我天心酔の最終回!己が道、求め進むが万物流転! その④
水平思考クイズはリーシャ先輩の勝利に終わり――
再び、盤面は決闘へと戻った!
先攻:リーシャ・ダンポート
メインサークル:
《「主演の化身」Mock turtle》
BP1111
領域効果:
[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]
後攻:ユーア・ランドスター
メインサークル:
《聖輝士団の一番槍》
BP1900
リーシャ先輩は「闇」の力によって伸びた長髪を手に取り、清らかな水を流すように手で梳いた。
「[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]の領域効果により……このターン、私はシフトアップ召喚に必要なコストが不要となる」
先ほどまで水平思考クイズの人形劇が開催されていた水球がはじけ飛び、そこから二体の水人形が現れた――私は気づく――これはエンシェント・スピリットの召喚に必要な二体のコストの代わりとなるものだと。
リーシャ先輩は二体の水人形を生贄にして、最上級のスピリットを呼び出した!
「舞い降りよ、《水舞台の花役者、ゼフィランサス》!」
白色の花弁の如きドレスが水上に咲き誇る。
純白の舞台衣装をまとうのは、美しきマーメイドだ。
その威容に私は圧倒される。
「エンシェント・スピリット……!」
「ダンポート家の相伝さ。これでも父さんからは期待されている身でね」
さらに、リーシャ先輩のメインサークルにも変化があった。
幻想スピリットであるモック・タートル――その鏡に映っていたリーシャ先輩の衣装が変化した。
黒色のドレスはお色直しをして、ゼフィランサスと同じ白無垢のドレスに変貌する。
同時にスピリットのBPも上昇していく!
先攻:リーシャ・ダンポート
メインサークル:
《「主演の化身」Mock turtle》
BP1111(+2700UP!)
=3811
サイドサークル・デクシア:
《水舞台の花役者、ゼフィランサス》
BP2700
領域効果:
[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]
後攻:ユーア・ランドスター
メインサークル:
《聖輝士団の一番槍》
BP1900
私は思わず驚愕した。
「BP3811……ッ!?」
鏡の外にいる現実のリーシャ先輩は、黒いドレス姿のままで答えた。
「これがモック・タートルの特殊能力。自分フィールド上に存在する、水のエレメントを持つエンシェント・スピリット全てのBPを受け継ぐことができるんだよ」
「元々のBP1111に……ゼフィランサスのBP2700が足されたってことですか!?」
「本来なら、我々が操る幻想スピリットは「闇」のエレメントの加護によりスピリットとの戦闘では破壊されない。ただし、ユーア君……君のしもべである「光」のスピリットだけが例外だ」
そうだ、ウルカ様やイサマルさんが言っていた。
ランドグリーズや「聖輝士団」のような、ムーメルティアの神話に謳われる「光」のエレメントを持つスピリットたち――『光の巫女』である私だけが扱うことができるカードには「闇」を打ち払う力があると。
私は自分の手札に視線を寄せた――最初に引いた5枚のカードの中には、既に相棒である《戦慄のワルキューレ騎士、ランドグリーズ》のカードが舞い降りている。
「(だけど……!)」
リーシャ先輩のエース・スピリットであるモック・タートルは自分の場のスピリットのBPを集約する能力を持っている。たとえ私が「光」のスピリットで攻撃しようと、BPで上回れなければ意味が無いってことです……!
リーシャ先輩は「まだ終わりではないよ」と言い、効果の発動を宣言した。
「《水舞台の花役者、ゼフィランサス》の召喚時発動効果だ。このスピリットを召喚したとき、手札から水のエレメントを持つスピリットを追加で召喚することができる――」
「……そっか。先輩の領域効果による召喚コストの軽減はターン終了時まで続く……ということは……!」
「カード効果によって1ターン内での召喚回数を増やすことで、領域効果によって得られる恩恵を最大化できるというわけだ。戦いは数だよ、ユーア君!」
リーシャ先輩は更なる後続を展開する……!
☆☆☆
戦況を眺めていたドロッセルマイヤーは呟く。
「モック・タートルの戦術は領域効果を利用したエンシェント・スピリットの連続召喚のようですね。ダンポート家と言えばアルトハイネスでも名のある家系――その相伝の継承者ともなれば納得のデッキですし、平民でありカード資産に劣るユーア・ランドスターに対しては有効な戦術となりますが……」
腑に落ちない、といった様子のドロッセルマイヤーに対して――
ハートは訊ねた。
「なにか、引っかかることでもあんのかよ?」
「いえ。『スピリットの性能差が戦力の決定的な差ではないことを教えてやる』――といったことを言っていた割には、むしろ性能差でゴリ押ししているような」
「きひひ。そんなの、きっとセリフを言いたかっただけよ。
ガノタってのはそういうとこあるからね」
「ガノタ……?」
「ガンダムオタクのこと。それにいいんじゃないかしら。ジオン公国だって、一年戦争の開戦当初はモビルスーツ開発技術で劣る地球連邦軍に対して、ザクを戦場に投入することで兵器の性能差で一方的に優位に立ってたわけなんだし」
ドロッセルマイヤーは「なるほど」と頷いた。
「貴方の言っていることは意味がわかりませんが、一つだけ理解できました」
「何が?」
「モック・タートルの適性が貴方の治める『高天原の犯罪』であった理由です。きっと、貴方と話が合うからじゃないですか?」
「……別に。私はガノタってわけじゃないし」
「そうですか」
「オイ。オマエ、私をバカにしてんだろ」
「いいえ、馬鹿になど。ただ……」
「ただ?」
ドロッセルマイヤーは少しだけ踏み込んだ物言いをする。
「今の貴方になる前の、前世の貴方は……もしかしたら子供のうちに亡くなったのかも、と。そんな風に思いました」
「ちっ、見透かしたようなこと言いやがって」
ハートは拗ねたようにすっぽを向く。
そんなハートを放置して、ドロッセルマイヤーは戦況に注意を戻した。
☆☆☆
リーシャ先輩は領域効果により二体の水人形を呼び出す。
仮想の人形を供物として、仮装の人魚姫が召喚される――!
「舞台に新たな水を引くとしよう――
《水舞台の花影、ガーベラ》を召喚!」
桃色の花弁を象った衣装を着たマーメイドが現れた。
新たな戦力が召喚されたことでモック・タートルは更にパワーアップする……そう予想していた私の前に、予想外の出来事が発生する。
「えっ……!?」
先攻:リーシャ・ダンポート
メインサークル:
《「主演の化身」Mock turtle》
BP1111(+2700UP!)
=3811
サイドサークル・デクシア:
《水舞台の花役者、ゼフィランサス》
BP2700
領域効果:
[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]
後攻:ユーア・ランドスター
メインサークル:
《聖輝士団の一番槍》
BP1900
サイドサークル・デクシア:
《水舞台の花影、ガーベラ》
BP2750
《水舞台の花影、ガーベラ》は――
リーシャ先輩の場ではなく、私の場に召喚されている……!?
「一体、何が起きたんですか!?」
「《水舞台の花影、ガーベラ》の召喚時発動効果だよ。このスピリットは召喚時、相手のサイドサークルに召喚することができる。この効果で相手の場に召喚した場合、私は手札から水のスピリットを追加召喚できるのさ」
「また、追加召喚っ……!」
「さながら迫撃!トリプル・マーメイドといったところかな。
《水舞台の百花、サイサリス》よ、いざ我の前へ!」
鬼灯色の豪華なドレスを着たマーメイドが出現する。
モック・タートルの鏡に映る鏡面世界のリーシャ先輩は、ゼフィランサスの白とサイサリスの赤を半身ごとにまとう二色のきらびやかな衣装に染まった。
そのBPはリーシャ先輩のフィールドに存在する、水のエレメントを持つエンシェント・スピリットのBPを合計した数値分だけアップする……!
先攻:リーシャ・ダンポート
メインサークル:
《「主演の化身」Mock turtle》
BP1111(+5650UP!)
=6761
サイドサークル・デクシア:
《水舞台の花役者、ゼフィランサス》
BP2700
サイドサークル・アリステロス:
《水舞台の百花、サイサリス》
BP2950
領域効果:
[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]
後攻:ユーア・ランドスター
メインサークル:
《聖輝士団の一番槍》
BP1900
サイドサークル・デクシア:
《水舞台の花影、ガーベラ》
BP2750
モック・タートルのBPは……6761!
「1ターン目からこれだけのBPを得るなんて……!」
「あはは、これで私はターンエンドだ」
「私の……ターンです!」
私はカードをドローする。
引いたカードは――《遥かなるナグルファル》!
「――よし!」
私は眼前のモック・タートルを捉えた。
初めて相対する「闇」のカード――暗黒物語世界に住まうという幻想スピリットに、私は精一杯の虚勢を張る。
BP6761――
ウルカ様の《ブリリアント・スワローテイル》はもちろん、アスマ王子の《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》さえも上回る規格外のスピリット……!
「(でも、きっと超えられない壁じゃないです!)」
エルちゃんの《完全生命体「RINFONE」》との戦いを思い出す。
そうだ、エルちゃんはもっと強かった……!
「そして、あの時も……ランドグリーズが打ち破ってくれました!」
私のデッキにはBPを爆発的に上げる必殺のコンボがあるのだ。
手札に揃った二枚のカードについて、頭の中で効果を反芻する。
《戦慄のワルキューレ騎士、ランドグリーズ》は召喚時に墓地のスピリットを除外するごとに1枚につきBPを500アップさせる効果を持つ。
《遥かなるナグルファル》はスペルカード。
死者の爪で築かれた冥界の船の力を宿した呪文であり――このカードを発動すると、デッキからランダムに10枚の「光」のスピリットを墓地に送ることができる。
ランドグリーズは召喚にコストが必要なグレーター・スピリットだけど、手札から「光」のスピリットを墓地に送ることで召喚コストを代用する能力も持っている――つまり。
「(まずはナグルファルを発動してデッキから10枚のスピリットを墓地に送って――更に手札のスピリットを墓地に送ってランドグリーズを召喚。ランドグリーズで墓地のスピリットを11枚まで除外すれば、BPは元々の2000に除外した枚数分の5500を加えた7500になります。ランドグリーズでBP6761のモック・タートルを倒して、聖輝士団の一番槍で対人攻撃すればワンターン・キルの成立です……!)」
私は「必勝」を確信する――。
☆☆☆
「(……と、考えてるんじゃないかな?ユーア君)」
リーシャは『光の巫女』が罠にかかったのを確信した。
そう――彼女の「必勝」は封じられている。
「ユーア君はかわいい後輩であったが、
君が『光の巫女』だからいけないのだよ……」
☆☆☆
「スペルカード《遥かなるナグルファル》を発動――!」
私は決闘礼装にカードを挿入する。
ところが――
「えっ!」
BEEEEP!!!
手甲型の決闘礼装はエラー音と共にカードを吐き出した。
「ナグルファルが発動しない……!?」
「亡霊船の出航はどうやら取り止めになったようだね。あはは、自分のカードの効果をよく確認した方がいいよ」
「私のカードの効果……?」
スピリット・キャスターズでは、公式戦での使用歴がアーカイブとして残されているカードを除いて、相手のカードの効果は発動するまで確認することができない。
ただし、自分のカードならいつでも効果を確認できる――
「でも、私のカードは全て確認済みのはず……」
私は手札を確認し、それから盤面をもう一度よく見た。
先攻:リーシャ・ダンポート
メインサークル:
《「主演の化身」Mock turtle》
BP1111(+5650UP!)
=6761
サイドサークル・デクシア:
《水舞台の花役者、ゼフィランサス》
BP2700
サイドサークル・アリステロス:
《水舞台の百花、サイサリス》
BP2950
領域効果:
[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]
後攻:ユーア・ランドスター
メインサークル:
《聖輝士団の一番槍》
BP1900
サイドサークル・デクシア:
《水舞台の花影、ガーベラ》
BP2750
「……ああっ!」
私は気づいた。
そうだ――無策で相手の場にエンシェント・スピリットを召喚するわけがないのに。
「《水舞台の花影、ガーベラ》……!」
何か不気味なものを感じていたのは確かだ。
でも、勝利を焦った私はカードの効果を確認していなかった。
私は《水舞台の花影、ガーベラ》のテキストを呼び出す。
「……ッ!この、効果って」
「獅子身中の虫、とはこの事さ」
リーシャ先輩の言葉どおり。
このスピリットは、私のデッキに潜まされた「寄生虫」のような悪意……!
《水舞台の花影、ガーベラ》
種別:エンシェント・スピリット
エレメント:水
タイプ:マーメイド
BP2750
効果:
【召喚時発動効果】
相手のサイドサークルが空白の場合、このスピリットを相手の場に召喚してもよい(コストはあなたが支払う)。この効果を使用した場合、水のエレメントを持つスピリットを手札から追加で召喚できる。
このスピリットは水のエレメントを持つスピリットを攻撃できない。
あなたは召喚またはカードを使用するコストとしてスピリットを墓地に送ることができず、カードの効果によってスピリットを墓地に送ることもできない。