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オリパ師たち――バリトク中山

「ボクのターン、ドロー! 《ライトニング・ストーム》を発動するね。このカードは自分フィールド上に表側表示のカードが無いときに発動できるよ。お爺ちゃんのフィールドの魔法・罠カードを全て……破壊する、する♪」


「私は島崎健一です。昭和十五年、1940年二月十七日生まれ。辰年、七十七歳。

伏せたカウンター罠は、手札を捨てれば《マジック・ジャマー》も使えるのですが、ライフポイントを半分払って、よく《神の宣告》を発動します。

 ()()()()()()()()()()()


「うふふ、やってるわね。楽しそうだわ」

 

 店内のデュエルスペースは活気づいている。

 老若男女が集い、和気あいあいとカードゲームを楽しんでいた。


 これは私が転生する前の世界でのこと。


 珍しく会社を定時で退社できたので、行きつけのカードショップに出向いていた。

 今日は給料日ということで懐にも余裕があるのだ。


 うふふ、どれを買おうかしら。

 パックを箱買いしてもいいかも。


「うーん、どれを買うか迷うわね……ん?」


 ふと、レジ前に複数のオリパが置かれているのに気づいた。


「へぇ、この店も遊戯王やデュエマのオリパを始めたんだ。エボルヴもあるわね。先週まではポケカとワンピだけだったのに」


 オリパコーナーには、当たりカードとして思わず欲しくなるようなカードがたくさん展示されている。

 ううーん、こうやって出されると物欲を刺激されるわね……!


「この店には、いつもお世話になってるし。お布施代わりに買ってみようかしら。なになに、一口で五百円のパックと、一口で千円のパックがあるのね。それなら……」


 買うとしたら……奮発して、千円のパックを三口いっちゃおうかしら。

 と、私がオリパに手を伸ばそうとした、そのとき――



「もっと、大きなオリパを買いませんか?」



 そう、声をかけてくる男がいた。


 私は怪訝な思いで振り向く。

 そこにいたのは、見るからに只者ではない髭面の男だった。


 カードショップという庶民の場には似つかわしくない、生地からして高級そうなスーツを着こなした伊達男……それなのに足元には不釣り合いなウエスタンブーツ……。

 サングラスの奥の表情は見て取ることができない。


 年齢は五十代から六十代といったところだろうか。

 顔に深く刻まれた皺は隠せないものの、若い頃はさぞ美形だったのだろうと推測できるほどの色気がある。


「大きなオリパって、どのぐらいの?」

「そうですね……爆死がゴロゴロ出るようなオリパです」

「爆死って」


 そんなオリパ、買いたくないのだけれど……。


 オリパはその性質上、当たりをどれだけ入れるか、ハズレをどれだけ入れるかはオリパを作る人の胸先三寸で決まってしまう。公式のメーカーが販売するカードパックと違って、そこはオリパ製作者を信頼するしかない。爆死だらけのオリパだって作れてしまうのだ。


 私が言葉を失っていると、近くにいた店員さんが「また、あんたか。帰ってくれ!」と男に怒鳴った。

 男は意味深な笑みを浮かべると、そそくさと店を去っていった。


 店員さんは苦虫を噛み潰したような顔で「あいつ……出禁にしたはずなのに」と言う。


「なんなんです、あの人?」と、私は店員さんに訊ねた。

「真由さん、あの男には気をつけた方がいいですよ。アイツは有名なオリパ師なんです」


 私は店員さんから男の正体を聞いた。




 オリパ師とは――

 ハイリスク・ハイリターンを謳って高額のオリパを自作して売却を持ちかけ、オリパを用いて購入者から多額の現金をせしめるカード売買をおこなう集団のことである。

 オリパ師は、インターネット上での匿名のやり取りが可能となったインターネット通販黎明期の混沌とした時代に全国で発生した。

 カード資産が高騰した時期にはダーク・ウェブを中心に多発、だがその後、TCGの電子化が進んだことで紙のカードでの取引が困難になり、沈静化したように見えた……。

 しかし2020年代に入ると、新型コロナウイルス蔓延を機に、転売屋と投機需要によってカード価格が上昇。

 一部のプロモーションカードや希少価値のあるハイレアリティカードなど、資産価値の高い高額カードを中心に、再びオリパ師事件が発生するようになった。




「バリトク中山?」


「カードショップ業界では有名なオリパ師ですよ」

「バリトクって……日本人よね?」

「いくつかのハンドルネームを使い分けているようですが、仲間内ではバリトク中山で通っているようです。カードバブル時代にオリパ師として名を馳せました。その後は仲間をまとめ上げて、次々と大掛かりな高額オリパ売買を成立させてきたみたいです。ここ最近では、しばらく大人しくしてたんですけどね……」


 ちょっと待って。

 あの人がオリパ売買で生計を立ててるのだとしたら……。


「さっきのって、シンプルにお店への営業妨害よね?」


 店員さんはため息をついた。

「ああしてショップを訪れてはお客さんを勧誘してるから、ウチも困ってるんです」

「警察に通報した方がいいわよ……」

「ところで、真由さんもオリパ買っていきますか?」

「あ、じゃあ一つくださいな」


 とりあえずは、デュエマの千円パックを一パックだけ、ね。

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