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第三問「撃つなラドリー!と男は叫んだ。なぜ?」(前編)

空中に浮かぶ水球の中で、リーシャ先輩は水を得た魚のように自由に泳ぎ回った。まるで重力がこの世に存在しないかのように――人並み外れて長い腕と脚で水をかき分けるその姿は、見ているだけで感嘆の声が漏れそうになる。


「『水上の美麗姫(エトラン・シース)』――」


リーシャ先輩が去年の国民大会で優勝したときに、マスメディアによって付けられた二つ名だ。私もあのときにはTV(映像受信魔道具)の前で大興奮したものだった。


そのリーシャ先輩が、今は「闇」の手先となって私の前に立ちはだかっている。

彼女は云っていた……「自分が主人公の物語を再開させる」と。


「リーシャ先輩の物語。

 きっと、あのスピリットと関係しているはずです」


《「主演の化身メインキャスト・アクトレス」Mock turtle》。

他のスピリットを脇役俳優バイ・プレイヤーとすることで、配下のスピリットの輝きを我が物として、己を輝かせるための引き立て役とする幻想ダークスピリットだ。


鏡に映るのは華美なドレスに彩られたリーシャ先輩自身。


「(先輩が抱えている「闇」……まずは決闘デュエルで解き明かします!)」


そのためにも、これから出題される「水平思考クイズ」を攻略しなくてはならない。

私は水球の中で生まれつつある水人形に注意を注いだ……!



☆☆☆



一方――

水宮殿の上に立つドロッセルマイヤーは、戦況を複雑そうな目で見ていた。

傍らの水球に浮かぶハートの幻影は「きひひ」と笑う。


「見事なものだねぇ。「闇」のエレメントの力を得た決闘者デュエリストは、超人的な身体能力を得ることができる――あの泳ぎも、その賜物ってことかしら」


ハートの言葉に対して、ドロッセルマイヤーは首を振った。


「いいえ。あの泳法は以前に私もTVで見たことがあります。あれは「闇」の刺客であるモック・タートルの力ではなく……リーシャさん自身の能力によるものです」


「なんだ、オマエもあいつのファンなのかよ?」


「当然でしょう」


ドロッセルマイヤーは仮面の奥で目を閉じた。


「アルトハイネス人で、彼女のファンではない者などいません。国民大会において、自由形・平泳ぎ・バタフライ・個人メドレーで四冠を達成した選手は史上初です……それも、最年少で。フィジカル・センス・環境、その全てに恵まれた傑物……まさに生まれながらにして「水」のエレメントに愛された、この時代の麒麟児といっていいでしょう」


「へぇ。私の前世で言えば、大谷翔平みたいなものかしらね。そういやアイツもカードゲームやってたとか聞いたことあるな……」


「――ですが。運命は残酷なものです。人生は劇ではない。後から振り返れば納得がいくような伏線も、起伏に富んだ血沸き肉躍るプロットもありはしない。存在するのは唐突で意味も無い単なる理不尽、二束三文のありふれた悲劇」


それが、たとえ時代の「主人公」であっても――


「だから、リーシャさんは取り戻そうとしているのです。バッドエンドを超えたその先にあると信じた……ご都合主義のハッピーエンドを手中に収める。モック・タートルが理想とする最終回は『我天心酔』の最終回。この世界の主人公であるユーア・ランドスターを打倒し、打ち切りを勧告する。自身こそが世界の主人公であると――その胸が張り裂けんばかりに叫んで、宣言しようとしているのです」


「……ふん。ま、いーんじゃね?

 私は別に、ユーアが倒せれば何だっていいしさ」


部門(セクター)の統括である、最高戦力こそが組織の本命。

それ以外の刺客についてはせいぜいが「上手くいけば儲けもの」ぐらいの手段でしかない――ハートは等級クラスのエージェントには関心を払っていなかった。


「(だから、モブどもの管理はドロッセルマイヤーに任せとくとして)」


ハートは水球を泳ぐモックタートルに目を向ける。

その視線は――モックタートルの身体の「ある場所」で止まった。


「は。なんだよ、しっかり使ってるじゃんか」


ちっ、とハートは小さく舌打ちをした。


「まさか、私の「闇」のエレメントを……あんな風に使うヤツがいるなんてな」



☆☆☆



水球から飛び出したリーシャ先輩は、華麗に一回転しながら小船に着地した。


宙に浮かぶ水球をあいだに挟んで、二つの小船に乗った私とリーシャ先輩は視線を交わす――先輩の目は自信に満ち溢れていた。


「さぁ、ユーア君。新たな問題を出題するよ」


「私は準備オーケーです!」


リーシャ先輩が合図すると、水球の中で人形劇が上演された。




一人の男の人が立っている。

彼の手には銃が握られていた――小銃というやつだろうか。


男の人は銃を構えた。

その額には汗が浮かび、歯はガチガチと震える。


引き金に指を引く――

その瞬間。


「撃つな、ラドリー!」と声が響いた。




私の前に五枚のコインが現れる。


「新たな水平思考クイズ……!」


私は問題文を精査することにした。



☆☆☆



一方、ドロッセルマイヤーとハート。


「この問題もガンダムですか?」


ドロッセルマイヤーの問いにハートが答える。


「あーね。これは『ガンダム戦記』……っつっても、PS2版のゲームソフトじゃなくて漫画版かな。小説版もあったらしいけど、あっちは読んでねーんだよな……」


「状況から推測すると、どうやら戦場の一幕のようですね」


「地球連邦軍のマット・ヒーリィ中尉は、たとえ敵であろうと出来るだけ命を奪わないように戦うって男でさぁぁぁ。まー、立派な志ではあるんだけど。で、それを部下のラリーにも強要しちまうわけよ」


「ラリー……問題ではラドリーとなっていましたが」


「版権に配慮してんじゃね?バンダイもサンライズも数千年前に滅んでるから、無駄な配慮だけどな。つーか、誰に配慮してんだ?まぁいいか。で、話を戻すと……」


「敵軍の兵士に銃を向けたラドリー氏に対し、そのマットという方は命を奪わないように命令したわけですね」


「そうそう。だから『撃つなラドリー!』ってこと」


ドロッセルマイヤーは首をかしげた。


「……それは、おかしい」


「あぁ?」


「銃を向けた人物に対し、命を奪わないように命令をする。それでは見たままです。その回答では「水平思考クイズ」として成立していません」


「水平思考クイズ」とは――

問題文に隠された「隠された物語シャドウ・ストーリーズ」を解き明かすことで真実を突き止めるゲームなのだ。


「水平思考クイズ」においては、プレイヤーは全ての前提を疑う必要がある。



ドロッセルマイヤーは仮面を手で抑えた。



「全ての前提を疑う――この問題は、

 もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()()

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