#53 昨夜の回想
「ぐっ……頭が……昨日飲み過ぎたか………」
「おいおい……二杯も飲んでなかったぞ………」
頭を押さえながらも、レイアは目的の場所へと足をゆっくり進める。その服装は昨日までとは違い、冒険者レイアの装備。私も昨日同様スカートを履かされそうになったが、動きずらいというのもあって何とか回避し、これからいつものになるであろう動きやすい母お手製の服を着ていた―――
あの後、私は必死でレイアを起こし(一時間かかった)、なんとかその足で支払いをしてもらい、その後はレイアを負ぶって家まで案内してもらった(途中レイアが睡魔にやられたため一時間かかった)。
その頃にはすでに月は天辺を越え降りて来ていた。辺りは真っ暗……いや、まだ空いている酒場などもちらほらあったが、それでも先ほどまでの騒々しさはかけらも感じられないほどには静かだった。
レイアに案内されるがまま辿り着いたのは、冒険者専用の集合住宅と思われる場所だった。看板にはその日見たギルドのマークと同じ紋章が記されていたし、ほぼ間違いないだろう。
五階建ての大きな建造物。城の兵舎ほどではないが、それでもかなりの人間を収容できるだろう。
レイアの部屋は、ここの四階の左から二番目の部屋らしい。私はすぐさまそこまで階段を駆け上る。そろそろ浴場で落とした疲労の方が回復してきつつあるが、もうじき休める。ここで気を抜けばレイアの身体を落としかねないし、最後まで油断しないようにしなければ。
「レイア、鍵」
「うぅぅん……………」
「……仕方ない………」
流石に背負っている無防備な人間の服の中を漁るなど、ましてや女性の服を弄るなどできない。大人しくここにいるであろう管理人に鍵を開けてもらうため、私はもう一度上ってきた階段を不本意ながら降りていくのだった。
行ってみれば案の定、部屋の明かりがついていた。
他の部屋とは少し変わった……といっても、多少大きい外観というだけだが、しっかりと入り口には「管理人室」と書かれていた。
かなり遅い時間だが、意外にも起きているものなのだな。まぁ冒険者の中にも、騎士団のように荒くれ者がいるのだろう。深夜に暴れられでもしたらそれも止めねばならない。管理人というのは、大変な仕事なのだ。
さて、問題はここからだ。こんな時間に行って怒られないかどうかだ。いや、怒られるのは構わない。というか確実に怒られるだろう。少なくとも、私が管理人なら怒る。
「……あの、すみません………」
ノックをし、それから声をかける。明かりをつけたまま眠っているパターンも考えられなくはないが、その場合はどうしたものか………
そんなことを考えていると、幸運なことにドア越しに返事が帰ってきた。
「はい、こんな時間にどちら様……?」
やはり眠っていたのだろうか、寝起きのような声色の女性の声。聞いた感じ、四十から五十あたりだろうか。
「シルカ・リザリアと申します……レイア・オルフロストさんを連れてきたのですが、生憎鍵がなくて………」
「え?オルフロストさん?」
その名を聞いた管理人は、すぐさまガチャリとドアを開ける。
扉の先にいたのは、酒気を帯びた青髪の娘と、それに抱えられ酔い潰れ眠っていた灰色の髪の冒険者。
「いやぁ………珍しいこともあるんだねぇ……オルフロストさんのそんな姿、あたしゃ初めて見たよ」
「珍しい?」
「オルフロストさん、頑張り屋さんなのに疲れを一切見せないような子でねぇ。クールというかなんというか………とにかく、どこか気を張り詰めてた感じだったんだよ。ギルドからも近々大きな依頼がある、とか言ってたしねぇ」
「………そうだったんですか……」
そこまで責任感を一人で抱え込む必要はないだろうに。本当によくできた性格をしている。
今日のレイアは、いつにも増して楽しそうで、ずっと笑っていた。きっと、私にもそれらを隠そうとしていたのだろう。
でも、それでも今の私にはやはり何も出来ることはない。ギルドを作ったのはグフストルで、私はシルカだ。どのような権限も持ち合わせていない。
もしレイアが嫌だと言うのであれば代わってやりたいところだが、もし冒険者試験に合格したとしても第十階級。彼女が引き受けたものには参加することは許されない。
(最悪、冒険ができれば第十階級のままでもいいと思っていたが……少し考えを改める必要があるだろうか………?)
階級が上がれば、その分様々なクエストを受けられる。だが、そうなれば、私の望む自由な冒険が難しくなるだろう。その二つを天秤にかけるのならば、私は迷わず後者を選ぶ………はずなのだが………
「オルフロストさん、よっぽどあなたを信用してるみたいだねぇ。あなたも冒険者なのかい?」
「来週の冒険者試験に合格すれば、そうなりますね」
「あらそうなの、頑張ってね!」
「………はい!」
私はその声援を素直に受け取った。
兎にも角にも、冒険者にならないことには何も始まらないのだ。まずは、目先の試験を必ず合格する、それが最重要事項であろう。




