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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
夜明之戦王編 酸湖の魔窟

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589/689

#589 一石投じた行方は……

 …………直後、湖に異変が起こり始めた。


 泡と共に、美しい空色に染まっていた水から瞬く間に色が消えていく。


「よしよーし! 上手くいったかなー……って、あれ?」


 だがしかし、それも一瞬の出来事。薬を落とした場所を中心として少しずつ浄化され初めていた湖であったが、それも束の間。再び透明度の増した水が強酸に侵食、汚染されてしまう。


「うーん、駄目か……成分的には問題ないはずなんだけどねぇ……」


「なんらかの魔術が働いているな、これは。これを浄化するには、あくまでも術の発動者をどうにかせねばならんということか……いや、自然継続型魔法陣を複数使用してこれを作り出している可能性もある……」


 だが、肝心の魔術発動者など、どこにいるのかすらも分からない。襲ってきている敵からして、そいつもおそらくは魔物である可能性が高い……が、魔物など今はそこらじゅうにいる。そのほとんどを包み、同時に凄まじい冷気を放っている銀炎に巻き込まれてくれれば話は早いが、そういうわけにもいかないだろう。そもそも、あれらは空を飛んでいた鯨から生まれた存在。鯨が出現するよりも前に強酸と化していたこの湖とは、おそらく関係ない。


「湖底の魔力を感知して、それらしきものがないか探ってみるとしよう……探求幻眼(サーチ・アイ)


 ジヴァルはそこから目を瞑り、周囲の空間全てを感知できるよう自分が作った魔力を拡大させ、湖の底にまで張り巡らせていく。できる限り感覚を研ぎ澄ませながら想像でもヒリヒリしそうである強酸の水の中をゆっくりと進んで行った。


「…………魔法陣らしきものは…………無いな。どこにもない」


「そんな……」


 開始から数十秒で、ジヴァルはそう断言してみせた。その僅かの時間の中で、湖底全てを調べ上げてしまったのだ。


「じゃあやっぱり、ここの戦場のどこかに発動者がいる……ってことになるんですかね?」


「だろうな……あと、魔法陣は無かったが……一つ気になるものが……」


「気になる……」


「もの?」


 魔法陣は先ほど無いと言ったばかり。そして単なる魚などの湖の中にいる生物……というよりは魔物などをわざわざ気になるものなどと報告したりはしないだろう。確かにこの男の得意とする魔術は索敵や他者の記憶を見たりなど、戦闘に不向きなものが多いが、それでも戦えないわけではない。むしろ、こう見えて戦いの面でもかなりのやり手である。それこそ、魔術師団の中でもトップレベルであるほどに。


 そして、そんな男が発した、“気になるもの”という単語が、二人の不安をいつもよりも少しだけ大きく煽った。


「私でも分からない……未知の何かがこの底にある……魔物でも、魔法陣でもない何か……明らかな異質が、この先にある……」


「異質? ってのは…………なんなんだろう……」


「うーん…………」


 ミュウファもそこで考えるが、いまいちピンとくる答えは浮かんでこなかった。アレイザの方も同様。それは、本で得た知識などではどうにもできないようなものであったからだ。


「浄化はできない……というかこの強酸湖自体が魔術によって作られたものなら、水を抜くのすら難しいか……ってなったら残る手段は一つしかないけど…………どうする?」


 そう言いながら彼女が振り向いた先にいたのは、ジヴァルではなくアレイザであった。


 なぜ今自分に振ってくるんだろう。そんなことを真っ先に考えてしまった彼女ではあるが、もうすでにその腹は括られていた。皆が命を賭けて頑張っているというのに、二人がなんとかして道を切り拓こうとしてくれているというのに…………自分だけ諦めるなんていう選択肢、選べるわけがなかった。


「…………進みましょう。どうすれば良いかは、私には分からないですけど……それでも、皆のためにこの命を使うことはできます」


「……良い答えだね。でもっ! 命を使うなんて言っちゃダメ‼︎ もっと自分を大切にしてよ? こういう体張るのは、お姉さんや団長に任せておけばいいの!」


「勝手に言いおって……まぁ、その通りだな。これからを創る者に、この老耄を守らせるなどあってはならん。立場などは関係ない……ここぞという時に、魔術師団の長たる私が出ないでどうするか…………やるぞ、ララーシャ。二人で、この先へ続く道を……この戦い、若い者ばかりには任せておけんわ……!」


「いや、私もまだ二十二なんですけど? まだまだ若いんですけどぉ⁉︎」


 てんやわんやとしながらも、方向性は決まった。そして三人は、浄化から潜入へと頭を切り替え、もう何度目かも分からぬ思考を……進むための一手を、いくつも模索し始めたのだ。

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