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フィールド会話(リーシャ+ウィンド)

ユーア・ランドスターを襲撃した「闇」の決闘者デュエリスト――モック・タートルことリーシャ・ダンポートは「学園」の治安を守る聖決闘会カテドラルから厳しい事情聴取を受けていた。


聴取は何日にも及んだ。

時には日を跨ぎ、夜通しで聴取が続くこともあった。


それも仕方ないこと。


聖決闘会カテドラルにとって、リーシャは『光の巫女』ユーア・ランドスターの身を狙う「闇」の組織――『堕ちたる創作論イディオット・フェアリーテイル』の情報を得るための貴重な人物なのだから。


昨日も聴取があった。リーシャの身体を疲労感が包む。



「……私はユーア君を傷つけたんだ。

 その償いは、するとも」



しばしばする目を擦りながら、聖決闘会室のドアを開く。

リーシャは決意を固めた。


今日も、長い事情聴取が始まるのだ……!


「って、あれ?」


いつものように桃色頭のおかっぱ少年――聖決闘会長のイサマル・キザンが出迎えると思っていたら。そこにいるのは緑色の髪をした幼い少年だった。


手慰みに正二十面体のパズルを弄るのは――

ウィンド・グレイス・ドリアード。


双子の姉であるエルと同じく、飛び級で「学園」に入学した天才児。

聖決闘会カテドラルのメンバーの一人。

「学園」最強集団『ラウンズ』の序列第七位。


ウィンドはパズルから目を離さないまま、席に座るようにリーシャを促した。

リーシャは内心で驚く。

たしか、この子は夏休みで帰省していたはずでは……


ウィンドは不機嫌そうに口を開いた。


「ドネイト先輩に泣きつかれたんだよ。会長に任せていたのでは、いつまで経ってもリーシャ・ダンポートの事情聴取が終わらない、とね――」


じろり、とウィンドは睨んでくる。


「あ、あはは。何のことかなぁ」


「君と会長を一緒にしていたら――いつまでもガンダムの話ばかりして、まったく本題に入らない……と!」


ウィンドが魔力を込めると、パズルは自動で変形していき、V字形のアンテナが映えたロボットの頭部のような形に組みあがった。


リーシャは感心する。


「おお……それはガンダムF91か。この世界には資料も無いだろうに、よく組み立てられたねぇ!?」


「会長に教えてもらったよ。

 昨日はこれの話をしていたんだよね?」


「いやぁ、この世界に転生してから、あんなにF91の話が出来たのは初めてだったから。気づいたらすごい時間になっちゃったよぉ。だってよ、アーサーなんだぜ?」


「……これがアルトハイネスに名高い『水上の美麗姫(エトラン・シース)』……もう、残念王子はアスマだけで充分なのに」


「F91の話をしたら、ついついクロボン(※)の話もしたくなっちゃった」


(※)機動戦士クロスボーン・ガンダム。F91の続編。


はぁー、とウィンドはため息をつく。


「会長も会長だ。ガンダムの話ばかりするのは止めろ、って言ったのに……F91はガンダムじゃないとか意味わからないことを言うし」


イサマルの不可解な言動は、オタク特有の内輪ネタである。


『目が二つ付いてて、アンテナが生えてりゃマスコミがみんなガンダムにしちゃうからね』――と、リーシャはアニメ作中のセリフを引いた。


「それはイサマル君の良くないところだねぇ。F91はアナハイムじゃなくサナリィ製だからガンダムじゃない、っていうのはあくまで作中設定の話で。作品外では普通にガンダム扱いなんだから、そんなこと言っても一般人が混乱するだけなのに」


「一般人って、何?

 これでも私は聖決闘会カテドラルの一員だよ」


口を尖らせるウィンドに、リーシャは手を合わせた。


「あはは、ごめんごめん。一般人、っていうのはね……つまり、私とか、イサマル君やウルカ君とは違って、ウィンド君はオタクじゃないよねっていう」


「そう、それだよッ!」


”ウルカ”の名を聞いて、ウィンドは叫んだ。



「会長だけじゃなく、ウルカまでガンダムトーク目当てで連日ここに入り浸ってるんだってね……! ウルカがいたら金魚の糞のユーアもついてくるし。姉さんは一緒になって遊びまわるだけ。ドネイト先輩は優しい人だから、会長には強く出れないしぃ……! 君たちは、聖決闘会室を何だと思ってるんだよ!」



「いやぁ、設備は広いし、お菓子も食べ放題だし、居心地よくって……あはは、前世で通ってた学校の部室を思い出したりして」


「そんな事情聴取があるかぁーーーっ!」


ウィンドはクールな雰囲気を投げ捨てて、パズルで作ったガンダムの頭部をめちゃくちゃに崩した。


「はぁ、はぁ。ともかく、リーシャ先輩の事情聴取はこれで打ち切りだ」


「ええっ!?」


「どーせ、君だってアマネ・インヴォーカーと同じで「闇」の決闘者デュエリストだった頃の記憶はよく覚えてないんだろう?」


「それは……そうだね」


ウィンドは唇に指を当てて思案する。


「厄介な手口だ。敵はアマネやリーシャ先輩のような一般人を「闇」のカードで洗脳して送りこむことで、いくらでも手駒を増やせる……私たちは常に後手後手になる」


「一般人?

 私は前世も今世も一般人じゃなくてオタクだよ?」


「そういう話はしてないから」


「あと、洗脳……というのも違うかな」


リーシャが真剣な顔を見せたので、ウィンドは聞き入った。


「……というと?」


「アマネ君の方はわからないけど、ね。少なくとも私は自分の意志で「闇」に手を染めたんだ。ユーア君を襲ったことだって、自分の意志でやったことだよ」


「罪悪感があるのは理解する。

 でも、過度に自罰的にならない方がいい」


ウィンドはパズルを組み替えて、カードの形を作った。


「ドネイト先輩の調査でもわかったこと。魂に干渉する「闇」のカードには、人の心の闇を増幅する力がある。リーシャ先輩が心に闇を抱えていたのは事実かもしれない。でも、それを増幅させたのは禁じられた「闇」の魔術だ。本来のリーシャ先輩なら、人を傷つける選択肢なんて選ばないはず」


「随分と、肩を持ってくれるんだね……。

 ウィンド君と私は、初対面だったと思うけど」


「ユーアがリーシャ先輩を信じた。

 私は姉さんが信じたユーアを信じる。

 だから……リーシャ先輩を信じることができる」


意外にも情熱的なウィンドの言葉に、リーシャは微笑んだ。


「良い仲間なんだね。君たちは」


「一つ、賢くなったんだ。私も」


ああ、それ――と、リーシャは呟いた。


「私がついつい前世の記憶(ガンダムの台詞)を口にしてしまうように、ウィンド君も友達の口癖が移っているんだね。うんうん、良い仲間の証拠だ」


「は?」と、ウィンドは目を丸くした。



「その『一つ賢くなった』っていう口癖。

 ユーア君もよく言っていたよ」



リーシャがそう言うと、ウィンドは固まった。


「どうしたんだい、ウィンド君?」


「……違う。それは、ユーアの口癖じゃない。

 私の、口癖! 私がオリジナルなんだ!」


「あはは、そうムキにならなくてもいいじゃないか。いやぁ、大人びた子だと思っていたけど、そういう少年らしいところもあるとわかって安心したよ……」


「待て、待って……」


「さっきは『金魚の糞』なんて悪態をついていたけど、ユーア君のこともちゃんと好きなんだねぇ……」


「く、口癖泥棒だぁ……! ユーア、許さないっ!」



☆☆☆


「くしゅんっ」


誰かが噂しているのかも。


「ユーユー、”なつかぜ”?」


「ユーアちゃん、冷風魔法エアコンの当たりすぎは良くないわよ?」


「そうですね……気をつけますっ。

 私、一つ賢くなりました!」


☆☆☆



「泥棒ぉーーーっ!」




フィールド会話(リーシャ+ウィンド)――了

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