#90 ギルドマスターとして
私、ネスト・ローゼンツの父は、四十二で亡くなった。私が八歳の時だ。
当時父は、私が生まれる少し前に祖父のハンゼットと世界的な大英雄が共に築いた冒険者ギルドのトップとなって、たった一年後の出来事だった。
祖父が言うには、出来上がって当初の冒険者とはそれはそれは酷いものであったそうで、ライセンスカードすらなく、簡単な書類だけで誰でも冒険者になることができていたようだ。
しかし、その後の冒険者の魔物による死亡率は相当なものになったようで、それを機に、冒険者である証明書、すなわちライセンスカードを取得しなければ冒険者を名乗ることは出来なくなり、それを取得するための試験も急遽用意された。
その時冒険者として活動していた者ももちろんそれらを受け、受かった者はそれでよしとし、落ちた者に関しては受注していたクエストがあったとしても活動を禁止とした。
そうして冒険者の仕組みの基盤を作った祖父であったが、その時点で当時八十六歳。かなり歳を召してしまった祖父は、息子である父、モルト・ローゼンツにギルドマスターの地位を譲り、現役を引退した。
私は、子供の目からすればあまりにも大きいこの冒険者ギルドという組織を一から作り上げた祖父を、そして与えられた責務を全うするために日々尽力していた父を誇りに思っていた。そしていつか、そんな二人のような人間となり、共に冒険者ギルドを盛り上げていきたいと、純粋にそんなことを夢見ていた。
頑張っていればもしかすれば、いつか自分もギルドマスターになれるかもしれない。そんな高望みのようなことも考えていた―――
―――だが、そんなギルドマスターには、思っていたよりも圧倒的にあっさり就任することになってしまった。そんな妄想から、たった一年後だった。
理由は簡単。父が殺されたからだ。冒険者の手によって。
父の遺体が発見された時犯人の姿はどこにもなく、ただ土砂降りの大雨の中、路地裏に仰向けで倒れていた。おそらくギルドの外を出歩いている時を狙われ、連れ込まれて殺されたのだろう。剣やナイフによる刺し傷、裂傷が全身に見られた。左目は潰されており、右手の人差し指と中指も無かった。
第一発見者は、奇しくも私だった。
私は泣き叫んだ。誰もいない路地裏で、父の骸を抱きかかえて。
そして、父の葬式も済んだ後、私は父の後を継ぎ、このヴェラリオの冒険者ギルドギルドマスターに就任することになった。たった八歳の子供がだ。
もう一度祖父が現役に復帰させてはどうだという案もあったが、祖父は現役を引退してすぐ病に侵され、命の危機は無いもののもう無理は出来ない体となってしまっていた。
だがしかし、九歳の私がギルドマスターの任を引き継ぐことなど、父を殺した者は良く思うはずがない。そいつらも、おそらくは父がギルドマスターになった事が気に食わなかったから殺したのだろうから。当然、私も狙われることになるだろうと読んでいた。
ならば簡単だ。やられる前に、やられないための力を身に着ければよいのだ。
そこから、私は毎日勉強に明け暮れた。知識を詰め込み、魔術を習得し、齢十五にはすでに第三階級クラスの実力を身に着けていた。
冒険者におけるルールの改定、厳格化も徹底した。組織である以上、個人の自由の度が過ぎていては成り立たない。秩序を重んじ、皆で協力し合えるようなギルド作りを行っていった。
死者を更に減らすため、冒険者試験の難易度も引き上げた。難しすぎるとクレームを入れてくる者も少なくないが、勉強を修練を怠らなければ誰であろうと合格できるようにはしてある。まさに負け犬の遠吠えだ。そんな物には耳を傾ける必要もない。
その代わり、施設の充実化も怠らない。優秀な者にはそれ相応の報酬を出し、仕事も斡旋する。そうして組織としての水準をどんどん引き上げていったのだ。
―――――そんなある日、私が一人で夜の街を歩いている時だった。
その日はギルドの職務も中々忙しかった。食事もまともに取れていなかったので、どこか空いている店を探していた時だった。
「………!ッ……!!」
「へへっ……大人しくしなギルドマスター殿よぉ………」
おそらく、父の時と同じだ。同じ路地裏、同じ冒険者。人数は五人。顔を見た限り、四十から五十代だろうか?年齢的にも、おそらく同一犯だろう。
「ッ!!放せ……!!下郎が!!」
私は三人がかりで私を捕まえているそいつらを振りほどく。しかしそれでも、狭い路地で五人の武装した集団に囲まれているという現状は全く変わらなかった。
そう。たった五人だ。
「親子そろって丸腰で街をほっつき歩いてんだからなぁ………殺すのが楽で助かるぜ………」
「もう跡継ぎはいねぇよなぁ……?今から適当な女引っかけてテメェの種でも注ぎこんでおいたらどうだぁ……?ヒャハハハ!!」
「「「ダーーッハッハッハ!!!!!」」」
聞いている限り、相当な下種共だ。腐った口から発せられるのは、反吐が出るような言葉にも満たない何か。
「………貴様ら、遺言はそれだけか?」
「あ?」
「―――よろしい。貴様らは今この場で人生終了だ………どうせ妻も子供もいないだろう?貴様らの代でその家は終わりだ。親泣かせの実に哀れな人生だったな」
「あぁ゛?んだとゴラ!?」
「テメェ……ズタズタに切り裂いてやる………父親よりも残酷になァ!!!!!」
どうせこいつらは前科持ちだ。それ相応の罰は受けてもらわねばな。




