《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》
ここは、本編とは異なる時空。
「学園」の中でも選ばれし者しか使うことができない特別なラウンジ。
アンティークな家具に囲まれた雰囲気のある洋風の空間――ウルカは等身大の鏡を前にして、腕を組みポーズを取っていた。
学生服の上から、青い蝶の柄が描かれた緑色のマントを肩に羽織っている。
「……よく考えたら、私も『反円卓の騎士』なのだし。そろそろ用意しようと思っていたところなのよね――みんなが付けてる『ラウンズ』専用のマントを!」
――とはいえ、ちょっとカッコつけすぎかしら?
元のウルカがゲームの悪役令嬢ということもあり、なんだか威圧感がした。
ただでさえ青紫髪の縦ロールに加えて目つきが悪くて、ワルモノっぽいというのに。
こんな偉そうなマントまで羽織ってしまうとね。
威厳がある、と言えば聞こえはいいのだけれど――。
「ふん。馬子にも衣裳とはよくぞ言ったものだ」と後ろから声がする。
「ひゃあっ!」
「うわぁっ!急に叫ばないでくれっ!」
振り返ると、そこにいたのは童話の本から飛び出てきたような金髪の王子様――。
「……なんだ、アスマか」
「なんだじゃない。僕を呼んだのは君じゃないか。そろそろ始めるんだろう?」
――そうだったわ!
「コホン」と咳払いをして、ウルカはカメラに向けて指を指した。
「待たせたわね。始めるわよ!今回の『デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね!?』は恒例の番外編。
第五回『プレミアムカードの殿堂』――ゲストはこの人!」
「アスマだ。このコーナーに出演するのは初めてになるね。よろしく頼むよ」
いかにもよそ行きらしい、爽やかな笑顔を作るアスマ。
片目を閉じると、まるでお星さまが弾けるようだ。
皆さん!こいつ、こんな顔してるけど笑い声は「ひゃははは」だからね。
騙されちゃダメよ。
アスマは営業スマイルのまま台本を読み上げる。
「――さて。今回は第五章で描かれた、僕とミルストン先輩の決闘で使用されたカードを紹介するのだったね。もう紹介するカードは決まっているのかな?」
「ええ。今回はずいぶんとド派手な戦いだったから……紹介するカードを選ぶのにも苦労したわ。王家直伝の強力なドラゴン・スピリットたち。歴史に悪名高い禁断の決戦兵器。あるいはアスマと母親であるセレスタさんを繋ぐ因縁のカードまで。様々なカードが激突した、その中でも――もっとも絢爛華麗なカードは、これよ!」
ウルカは手にしたカードを指先でひっくり返す。
今回、殿堂入りとして紹介されるカードの名は――
「ユニゾン・スピリット、《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》!」
《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》
種別:ユニゾン・スピリット
エレメント:水
タイプ:エレメンタル
BP4500
共鳴条件:
《磁気の火蜥蜴》と水のエレメントを持つ「英魂」スピリット1体以上
効果:
このカードは効果の対象にはならない。
素材となった水のエレメントを持つスピリットの数だけ攻撃できる。
このスピリットが攻撃するとき、攻撃対象が相手のメインサークルである場合、戦闘ダメージを与える代わりに相手のデッキのカードを上から5枚ゲームから取り除く。(5枚未満の場合は全て取り除く)
「ミルストン先輩のエースだね。このカードにはずいぶんと苦しめられたものだ」
「まさか、あの人も錬成を使えるなんて……びっくりしたわ!」
――てっきり、錬成は私とシオンちゃんだけの武器かと思っていたのに。
ウルカは《爆水潜艦ゼノサイド・デストロイヤー》のテキストを再確認した。
「このカードの最大の強みは、なんといっても4500ものBPね。アスマの《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》をも上回る驚異のBP!それに加えてカード効果の対象にならない耐性、さらにはデッキ破壊効果まで――いくらなんでも強すぎるわよ!」
「……どうかな。BPと耐性はともかく、デッキ破壊効果については一長一短だよ」
「そうなの?でも、実際にアスマはあと一歩まで追いつめられてたじゃない」
アスマは首を横に振った。
「あれは先輩のデッキ構築と、実際の戦術が組み合わさった賜物さ。ゼノサイド・デストロイヤーのメインサークルへの攻撃は、必ずデッキ破壊効果に置換されてしまう。そのときに戦闘ダメージは発生しない――逆に言えば、このカードは相手のスピリットを戦闘で破壊できないということになる」
「戦闘でスピリットを破壊できない――相手のスピリットをBPで上回っているのなら、デッキ破壊なんてせずに戦闘でスピリットを破壊した方が有利になるかもね」
「それだけじゃない。このスピリットは相手プレイヤーにダメージを与えることもできないんだよ。『スピリット・キャスターズ』では初期デッキ枚数は45枚――初期手札の分を引いても40枚。自身の効果によって連続攻撃こそ可能だけれど、それでも8回は攻撃しないとデッキ破壊が完了しないことになる」
「もしもプレイヤーにダメージを与えられたなら、シールドとライフコアを破壊するだけでいい――合計で2回の攻撃で済む。そう考えると攻撃でダメージを与えられないというのは、デメリットとも言えるのね……」
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》を上回るステータスと、カード効果の対象にはならないという強力な耐性。
それらはどちらも「攻撃をデッキ破壊に置換する」デメリットと引き換えに得た効果だったわけだ。
――もっとも、デッキ破壊によって相手のキーカードをゲームから取り除く効果は、時として戦闘ダメージよりも効果的に働く場面もあるのだし。
実際に劇中ではミルストン先輩の使った《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》のデッキ破壊との併用も相まって、恐ろしい威力を発揮したのだけれど。
「ところで」と、アスマは質問をした。
「僕はいまだに錬成というのが何なのか、よくわかっていないんだが。二体以上のスピリットを素材にすることでゲーム中にカードを創造する――それはつまり、好きなカードを自由に創れるということなのかい?」
「自由に……というと、語弊があるわね。錬成はあらかじめ決まったカード同士の組み合わせでしか実行できないし、同じ共鳴条件で創造されるスピリットは1枚だけよ」
疑似生命系統樹――。
――シオンちゃんが言うには、無数のユニゾン・スピリットが登録されたアーカイブなのだそうだ。
錬成が可能となる共鳴条件は、実際にやってみるまでわからない。
もしセットしたカードに該当する共鳴条件のユニゾン・スピリットがアーカイブに存在しない場合には、錬成は失敗してしまう。
「共鳴条件を探る――そのために、暇さえあれば錬成できる組み合わせがないかどうか、ユーアちゃんやシオンちゃんを付き合わせて練習してるわ。……ホント、大変なんだからね!」
「そうか……いや、ちょっと気になっていて」
「何が?」
「……その。僕のカードと君のカードで錬成できたりとか、しないのかな、と……。少しだけ、興味があって。いや、変な意味じゃないんだが」
「できるわよ」
「なんだって!?」と、アスマがいきなり声量を上げた。
――試してみる?
私はデッキケースからインセクト・カードを取り出して、アスマに見せた。
「ほら、このカードよ。この子と、他のカードの効果でインセクト扱いにしたアスマのカードを組み合わせてね……」
「……もういい」
「えっ、なによ。さっきまでノリ気だったじゃないのよ」
「オチが読めたぞ。そのスピリット、寄生虫カードじゃあないかっ!どうせ他の虫に寄生することで錬成、だとか言い張るつもりだろ!?」
――ちぇっ。バレたか。
アスマはつまらなそうな顔をする。
「ふん。少しは心躍るかと思っていたんだけどな。……今回の『プレミアムカードの殿堂』はこの辺でお開きにしようか」
「そうね。さて、次回は――とうとうユーアちゃんの主役回よ。彼女が『ラウンズ』に昇格するための「昇格戦」に挑むことになったの!」
「ユーアさんが……それは良かった。僕も応援に行くよ。相手は?」
「エル・ドメイン・ドリアード。聖決闘会の会計を務めている女の子らしいわ。どんなデッキを使うのか、楽しみね!」
第1話以来のユーアちゃんの決闘。
『光の巫女』の実力を、ついに読者に見せるときが来たわ!
「次から次へと現れるライバルとの激闘!――カードゲームならよくあること、よね!」
(本編に続く!)




