#74 適性鑑定
案内されたのは、ギルド一階の最奥。まだ私も足を踏み入れたことのない部屋だった。
リンが扉を開けば、広がっていたのはそれは大きな部屋だった。この冒険者ギルド自体そこそこの面積を誇っているが、それでもこの部屋。全体の四分の一ほどの面積はある気がする。
そして、それだけだ。家具もカーペットも、更には窓すらない。照明が存在しているため決して暗くはないが、それでも様々なものがある冒険者ギルドの中では明らかに異質と言えるだろう。
(ギルドができた頃、こんな部屋あったのか………?)
少なくとも、私が携わっていた時にこのような部屋は用意してはいなかった。
本来の予定では、この場所は物置となっていたはずなのだが……………
「それでは、開始いたします。一人ずつ、奥の部屋へと進んでください。一人が部屋に進み、その後合図があれば次の一人が進む……これを繰り返していきます。一人一分、今回の受験者が百十六人ですので、この適正鑑定は約二時間続きます」
人が多いために、かなり時間を要する、ということか。
「あのっ!これには一体どういった意味があるのでしょうか!?」
そんなとき、一人の受験者が手を上げ、リンにへと質問する。槍を背負った深緑色の髪の男だ。
「その名の通り、あなた方が冒険者としてやっていけるような適正を持ち、そしてどのような性格なのかどうかを判定させていただきます。なお、ここで冒険者としての最低限の適性が無いと判断された場合、この場にてその者の試験は終了となります」
「ッ!?ちょっと待ってください!終わりってどういうことですか!?」
「適性はその後の試験結果にもよるだろうが!!」
「そんなのあんまりよ!!」
それを始めてこの場にて聞かされた受験者は、説明したリンにへと野次を飛ばす。辺りは一瞬にして喧騒で包まれるも、リンもここのプロだ。意に介さず淡々と説明を続ける。
「………なぜか、ですか。それは、あなた方を思ってのことです。冒険者というのは非常に魅力的な職業に見えますが、実際は相当危険な仕事です。今後冒険者となり様々な魔物と相対する中で、必ず強敵というものは現れます。もし仮に、この場の人間の中に失敗から学ばないような者、自ら成長することを怠るような者などがいたとすれば………その者は、今後死にます。絶対です」
「死っ………!?」
「ですので、試験辞退を勧め、他に適性のある職業に就くことを提案しているのです。それとも、なんでしょうか?今私に向かい文句を叫んだあなた方………自分が先へ進む自信を失うほど、心の弱い方々なのでしょうか?」
「「「………ッ……!」」」
流石、慣れているな。リンはまるで嘲笑うかのようになれた口調で野次を飛ばしてきた者たちに逆に問いかける。
しかしなるほど。そういう意図だったか。確かにそうすれば冒険者となって命を落とす人間の数は格段に減る………しかし……………
(一体誰が………)
たった一分。それでどうやってその者の適性の有無を判断できるのだろうか?もし、それが可能な者がいるとするならば……………
「さぁ、まずは誰から行かれますか?」
「お………俺が行く……!このまま言われっぱなしじゃ終われない……!」
我先にと名乗り出たのは、先ほどの緑髪の男。奥に続く扉を自分の手で開き、そのまま先へと進んでいった。
彼に続くように、他の受験者もどんどん部屋の中へ入っていく。まぁ、結局全員受けることになる。人の流れに身を任せ、私の番が来るのを待つことにした。
「それじゃあシルカ、先で待ってるね………!」
「あぁ。後でな」
私よりも一足先に、ヒユウの方が扉の先へと向かった。
もしここで、彼女が落ちてしまったら。そんなことが一瞬頭に過ぎったが、それは無いと軽く一蹴する。
あそこまでの実力を持っているのだ。それに、要領はそこまで良いとは言えないが、しっかりと努力と努力を積み重ねることのできる娘だ。あれがここで落とされるのならば、ここにいる九割は確実にこの検査で試験はおしまいだ。
「さて、次は私の番だな」
一分などあっという間に過ぎていく。合図は向こう側からなってくる小さな鐘の音。念のためリンにアイコンタクトで確認してみるも、特に問題なさそうだったので私はドアの取っ手を掴み、開いて中へと入る―――
「―――少し暗いな……」
それに加えて狭い。先ほどの部屋の広さに少し慣れ始めていたというのもあるが、それでも怪しげな雰囲気の漂う空間だ。そして何より―――相当に濃い魔力が漏れ出ている。
「さぁ、戦士を志す者よ。私の前にまで」
そう指示してくるのは、長いローブに身を包んだ男。
フードで隠れていて顔はよく見えないが、それでも確認できる長く白い髭。雰囲気からして、かなりの高等魔術師なのだろう。
私は言われた通りに彼の前にへと立つ。すると老人は私の前に右手の平を翳し、私の体に自分が作り上げた魔力を繋げていく。
これは………対象の記憶などを見ることのできる魔術か………」
以前、城にも同じような魔術を使うことのできる魔術師がいた。名前は確か―――――
「………鑑定は終わった。汝よ、左奥の扉の先へと進め」
「分かった。ありがとう」
果たして、その扉の先はどうなっている事やら―――
シルカの適性鑑定を終えた老人は、部屋の隅に待機していた部下を呼び出した。そして、こう言い放った。
「……………国王をここへ連れて来てくれ……私はあの娘の中に確かに見た………かの英雄の姿を………!」




