爆撃! 爆撃! 爆撃!(序)
「ファースト・スピリットを召喚……!
《尸解の竜、セイコウ》!」
「ファースト・スピリット、《不落英魂モータルゴッズ》」
召喚陣にスピリットが展開した。
アスマの場には、不死の力を持つ東洋の竜。
ミルストンの場には、不落を誇る生ける要塞。
互いにランダマイザを了承したことで、先攻・後攻は自動で決定する。
先攻となったのは――。
「……僕か!」
先攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《尸解の竜、セイコウ》
BP1900
後攻:ミルストン・ジグラート
メインサークル:
《不落英魂モータルゴッズ》
BP1500
決闘前に、目の前の男――ミルストンに耳打ちされた言葉。
「、、、、、を、、、したのは、君の、、、、だ」
その言葉が呪縛となってアスマの心身を縛りつけている。
――だが、今は決闘の最中だ。
流儀を崩してはならない。
どんなときであっても、決闘者は堂々と立ち、粛々と決闘に赴くものだ。
「攻めの王道」――アスマは自らの流儀を意識してデッキのカードに手をかける。
「僕のターン、ドロー!」
しかし……そのドローは常ならず。
黄金の光に包まれた約束された勝利のカードが、手札に舞い込むことはなかった。
その様子を見たミルストンは、したり顔で眼鏡を直した。
「やはり。フォーチュン・ドローは使えなくなっているようだな」
「あなたって人は……!これが狙いであんなことを言ったのかっ!」
「”恐怖は信じられないほどに有効な心理的武器である”――テロリズムの有効性は古代の戦術書を引くまでもない。ただし、諸刃の剣でもある。その憂鬱な断面の一つが、今、君の身に降りかかっているのだよ――第二王子殿」
「恐怖だと……」
アスマにのみ通じるように、ミルストンは言葉に毒をおり混ぜる。
言葉を交わせば交わすほどに、状況は彼にとって有利に働く。
ミルストン・ジグラートという男は、そういう戦い方をする。
「――さて。どうするかな、第二王子殿?」
「僕はセイコウをコストにシフトアップ召喚する。現れよ、《スリーヘッド・スカルワイバーン》!」
戦場に三つの髑髏が出現する。
髑髏を仮面のように被った三つ首の飛竜――高いBPを持つグレーター・スピリットだ。
「続けてサイドサークル・デクシアに《血洗い場のドレイク》を召喚!このスピリットは、僕のフィールドと墓地に火のエレメントを持つスピリットしか無い場合に、通常の召喚に加えて手札から追加召喚できる!」
全身に真っ赤な血を浴びた小翼竜。
火のエレメントを持つスピリット――伝説に謳われるドラゴンやワイバーンといった竜系スピリットのみで構築されたアスマのデッキでのみスペックを最大限に発揮できる、強力なスピリットが召喚された。
先攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《スリーヘッド・スカルワイバーン》
BP2600
サイドサークル・デクシア:
《血洗い場のドレイク》
BP2100
後攻:ミルストン・ジグラート
メインサークル:
《不落英魂モータルゴッズ》
BP1500
「これで、僕はターンエンドだ」
アスマがターン終了を宣言する。
対面するミルストンは「くっくっ」と忍び笑いをこぼした。
「手ぬるいな……公式戦における君の戦績において、1ターン目に《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》の召喚に成功する確率は98パーセント。今日は残りの2パーセントか――ハズレを引いたものだ」
「……敵がいつも同じ戦術をすると思い込むのは、命取りになりますよ。ミルストン先輩」
「アラベスクドラゴンには手札が5枚になるようにドローする補給能力がある。召喚に支払った損失をすぐさま回復できる「兵站の確保」――これまでの君の決闘のロジスティクスにおいて、あのカードは重要な役割を果たしていた」
「ロジスティクス?」
聞き慣れない言葉に、アスマは眉を寄せた。
ミルストンは三本の指を立てて――「戦略、戦術、そして戦務」――と、一本ずつ指を折っていった。
「戦務とは単なる兵站業務を指す言葉ではない。令達、報告、通信、航行、偵察、警戒、封鎖、護送――いわば敵を打倒するための兵術以外の、軍隊にまつわる全てを指す。古代の艦船指揮官はこんな言葉を残している。”戦務は敵と直接的に戦う技術ではないが、戦務の媒介によらなければ、いかなる兵術も実行することはできない”とね」
「また古代の兵法家の引用ですか。忘れたのですか……それだけの戦巧者を抱えた古代の文明は、己が国を百度滅ぼしても足らないほどの兵器を互いに向けあい、ついには一つ残らず滅び去ったという伝承を」
「”過ぎたるは及ばざるが如し”と言いたいのかね。だが、こんな言葉もある。”愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ”――果たして君はどちらになるかな?
私のターン、ドローだ」
ミルストンは周囲を飛び回る自身の決闘礼装――自律飛行型決闘礼装「アグネスヘクトール」からカードを引き、手札からスペルを発動した。
「私は手札2枚をコストとして墓地に送り――スペルカード《死にゆく者の代弁者》を発動するよ。このカードにより、私はデッキから任意のスペルカードを手札に加えることができる」
決闘者に教示を与える聖職者の幻影が出現し、ふたたび飛行する決闘礼装がミルストンに接近した。
すれ違い様にデッキから選んだカードをドローする。
アスマは訝しんだ。
「手札2枚を墓地に送ってまで、スペルカードを手札に加えるだと……?」
「戦いの基本原則とは、自身の主力を、その必要とされる最大の要点に集中することにある。このカードは1ターン目に手札にあるべきだ――たとえ、相応のコストを支払ったとしてもな」
ミルストンが手札から1枚のカードを表向きにする。
そのカードのふち色は――銅色に輝いて光を反射した。
「まさか……フィールドスペルなのか!?」
「今の君がフィールドスペルを所持していないことは偵察済みだ。さぁ、君を我が戦場へと招待しようじゃあないか」
「アグネスヘクトール」はミルストンの傍らで静止飛行する。
彼が決闘礼装に銅級位階のカードをセットすると、決闘礼装は回遊飛行モードへと切り替わり、円形闘技場を飛び回りながらフィールドを展開していった。
ミルストンは両手を広げて、会場全土に響きわたる声で宣言した。
「これこそが我が戦場。第二王子殿とこの私、我らが運命が結実する審判の荒野だ――黒き森よ、戦場を塗り替えろ!
フィールドスペル《エンダー・ザ・ゲーム》を発動!」
ゲームを終わらせる者――エンダー・ザ・ゲームの名を冠する空間魔法によって、試合場に仮想の世界が展開されていく。
延々と連なる灰色の尾根。
鉛の色をした曇天は、今にも落ちてきそうな雲がみっしりと空を覆い、荒涼とした平原がどこまでも広がっている。
そんな風景が、まるでミニチュアのように眼下に配置されていた。
目の前にあるのは惑星のような球体の形をした巨大なモニター。
戦場を簡易的に線と記号で表現した図には、空域に存在するスピリットたちが、光る点となって位置を示している。
魔力探知器の灯りだ。
ここは戦場の最前線であり――同時に指揮を振るう後方基地でもある。
その二つが、遠隔視の魔術によってダイレクト・ラインで繋がっている。
スピリットが兵ならば、決闘者は指揮を下す司令官。
モニターの向こう側に見える最前線――。
魔力の乱れによって魔力探知器の一部が空白地帯となっていた。
空白地帯――暗黒森林地帯。
アスマはその名を知っている――いや、本能的に察する。
「あの場所は……まさか!?」
「そのまさかだよ、第二王子殿!よくご存じのはずだ。彼の地は君がこの世に生まれ落ちて、物心つく前に過ごしていた場所なのだからね。――私にとっては、我が父が命を落とした場所でもある!」
確信する。
この地の名は――オーベルジルン設計局。
別名を空性樹海シュバルツバルト――アルトハイネスの「黒き森」!
ついに完成した領域に、ミルストンは第三の御名を与える。
「仮想空間転移――。多層世界拡張魔術。
[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]!」
☆☆☆
「うそうそ!?なんで、ミルミルがフィールドスペルを使ってるのぉ!?」
聖決闘会室で、緑髪のツインテールの少女――エルが驚きの声をあげた。
会長のイサマル。書記のドネイト。
会計のエルと庶務のウィンド――双子のドリアード姉弟。
副会長として籍を置いているアスマ以外の、聖決闘会のメンバーが勢揃いしていた。
イサマルは「へへへ」と得意げに扇子を開いた。
「言うたとおりやったろ?ミルストンくんは、ことアスマくんにぶつけたときに限っては、誰よりも恐ろしい力を発揮する――そういう刺客なんや」
ドネイトは備え付けのモニターに映る試合の様子を観察している。
「……ミルストン先輩は。公式・非公式を問わず……これまで、一度も……フィールドスペルを……使ったことがありませんでした。それは使えなかったのでは、なく……使わなかった。それが、あの人の……流儀なんですね、会長?」
「せやで。あのカードはジグラート家の相伝やない――ミルストンくん自身の生得属性が精霊核と反応することで生み出されたカードや。それだけ、彼の人生に密接に影を落としている……《エンダー・ザ・ゲーム》を使用するのは、同じだけの因縁を持つアスマくんと決着を着けるときだけ。そういう風に原作の『デュエル・マニアクス』でも語られてたわ」
ウィンドは姉に耳打ちすると、エルは「うんうん」と頷いた。
「ウィウィが言ってるよ。あのねあのね、じゃあじゃあ、ミルミルって――これまで、誰を相手にしても本気を出してなかったってことなの?」
「それで『ラウンズ』の現・序列第五位やで?他の生徒たちにとっては、たまったもんやないわな」
イサマルはけらけらと笑う。
ザイオン社の指令の元、アスマから《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》を奪う――その任務において、まさにミルストン・ジグラートは最優の決闘者だった。
エルは「ねぇねぇ、思うんだけど」と疑問を挟んだ。
「どうしてボクたちみたいに、ミルミルも仲間にしなかったの?かいちょーやドネドネって、よくミルミルと”わるだくみ”してたよね?」
「せやねぇ。たしかに、聖決闘会が新体制になってからは――副会長のアスマくんは、一度も顔を出してない幽霊会員やしな。代わりにミルストンくんを――っていう案もあったんや。けど、ドネイトくんが反対してなぁ」
「ドネドネが?」
ウィンドが姉の耳元で小声でささやく。
それを聞いたエルは「うんうん」と頷き、ドネイトの近くに寄って、弟が話したのと同じことを耳打ちした。
ドネイトはあわてて否定する。
「ち、違います……!そんな、よこしまな理由で反対したの……では、ありません!」
「え、違うの?てっきり、ボクたちはドネドネがミルミルにかいちょーを」
「ちゃんとした、理由があり……ます!」
ドネイトは前髪を手で分けて、水晶の瞳を露わにした。
「――ミルストン氏は、あまりに頭がキレすぎるのです。ただでさえロストレガシーの専門家ということで、この世界の秘密に近い立場にある。小生や会長との取引は対等なものでしたが――その過程で、こちらもずいぶんと情報を引き出されてしまいました。身内に置いておくには危険だと……しのぶ嬢には、そう進言したのです。エル嬢やウィンド氏のように信頼を置くことはできないと」
「えっえっ。それって、ボクたちのことは”ちょうよう”してるってことなんだ。嬉しいね、ウィウィ!ボクたちもドネドネを”しんあい”してるよっ!」
エルとウィンドが両サイドからドネイトをハグする。
彼は「あ、あの……すみません」と丸くなってしまった。
イサマルは扇子で口元を隠して、苦笑した。
「自分ら、遠回しにバカって言われてるで……まぁ、ええけど」
☆☆☆
領域効果が付与されたフィールドに、ミルストンは新たな戦力を召喚する。
「このスピリットは、相手のサイドサークルにスピリットが存在するとき、コスト無しで召喚することができる!
《磁気の火蜥蜴》――出撃!」
領域に存在する巨大な球状モニターに、光る点が一つ追加された。
やがて遠隔視の魔術は、空を飛翔する白色のシルエットを映し出す。
釉薬を塗られた磁器のような発色。
アスマは歯噛みした。
「母上のスピリット……!」
先攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《スリーヘッド・スカルワイバーン》
BP2600
サイドサークル・デクシア:
《血洗い場のドレイク》
BP2100
領域効果:[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]
後攻:ミルストン・ジグラート
メインサークル:
《不落英魂モータルゴッズ》
BP1500
サイドサークル・デクシア:
《磁気の火蜥蜴「王国の白き魔女」専用機》
BP2600
ミルストンは鉛色の空を飛び回るサラマンダーを眺めて、目を細める。
「通常の《磁気の火蜥蜴》のBPは2500。第二王子殿の母君の専用機は、そのBPを2600にまで上昇させている――よく訓練されたスピリットだ。このカードは単なる観賞用カードではない……私に言わせれば、実戦でこそ輝く立派な兵器だよ」
「兵器だと……?先輩はまだそんなことを言っているんですか。第五世代型決闘礼装が普及した今となっては、決闘もスピリットも、戦争の道具などでは無い!」
第五世代型決闘礼装――前回の大戦で初めて実戦に投入された画期的な発明である。
それまでの第四世代型には、決闘中の対戦相手の暴力行為からプレイヤーを守る「紳士の協定」と呼ばれる機能が内蔵されていた。
第五世代型の画期的な点は――その防御機能を、決闘中以外のあらゆる状況にも拡張したところにある。
ミルストンは、己の周囲を飛びまわる「アグネスヘクトール」を一瞥した。
「決闘者が装着して、勝敗に賭けられたアンティに従うという流儀を共有することで不可侵の波動障壁を展開する第五世代型決闘礼装――それは事実上、カード以外の現代兵器のすべてを陳腐化させるに等しい。まさに最新にして最強のゲームチェンジャー……」
「父上は――国王は、戦後にこの技術を慎重に他国と共有していった。都市を守護するための大型礼装に波動障壁を転用することで、大量破壊兵器も無力化することが可能となった――ようやく平和が訪れたんだ。この世界に、もはや兵器の居場所など無い!」
「その平和に亀裂を入れたのが君なのだと。まだわかっていないようだな」
ミルストンの言葉に、アスマは虚を突かれる。
「なん……だって?」
「国王陛下がもたらした平和は、アルトハイネスの民が決闘に勝ち続けることでのみ保たれる。その頂点に立つべき最強集団、レオンヒート家――なかでも『トライ・スピリット』の一柱を継承した君に、敗北など許されるはずもない。必勝こそが前提であり、存在意義だ。だが……君は負けた。あの侯爵令嬢殿にな」
「……っ!」
「戦争は終わってなどいない。”平和とは、次の戦争に向けた準備期間にすぎない”のだ。
次なる戦争は魔力放出銃と魔波炸裂弾の代わりに『スピリット・キャスターズ』の決闘をもって行われることになるだろう――こんな風になァ!」
ミルストンは手札から新たなカードを発動する。
「コンストラクト《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》をサラマンダーに装備!」
「兵装――スピリットを兵器化するコンストラクトかっ!」
「そうだよ……!見たまえ、このボクサーの肉体の如き美しき機能美を!」
純白のサラマンダーの全身に、音響破壊兵器のアタッチメントが装着されていく。
全身から磁力を発する生態により、金属製の兵装はその五体にまたたく間に馴染んで一体化していった。
「さぁ……バトルだ!」
先攻:アスマ・ディ・レオンヒート
メインサークル:
《スリーヘッド・スカルワイバーン》
BP2600
サイドサークル・デクシア:
《血洗い場のドレイク》
BP2100
領域効果:[決戦機動空域バトルコマンド・ウォー・フロントライン]
後攻:ミルストン・ジグラート
メインサークル:
《不落英魂モータルゴッズ》
BP1500
サイドサークル・デクシア:
《磁気の火蜥蜴「王国の白き魔女」専用機》
with《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》
BP2600
「《磁気の火蜥蜴》でメインサークルの《スリーヘッド・スカルワイバーン》を攻撃!」
「BPはお互いに2600……!相打ち狙いということか」
「それはどうだろうな?」
「なにっ」
球体モニターの中で、ワイバーンを示す光点に別の光点が接近する。
ところが、光点が重なる前に魔力探知器を乱す暗黒森林領域がモニターをかき乱した。
結果――。
「お互いに……撃破されていない、だと!?」
アスマは驚愕した。
映像が復帰した魔力探知器では、二つの光点はいずれも健在。
代わりに――アスマの手にした長剣型決闘礼装「ドラコニア」から、カードが噴出して墓地に置かれていった。
その数……10枚!
アスマの手に汗がしたたる。
「一体、何が起きているんだ……」
「説明しよう。まずは私が《エンダー・ザ・ゲーム》で付与した領域効果――これは実際の「黒き森」の特性をそのままカードの効果として落とし込んだものだ」
「「黒き森」の特性――オーベルジルン鉱山で発生する無数の『ダンジョン』による魔力の乱れ、それによる有視界戦闘の強制ということか?」
「魔力探知器が使い物にならない空性樹海シュバルツバルトでは、多くの空域においてまともなドッグファイトは不可能となる。交戦が可能となるのは魔力波の乱れが沈静化している一部の地域でのみ……。
この空域でのルールはたった二つ。
・サイドサークルのスピリットは戦闘ではスピリットを破壊できない。
・サイドサークルのスピリットは戦闘ではスピリットに破壊されない。
戦闘でスピリットを破壊できるのは、メインサークルのスピリットが、同じくメインサークルのスピリットと戦闘した場合のみとなる――まるで中世の馬上試合のようだがね。第二王子殿好みの「決闘」というわけだ」
「これが、同じBPのワイバーンとサラマンダーが相打ちにならなかった理由か」
・サイドサークルのスピリットは戦闘ではスピリットを破壊できない。
このルールによって《スリーヘッド・スカルワイバーン》はサイドサークルからの攻撃による破壊から守られた。
・サイドサークルのスピリットは戦闘ではスピリットに破壊されない。
一方、サイドサークルの《磁気の火蜥蜴》もこのルールによってワイバーンによる反撃から守られたことになる。
「相打ちにならなかった理由はわかった。じゃあ、なぜ僕のデッキのカードが墓地に送られたんだ?」
「それはサラマンダーに装備した《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》の効果だよ。このコンストラクトを装備したスピリットが攻撃するたび、相手は「本国」を10枚墓地に送らなければならない」
「本国」――ミルストンはアスマのデッキをそう呼んだ。
「あなたは何を言っているんだ?」
「言ったはずだ。”戦争とは拡大された決闘である”と。また、古代ムーメルティアの軍事理論家はこうも言っている。”戦争に用いられる力というのは、軍事力、面積と人口から成る国土、そして同盟諸国である”とね。兵術による敗北――シールドとライフコアを破壊されることにより決闘は敗北となる。だが、戦争を継続するための「本国」の力――これを失い、戦務が実行不可能になれば、あらゆる兵術もまた成立しない」
アスマは対戦相手の狙いに気づいた。
「まさか……先輩、あなたの狙いは……!」
「”愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ”というわけだ」
☆☆☆
「……デッキ破壊か!」
解説席のジェラルドも、このタイミングでアスマと同じ結論に達した。
実況のジョセフィーヌはついていけず、あわあわと意見を求める。
「ど、どういうことでしょウ!?説明をお願いしまス!」
「歴史に学ぶ――ミルストンはそう言っていた。思い出してみろ、一か月ほど前にこの「学園」に何が起きたのかを」
「一か月、前……でスか?」
ジョセフィーヌはマイク型決闘礼装の画面をスクロールし、情報を検索する。
「あッ!」
やがて、ジェラルドたちと同じ結論に達した。
「もしかしテ……前回のアスマ選手の敗北のことでしょウか!?」
「不敗の「覇竜公」に土をつけた唯一の決闘。ウルカ・メサイアのパラサイトループ・コンボ。戦術家のミルストンは、ウルカの――彼女の戦い方を徹底的に研究したんだろう」
《無反響兵装ブラインド・ウォッチャー》――。
スピリットを破壊することなく、シールドやライフコアを傷つけることなく、ただただ相手の「本国」たるデッキを破壊するコンストラクトカード。
「ウルカの戦術を参考にして、彼はデッキ破壊を自己流にアレンジしてきた。【鉄壁】のアラベスクドラゴンを擁する……アスマのデッキの、唯一の弱点を狙ってきたということだ……!」




