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#7 狩猟、初陣にてウリ坊

 結論から言えば、私の先ほどまでの不安は杞憂に終わった。

 それから数十分後、ストーンボアの群れを見つけた私たち一行は、注意事項を確認したのちに戦闘へと入る。


「まずは父さんたちが行くから、しっかり見てるんだよ……やあぁっ!!」


 まずは父が先頭を切る。移動が困難な森の中であるのにも関わらず、慣れたステップでボアへと接近。側方から自身の片手直剣による突きを繰り出した。それは見事にボアの首元にへと突き刺さり、隙間からは真っ赤な血がドクドクと溢れ出している。


「ひぃぃっ!? 血がぁ!」


「当たり前だろう。大体の生物には流れてるものだ」


「わっ…分かってるけどさぁ……!」


 さっきまであんなに楽しそうにしていたナルクはもうご覧のありさまだ。一端の男が動物の血程度で動揺するでないわ。

 私が初めて見たのは人間のそれだったんだぞ?それに比べれば大したことなかろうて。


「少しは見習え」


「何をだよ!?」


「ほら! お喋りは後だ! ……俺たちも行くぞ!」


「「「「おおぉぉっ!!」」」」


「ほら行くぞナルク! 置いて行くぞ!」


「っ!? ま、待てよぉ!!」


 大人たちは成体を、私たちは赤子の猪をそれぞれ狙う。小さく少し可愛らしさもあるので思うところが無いとは言い切れんが……安心しろ。しっかり残さず食ってやるからな。

 



 このストーンボアの弱点は眉間……と、さっき父が言っていた。だが変に狙って突進されたら危険であるため、確実に倒せるやり方を取った方が良いとも言っていた。

 父の場合、それがさっきの側方からの刺突なわけだが………


「弱点があるのだから、積極的に狙っていけばいいじゃないか」


「お前……おじさんの話聞いてなかったのかよ………」


「聞いていたさ。聞いた上で言ってるんだが?」


「どこから湧いてくるんだよその自信は……って…こっち来たぁ!?」


 さっきからぎゃあぎゃあとわめいているナルクが癇に触ったのだろうか、目の前のストーンボアの子供が勢いよくこちらに向かって突進してきた。いくらウリ坊とて、この個体は体長八十センチほどはありそうだ。成体よりは小さいとはいえ、この小さな体では、それでもとても大きく見えてしまう。

 猪は石色の体毛を逆立て、敵意むき出しでこの瞬間もこちらへと迫ってきている。


「猪なんだから騒いで興奮させたら襲ってくるに決まっているだろう………」


 つくづく呆れる小童だ。これほど私が寛容な心を持っているというのに、その範疇すらも超えんとする。まぁいい。ならば、手本を見せてやるとしよう。と言っても、私は人以外を相手にするのは初めてなのだがな。


「ふんっ!!」


「ブウォァア…!!」


 私は軽く地を蹴り、ストーンボアへと向かって低く飛び掛かる。そして持っている剣の柄頭を子猪の眉間に容赦なく打ち込み、その動きを完全に停止させる。

 猪が痙攣を起こしている間に私は剣を振り上げ、そのまま首元へと振り下ろす。いくら非力になったとはいえ、培ってきた技量はそう簡単に失うものではない。さらにこの日のために研ぎ澄ました己の剣も相まって、そのままウリ坊の首を切断することに成功した。


「うむ。初めてにしては悪くないだろう。さて………どうだナルク、ちゃんと見ていたか?」


「頭ががが……とと取れて………」


「当たり前だろうが! 首を刎ねたんだからな!」


 日和り過ぎだ小僧!そんなんで戦場に出たら真っ先に死ぬぞ!!

 まったく……本当に争いを沈めてよかったと、こんな形で思うことになろうとは夢にも思わなかった。というか、さっきも言ったがせっかくの装備が完全に飾りになっているではないか。


「お前の斧が泣いているぞナルク! 私のような娘に負けておいて恥ずかしくはないのか小僧!」


「同い年だろーが!! ……ちきしょー! 俺だって男だ! 負けてたまるかーーっ!!」




 私の喝によりやっと背中のバトルアックスを構えたナルクは残りのウリ坊へと目を見やる。

 多少顔が引き攣っているのと足がすくんでいるのは見なかったことにしてやるとして、だ。


 さっきあれこれ言ったものの、もちろんナルクは私のように前世の記憶を持っているはずもないただの少年だ。生き物を自らの手で殺めるのに抵抗があるのは当たり前であるし、怖いと思うのも当然のことだ。

 しかし、それでは駄目だ。「冒険者」を創ったからこそ分かる。実力を持たねば、魔物にあっけなくやられるだけだと。


 冒険者の魔物による被害は資料を介して知っている。それは決して少なくない犠牲者の数。冒険者専用ライセンスカードを発行するために試験を合格しなければならないようにする以前など本当に酷い有様だった。そのような風には、今私の目の前にいる少年にはあってほしくないのだ。


「うおぉぉぉ!! ドラゴニック・インパルス!!」


「グブォォッ……!」


「………うむ。やればできるじゃないか。その調子だ」


「ハァッ…! ハァッ…! 俺も戦えた……! やったぜー!」


 何事においても、成功体験は大切だ。まぁ、ただ斧を振り下ろすだけの行為に、竜駆疾(ドラゴニック)衝撃波(・インパルス)とはいかがなものかとは思うが。

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[一言] 自信家はともかく、ここまで来たらもう天狗になってない? 90間近のおじじゃんがここまで酷いなら王に重用する可能性がグッと減るはず。 立派な部屋を強引に英雄に押すぐらいなら合格な王のはず。 …
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