#78 いよいよ始まる最終試験
私はたまに、人の体感時間というものに疑問を抱いてしまう。
皆もあるだろう。楽しい時間や休息中の時間は物凄く早く過ぎ去っていくというのに、苦行などの嫌な時間はまるで永遠のように感じられてしまうあの現象だ。
そして、実技試験までの猶予であった一時間。それもまるで一瞬かのように終わってしまう。先ほどヒユウも言っていたが、実技試験の内容は直前になるまで分からない。
時間となったことで、再び受験者の前に案内役であるリンが現れる。だがもうすぐ、彼女の役割は終わりを迎える………泣いても笑っても、次で最後だ………!
「それでは、筆記試験を突破された七十三名の受験者の方々。これより最後の試験……実技の方へと参りたいと思います。それでは、ギルド裏の屋外フィールドへとご案内いたします」
「シルカ……!」
「あぁ……楽しんでいこう………!」
真剣にこちらに視線を送るヒユウに、私はにやりと笑みを返す。もちろんこれから行われるであろう戦いに、死者は出ない。ならば、全力で楽しむのが一番だろう。
こんな時に何を言っているんだと言われるかもしれないが………生憎、今世の私は自由人なのだ。誰にも文句は言わせないし、言われたとしても自分の思い描いた理想を諦めたくはない。
悔いも後悔も絶対に残さない。それがシルカ・リザリアとしての生き方だと決めているのだから。
この冒険者ギルドの敷地。六割は建物が占めているが、その残りは外にある。
案内されたのは、このギルドの建物の裏にある屋外フィールド。端には修練用の的や打ち込み用の丸太などがあるが、基本的には何もなく、ただ平坦で街の中にあるにしては相当に広大な敷地面積。更に敷地内、そして建物自体は魔力結界により覆われており、ここでいくら魔術を行使しようが、街が被害を被ることはない。
これ自体は冒険者ギルドができた時から存在しており、結界を張るのには相当苦労させた思い出がある。
私自身は現場にいなかったので案だけを担当していたのだが、まず敷地となる場所をある程度掘りぬいて、地面に圧をかけて固める、そこに結界を張るための特大の魔法陣を彫り、その上に地面を被せて建物を建てる。
そのように見えないところでかなり苦労を重ねられ生まれた魔力結界は、今もなお現役のようで一安心だ。あれだけやってたった数年で効力を失ってしまったとなれば、必死に頑張った者たちも浮かばれんからな。
案内された私たちは、その一角に全員集められる。ある程度整列が終わると、その男は私たちの目の前に歩いてやって来た。言うまでもない。ギルドマスター、ネスト・ローゼンツだ。
「ごきげんよう諸君。ギルドマスターのネスト・ローゼンツだ。まずは適正鑑定、筆記試験突破おめでとう。が、ここまではあくまでも知識的な部分だ。冒険者はその仕事上必ず武器を取り戦わなければならない………とどのつまり、実戦ができなければ、いくら頭がよかろうが、素質があろうが、魔物どもに蹂躙されその生涯を終える。例えどのような人間であろうとも、時にあっけなく、時に残酷にその命を落とす。それが冒険者だということをくれぐれも忘れることのないように」
おいおい……初っ端から脅しか……?と、言いたいところだが、これに関しては私もネストと同意見だ。
生半可な覚悟で戦場に出れば、ほぼ間違いなく死ぬ。この世界では……いや、どんな世界だったとしても戦いの前には命などあまりにも軽い。
「では早速だが、実技試験の内容を発表する………君たちの相手となるのは、こいつだ」
ネストが手を床に翳す。すると地面に回転しながら現れる魔法陣。それはゆっくりと回転を止めていき、完全に停止したと思えば、一気に上昇、その後消滅した。
そして、それと同時に現れた、何やら奇怪な見た目の鉄色の人間………の形をした何か。
ガーディアン……なのだろうか?だが、そのサイズは人間と大差ない。
露出した……金属製の筋肉………それに何やら不思議な鉄仮面。仮面自体はシンプル。多少左右非対称なくらいの特に突出した特徴もないものだが、何やら両端に飾りのような、武器のような………とにかく真っ黒な鋭い何かが取り付けられていた。
「これは、冒険者ギルドが開発した、一般人サイズのガーディアン。特殊な魔力合金で作られた人口筋肉、超人なども優に超える身体能力を持つ人型の怪物………魔動鉄人初号、黒刃の鉄仮面だ。試験内容は簡単だ。受験者用にパワーを抑えられたこいつに一定量のダメージを与え停止させるか、これ相手に十分間戦い抜くことだ。それが出来れば晴れて合格、冒険者ライセンスカードをその者に進呈しよう」
デモンズなんちゃらとかいうのはよく分からんが……中々の存在感だ。
それにしても十分か………先の樹拳の指南者を思い出すな………今回は壊さんように努力せねば―――
「なお、筆記試験同様……ヒユウ・シュドラーテ、そしてシルカ・リザリアの試験内容はまた別だ………まずヒユウ・シュドラーテ。お前は、こいつと戦ってもらう。」
呼ばれるように現れたのは、ここ数日私たちの前に姿を現さず、自分の家にも帰ってこなかった灰色の髪をした女性。
「………ッ!?れ、レイアさん……!?」
「やぁ、ヒユウ。よろしく頼むな」
「そしてシルカ・リザリア………貴様の相手は……………この私だ………!」
「………!!そう来たかッ……!面白い!!上等だ………!」
これは流石の私も想定外……まさかギルドマスター直々に相手をしてくれるとはな……!ネストがどれほどの実力なのかは正直は知らないが、全力でやらせてもらうとしよう……………!!
ちなみに、建物を守る魔法陣は別で存在しており、
建物
建物用の地面
建物の面積分の大きさの魔法陣
固められた地面
魔法陣
固められた地面
みたいな感じで重なってます。いくら魔術があるといっても、この冒険者ギルドのために数百人規模で作業していた時期もあったそうです。
ちなみにこれのせいでその年の国家予算は大ピンチだったとか……………




