#94 切断
やはり、剣はいい。
この重み、安心感。日々磨き上げ、我が子のように大切にしてきた剣はどこまでも愛おしい。決して業物でも、ものすごい力を秘めているわけでもないが、それでも、ずっと使ってきたものには愛着が湧いてくるものだ。
まぁ、大切にしてきたとはいえ、剣は消耗するし、酷使するものだ。どれだけ手入れを欠かさず行なっていようとも、今ではかなりボロボロになってしまっている。
まぁそうだろう。少なくとも、シルカ・リザリアが生まれる前からあの家の物置の中に眠っていたのだろうから、父の代、更に言えばそれよりも前から存在していたのかもしれないし、その間一度も使われたことがないなどあり得ない。
まぁそんな話は今じゃなくてもできる。今は集中せねば、この間の二の舞になりかねない……………
「ネスト!破壊は駄目か⁉︎」
「当たり前だ……と言いたいところだが、やむを得ん。今回は私が許す!好きなようにしろ‼︎」
「大得意だ………‼︎」
ギルドマスター直々に許可が出た。ならば、私の好きにさせてもらおう!
………と、行きたいところではあるが、よくよく見てみればなんの気兼ねもなく、とは行けなさそうだ。
先ほどからなんでこいつらは固まっているんだと思っていたが、目を凝らして見てみれば糸ほどの細さの何かが刺さっている。
おそらくネストによるものだろうが、このガーディアン共の人工筋肉を貫通させるほどだ。その硬さは尋常ではないだろう。となれば、私の今の剣では刃こぼれ……最悪の場合剣が折れてしまう可能性もゼロではない。
「間を狙わなければならんか………!」
目を最大限凝らしてようやっと視認できるほどのもの。裁縫針よりも細いそれ。老いて衰えた目では絶対に見ることは叶わなかっただろう。若い体に感謝しつつ、今後も大切にせなばな。
「シュッ………!」
私は空いている部分めがけて正確に刃を振るう。私とて、何百万では全く足りんほどには剣を振っている。斬撃の精密性にも自信はある。
私の放った剣はネストの鋼糸をするりと抜け、ガーディアンの体にへと接触する。
それでも、黒刃の鉄仮面の体は魔力合金。そう簡単に斬れるものではないが………ネストの魔術で貫けるのだ。対抗心を燃やすには多少ベクトルが違う気もするが………まぁ構うまい!
「はああっ‼︎」
体全体は攻撃しない。人工筋肉を構成している繊維、その一本に集中するイメージ。
「フゥッ…………‼︎」
剣が触れた瞬間、私は集中力を最大限以上に引き上げる。
それは一瞬にも程遠いほどのわずかな瞬間。狙った一本の繊維が私の剣に接触し、ブチンという感触がしたのを感じとる。それを確認し、次の一本を狙う。それが斬れたらその次の一本といったような感じで、次々と人工筋肉を切断していく。
そして、そんな途方もない一瞬を乗り切れば、私が狙いを定めていたガーディアンの一体。奴の左肩から右横腹までを両断する袈裟斬りが完了し、黒刃の鉄仮面は私の手によってその体を分断されることとなった。
「………あれを、神業というのだろうか…………」
ネストは表情には出さないものの驚愕した。それは、今日だけで何度目なのであろうか。
一方向ではない。ネストは地面からあらゆる方向にへと岩鋼糸縛によってガーディアンを固定していた。そしてそれは、生半可な武器程度であれば攻撃を加えられても逆にその武器を破壊してしまうほどの硬度を誇っている。それをシルカは、ネストの魔術を一目見ただけで予測し、それを避ける選択肢をとった。
そこまでならまだ分からなくもなかった。だがそれでも、そんな剣であの黒刃の鉄仮面を両断してのけたことに関して、ネストにとっては理解し難いものだった。
最新鋭の魔力合金の硬度は、そこらの鋼の比ではない。魔力を打ち消す魔術に腐食系統の魔術、それと物質を複数に分ける分離魔術。それら三つを発動させてようやっと魔力合金は鋼鉄並みの硬度となる。
それほどまでに硬い物質。それを、魔剣でもない、それどころか使い古されて耐久力もそこまでのように見えるただの剣で切断してみせた。
一体どうして十六の少女がそれほどの技術を有しているのか。それがネストにはどうしても分からない。
そこからしばらくしない間に、残りの三体もいとも簡単にシルカは斬ってしまった。一体は首元を、一体は腰の部分を、一体は縦一文字に。入り組んだ岩の鋼糸を掻い潜って。
「っはあ……!はぁっ………」
やはり、あれだけの集中力を出してしまうとかなり体力を消耗する………
これが常時呼吸同然にできればいいのだが、それはまだまだ先の課題か。
「思ったよりも随分早かったな」
「ふぅぅ………あぁ……全力疾走で、取りにいったからな………はぁっ……はぁっ………」
「………今回は緊急だから何も言わんが……今後はなるべくギルド内は歩くように」
流石に自分が出した指示だ。あまりとやかくは言えないのだろう。少し不満げな顔をしながらネストは私にそう注意する。
「さて、残り一体か………」
ガタガタガタガタ……………‼︎
「こいつら……!斬ったのにまだ動くのか⁉︎本当に生きているのではなかろうな⁉︎」
「生きていないからこそだ……‼︎このガーディアンは特殊でな……分離しても充填されている魔力が完全に無くならない限りは地を這ってでも動き続ける………」
「そういうことは一番初めに言っておけ馬鹿者‼︎」
ガーディアンは気味悪く動き続ける。そして、その四体の奥には残りの一体が堂々と佇んでいて……………




