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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
夜明之戦王編 氷界の心臓

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#524 夢、天翔ける伝説

 夢とは、不思議なものだ。深い眠りの先で見えるものかと思いきや、実はかなり浅い場所にそれはある。長い時……それこそ数日、数ヶ月にも及ぶような体感時間だというのに、現実世界では数時間。もしかすれば、数分しか経過していないかもしれない。


 物語の主人公にでもなったようなそれを見た際には、あり得ないほど飛んだ場面にもなぜか理解と対応が追い付き、なぜかそれを目指しているのかも分からないような目的を果たすべく奮闘する。時には変に世界が歪み、時には同じ場面を何度も繰り返し、時には「こうなったらいいのに」と念じたそれがすぐさま実際に起こり始める。


 そんなあまりにも都合のよく、あまりにも理解不能で、あまりにも不思議な世界。思考の拡張、理想の再現、あらゆるものの超越を可能にするのが、都合の良い夢の力というものだろう。


 また、夢の性質は恐らくそれだけではない。一定以上の感情の昂り、現実ではおそらく起こりえない死の実感。それによって夢は強制的に終了し、意識は覚醒する。


 悪夢などが良い例だろう。感じる恐怖、焦りなどが己の心へとダイレクトに突き刺さり、逃げ場も無く押し寄せてくるそれらは、夢を見ている人間の精神状態にまで影響を及ぼして来る。それに加え、夢の中での死。胸を刺されたり、腹の内側から破裂したり。人生において経験すれば大体死が訪れるようなそれらは、おそらく現実でそれらが起こった場合に比べ、痛みは感じない。だがしかしそれでも、身の毛のよだつあの感覚は、中々忘れることは出来ないだろう。




 夢とは、予想外な事が突如起こり得るもの。ノーマンが描き、グレイが抗っているこの(げんじつ)にも、今まさに同じことが起ころうとしていた。






「…………ふむ。どうやら、私が思っていたよりもかなりまずい状況のようだ」


 その男は――――空を飛んでいた。なんの制約もないような、自然な軽やかさを見せながら。


 ここより遥か遠く、パルトス共和国にて新ザヴィラでの異変の話を聞きこうして来たはいいが、黒霧のせいで上空からだと地上の様子がさっぱり分からない。しかし飛んでいても分かるほどの強い魔力を点々と感じ、地上のほとんどに相当な強さの魔物がうようよ存在している事だけは容易に理解できた。


 そしてその中でも、一際強い力を放つ点が二つ。


(この力……かなり荒削りではあるが、相当強いな。魔力の質から考えてまだまだ若いが、大したものだ)


 それを一度感じ取っただけで、その力量や発動者の年齢すらも当ててみてたその男は、男性とは思えぬ白く滑らかな長髪をなびかせ、その身を加速させていく。


(そして、もう一つ感じるこの魔力――――()()魔人か……!)


 もう一方の魔力は、この男が知っているものであった。そしてそれは、過去に実際にそれと対峙し、そして生還したことを意味している。


 だが同時に、ノーマンが生きているという事実。この男が、かの魔人にとどめを刺していない……刺せていないことも分かってしまう。


「あれは厄介だった。相手している子も、おそらくは苦戦している。凄まじい気力の持ち主なのだろうか魔術の強さは保ったまま……もしかすると通常時以上なのだろうが、確実に弱っている……長くは持たないはずだ――――というわけで、まずはあそこからだ。いいね? ――――レイア」


 男が話かけたのは、彼の真下にいる女性。灰色のショートヘアの下では本来の凛とした表情は全く機能しておらず、相当に肝を冷やしていると思われる女剣士。変わることなくレイピアを携え、彼と違い飛べるわけではない彼女は己の全存在を賭けて男の腕にしがみついている。


 その者の名は、レイア。レイア・オルフロスト。一年ほど前、シルカと共にヴェラリオにあるダンジョン、ノーマリエを攻略した現在第二階級の冒険者。新たに出現したダンジョン調査のためパルトスへと赴き、その腕を振るっている実力者だ。


「どうしたんだ? そんなに顔を青ざめさせて、いつもの君らしくもない」


「パルトスから生身でずぅっと高速で跳ぶあなたにしがみついてる身にもなってくださいよ師匠……!!」


 師匠。そう呼ばれた男の名は――――シェラー・フィオルク。しわ一つなく、見る者が見れば二十代後半――レイアとそう変わらない年齢に見える彼の正体は、かの九天竜が一体、風竜ウィルムストゥリオと戦い、そして生き残った第一階級冒険者。冒険者という職業が普及し始めるその時代から活躍している、この職業、この界隈における生ける伝説。


 そして彼の懐の中には、緑色に輝く玉――風竜の天へ至らぬ仮初(ディフェクティブ)。その力でここまで自在に空を駆けてきた彼は、とうとう新ザヴィラの地へと降り立たんとしていた――――――

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