONE」第六形態――。
異形のスピリットを支配下に置いたエルさんは、手札からカードを発動した。
「私はスペルカードを発動する。介入だ」
〇〇〇●●●
――二つの世界で、少女の声が重なる。
「「《双子連動消去》」!」
そして――天地が反転する。
●●●
エルさんが《双子連動消去》を発動した途端に――砂時計がひっくり返されるように、空と大地が逆になったかのように、物事の裏と表が意味を変えたかのように。
全ての盤面が入れ替わった。
先攻:「壺中天」のエル
【ライフコア破壊状態――ゲーム継続!】
メインサークル:
《「衒楽四重奏」生まれる命の讃来歌》
BP1000
後攻:「壺中天」のユーア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》with
BP3000(+500UP!)=3500
目の前にいるのは、間違いなく少年の姿をしたエルさんだ。
なのに――その決闘礼装は弦楽器の形へと変形して。
先ほどまでいた「RINFONE」は、この世界から完全に消去されていた。
「まさか……!?《双子連動消去》の効果とは……!」
〇〇〇
「……二つの世界の、盤面を丸ごと入れ替えるスペルカード!」
私は理解した。
二つの世界で同時に発動したスペルカードは――そのカードをワープゲートの入り口と出口のようにして、本来は繋がるはずのない世界への扉――否、門となる。
「これが、エルさんの狙いだったんですね……!」
「そうだよ、そうだよ♪もう一人の「私」が箱の中で育ててくれた、完全なる形の「RINFONE」――「INFERNO」をもってして、、現実の世界にいるユーユーを倒す。それがボクと……私の考えた”さくせん”!にひひ!」
「箱」の中にいる本調子ではない私を相手に、時間を稼いで。
「RINFONE」を変形させ続けていたのは、このため!
「全ては……私のワルキューレデッキに「INFERNO」をぶつけるために!」
「……くやしいけど、ユーユーは……つよい。ユーユーだけが使える光のエレメント。そんなデッキを持ってるユーユーに、どうやって勝てばいいのか……ボクはずっと考えてた。そして、気づいちゃった。こうすれば良かったんだって!」
にひひひひひ――笑うエルさんの決闘礼装が変形して、正二十面体のパズルに変わった。
組絵立体型決闘礼装『イコサヘドロン』――。
決闘礼装の中央は立体カードを迎えるための祭壇へと変わる。
アルターピースサークル。ついに現実の世界に「完全なる地獄」が顕現した。
先攻:エル・ドメイン・ドリアード
【シールド破壊状態】
アルターピースサークル:
《六連祭壇画・完成全能体「INFERNO」》
BP0
後攻:ユーア・ランドスター
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《栄光の先達、ワルキューレ・シグルドリーヴァ》
BP2100(+1500UP!)=3600
サイドサークル・アリステロス:
《移り気なリョースアールヴ》
BP2500(+1500UP!)=4000
サイドサークル・アリステロス:
《極光の巨人兵士》
BP2500(+1500UP!)=4000
「地獄」の正体を目撃した私は驚愕する。
そこにあったのは意外な物体だったのだ。
「これが「INFERNO」の正体……!?」
そこにあったのは、正方形のカードが六枚組み合わさって出来た立方体。
正六面体に組み替えられたパズルとなったカードが――そのまま召喚陣に置かれ、スピリットとして戦場に現れた。
『スピリット・キャスターズ』では本来はありえないはずの正方形のカード。
フィールドを離れるたびに再配置され、一枚分ずつ面積を拡大できるカード。
組み替えられることで、無限にその形状を変化させていくカード。
《完全生命体「RINFONE」》――。
私は「答え」にたどり着いた。
「そんなっ……!あのカードそのものが、スピリットだったってことですかぁ!?」




