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オラが村に来襲した海水浴はまた来週

夏まっさかりのギラギラとした日差しの下、

白いパラソルを持った美少女が振り向いた。


「あら、ユーアちゃんにエルちゃん。

 遅かったから心配したわよ」


「にひひ。ウルウル、こんにちわっ!」


「ウルカ様……」


校庭ビーチに到着した私たちを出迎えたのはウルカ様だった。


いつもは侯爵令嬢らしい気品のある縦ロールにしている青紫色の髪を、タイトに結って水濡れOKのポニーテールにしている。


「(以前にも、縦ロールじゃないウルカ様を見たときにはただの美少女で驚きましたが――こ、こっちのスタイルも変な人気が出そうで心配になります!)」


私の邪な思いも知らずに、ウルカ様はパラソルの陰でお日様みたいに微笑んだ。


「ずいぶんと時間がかかっていたのね。

 なにか、あったの?」


「な、何も……なかったです!はい!」


私の心の準備ができてなかっただけ……

だけど、こうやって目の当たりにすると、スクール水着で来ている自分がどうにも場違いに思えてしまう。


周囲は黄色い声で溢れていた。


臨時で海の家やシャワールームなどが増設された校庭は、まさに海水浴場そのもの。生徒たちも皆、思い思いの水着を着てレジャーを楽しんでいる。


ウルカ様も……


じろじろと見たら失礼なんだけど――

それでも、私の目はウルカ様の肢体に吸い込まれた。


学園でも屈指のサイズを誇るバストを包むのは赤い縁取りがされた白のビキニ――こぼれ落ちそうに実った豊満で瑞々しい果実が肉感的な谷間を作っている。

腰元のくびれに、きゅっと締まったお腹――

白い肌を惜しげもなく晒して……こ、こんなの下着じゃないですか!


腰には白い一枚布を巻きつけたパレオ・スタイル。

こちらは一転して露出が控えめで、その有り様はいかにもセレブリティです。


とはいえ、全体のバランスはハレンチ一歩手前ッ!


「(こ、こんな格好で……人前に出てくるなんて!)」


「……やっぱり、露出が多すぎるかしら?」


「えっ」


「ユーアちゃん、すごい目で見てるから……」


――バレてた!


ウルカ様は水平線の向こうを遠い目で見た。


「この水着はメルクリエが用意してくれたものらしいのよ」


「メルクリエさんが……」


「男子寮の部屋から押収された私物のうち、事件と無関係のものは返還されたから。私とシオンちゃんで仕分けをしていたんだけど……そのときに」


いつか、ウルカ様が海水浴をする機会があったらと。

そう考えて用意していたのだろう。




「まったく。私には派手すぎるわよ、こんなの…」


【ロスト・メモリー】

ウルカ・メサイア

 ☆☆☆

 属性:地

 必殺:【翠眼の双爆裂嬢エメラルドアイズ・ツインバーストバスト

 パッシブスキル:

 【幼馴染】【光の巫女】属性への特攻50%!




メルクリエさんが――ウルカ様を親代わりに育ててくれた執事の方が、失踪したのは一学期の終わり頃。

あの「旧校舎」の一件以来、メルクリエさんは姿を見せていない。


私も未だに信じられない。

あの優しいメルクリエさんの正体が、世界を滅ぼそうと企む「闇」の末裔――『光の巫女』である、私の宿敵だったなんて。


「メルクリエさんと戦うときが来るんでしょうか」


「……きっと、ね。でも、安心して。

 相手がメルクリエであっても、私はユーアちゃんの味方だから」


ウルカ様は意志の強い瞳で断言した。


「ユーアちゃんや、みんながいる大切な世界。それを滅ぼすというのなら、私は絶対に止めてみせる。メルクリエに……そんなことはさせないわ」


「でも、メルクリエさんはウルカ様の大事な家族なのに」


「家族だからこそ、よ」


――そっか。

大切な人だからこそ、止めたい。そういう考えもあるんですね。


ウルカ様は続ける。


「……それに、家族というのならユ」


「ゆ?」


ウルカ様は「あっ」と口を抑える。


「お、おほほ。なんでもないわ。ええ」


「なんでもない話の流れじゃないですっ。

 怪しいですね……」


「な、なんでもないったら!」


付き合いが長くなってきたので私にもわかってきたことがある。


ウルカ様は決闘デュエルとなると頭の回転が早いし、色々と作戦や推理を思いつくけど……根が正直者というか、性根が真っすぐなのだ。

つまり、隠し事が苦手ということ。


「ウルカ様……?」


「ほら、せっかく海が出来たんだし。

 海水浴よ、海水浴!

 めいっぱい楽しみましょう?」


ウルカ様は、私の隣にいたエルちゃんに語りかけた。


「エルちゃんも、せっかく帰省から戻って来たんだし」


「うんうん♪

 ボク、ユーユーたちと遊ぶの、楽しみ楽しみ!」


エルちゃんはカメラ型の魔道具を取り出した。

業務用のかなり性能が良いやつである。


このカメラには見覚えがあった。


「それって、ジョセフィーヌちゃんのですか?」


「そうだよ、そうだよっ。ジョセジョセ、せっかくのチャンスなのに実家から戻ってこれなくて”けつるい”を流してたから!ボクがカメラをあずかったんだ。みんなを”さつえい”した写真でグラビア”とくしゅう”するんだって!」


「あはは、相変わらず商魂がすごいですね……」


エルちゃんはカメラを構えた。


「ほらほら、ユーユーとウルウルも並んで並んで♪

 シャッターを切るよっ!」


「あうっ、い……いきなり始まるんですかぁっ!?」


「ちょっと待って。

 これ、報道部のグラビアに使うって言ってなかったかしら!?」




冷静に考えたら、撮られたらマズい気がする!

するんだけど……夏の魔物は恐ろしい。




「1、2、の3!

 はい、”てぃーしーじー”~!」


「「てぃ、TCG~っ!」」




カメラのファインダーの向こうには、

満面の笑顔で写真に写る私たちがいたのだった。

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