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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
夜明之戦王編 氷界の心臓

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521/678

#521 必殺の氷界、訪れる”死”は

「それじゃあ、まずは小手調べといこうか」


「だったら、そうしてる間に終わらせてやるよ……!!」


 余裕のある笑みを浮かべるノーマンへ向かい、そこから間髪入れずグレイは氷属性魔術による攻撃を仕掛けんと動き始める。その身を前進させ、鶴嘴を後ろへ振り上げつつ、左腕は前へ出している。


 鍛えた成果もあるだろう。そしてそれ以上に、魔力の扱いが上達したのも大きな要因のはずだ。以前よりも遥かに身体能力を向上させたグレイは、尋常ではないほどの加速を見せる。その速度はここまで調査の道中魔物と戦った時とはまるで別人の如き動きで、ここまで彼がどれだけ余裕を持っていたかが伺える。


(反応はない……! あいつが今から反射的に体を動かそうと、もう遅い……絶対に()れる……!)


 このコンマ数秒、急接近するグレイに対し、ノーマンはその体を、指先一つピクリとも動かしていなかった。例え魔術を発動しようとしても。その前に氷による一撃を叩き込める。そう確信()()()()()()まで、奴の体に動きは無かった。


「……っぁああ!!」


 瞬間、グレイは飛び上がる。それと同時に氷腕を振りかざし、自分自身とノーマンを挟むように分厚い二枚の壁を瞬時に生み出し、向こうの行動範囲を制限した。


 この時点でも、ノーマンに動きはない。しかし、グレイは考えるよりも先に自らが思い描いていたイメージを構築することを優先させる。


「らぁっ!!」


 跳躍し、空中に留まったまま、一直線に氷腕を伸ばした。狙いは当然、視線の先にいる魔人――――の少し手前。当たるかどうかギリギリといった位置をあえて狙う。魔力の氷で出来ている拳は奴に当たらず、地面へとめり込んでしまう。


 側方を壁で防ぎ、前方を氷腕が襲う。上に逃げれば瞬時に拡散された氷腕が奴を襲う。それは、ノーマン自身もグレイの記憶を見て分かっているはずだ。




 つまり、向こうに残された選択肢は――後方へのバックステップによる回避。これしかない…………が、それすらもグレイの罠。




「さぁ……始まったところ悪いが――もう死んでもらう……!!」


 伸びた氷腕を縮め、それを利用してノーマンへと急接近。そして一秒とかかることなく地面へと着地したグレイ。氷腕の先は未だ地面へ埋まっているものの、その懐を捉えることに成功する。鶴嘴もいつでも振り下ろせるよう構えており、集中力も申し分なかった。




 だが…………ここまで時間が経過しても、ノーマンは全く動かない。余裕のある微笑もそのままに、グレイの思惑通りにも一切その身に動けと命令を送らないのだ。


(舐めやがって――――もう詰みだよお前は!!)


 直後。ノーマンの背後――グレイの前方に、突如巨大な氷の剣山が現れた。その鋭い氷柱一つ一つが一メートルを超え、簡単に人体を貫けるほどの殺傷能力を有しているのは想像に容易い。


 しかし、グレイはこの瞬間、魔術を発動させる素振りを見せていない。それは――もうすでに用意されていたのだ。最初に鶴嘴を構え、氷腕で構築した手の平の先ではずっと魔法陣が展開されていた。地面に拳を突き刺した、その後もずっと。


 そこから氷をノーマンの背後に伸ばし、地上に出てきた瞬間一気に拡散。凶悪な剣山を即座に作り上げた。大波の如く包み込むように広がっていくそれは上への逃げ道も塞ぎ、魔人の逃げ道を完全に消失させた。


 側方の氷壁も、ただそこに在るだけではない。徐々に内側に迫り出してきており、グレイごと潰してしまうのではないかというほどの勢いでその体積をどんどん伸ばしていく。


 それにより、もはやノーマンの周囲は狭い密室状態。もはやこの状況では、迫りくる壁と殺意に押し潰されるのをただ待つことしか出来ない。


 思考理解(わか)れど回避不能。それがこのグレイが作り出した魔術による対個人専用の技――氷刺波撃筵(ツルギ・グラキエス)。得意の氷属性魔術をこれでもかというほど応用した、グレイの奥の手と言っても過言ではない必殺技のようなものだった――――――




 ――――だというのに…………喉元に突き刺さるその直前まで、ノーマンは動こうともしなかった。


 戦いを放棄した……それにしては、余裕の笑みに変貌が見られないのもおかしい。まるで、最初からグレイの攻撃が通用しないことを確信しているような。あるいは――――






 最初から、自分は()()()()()()()()ような。






「っあ―――――! …………は?」


 そしてとうとう、氷の剣山の波が、すでに加速している鶴嘴が、ノーマンの体を貫かんとしたその瞬間だった。


 次に感じたのは…………手応えではなかった。


 それは、痛み。鶴嘴を伝い、体へ。体を伝い、氷腕へ。そしてそれに連なる、全ての生み出した氷へと伝わって――――破裂した。


 彼を中心として鮮血が爆ぜ、辺りに飛び散る。それが意味するのは――――――明らかな死。











「っああ!? ぅあっ……!! はあっ……!! はぁ……っ!?」


「凄いねぇ。初回サービスで動かないであげたけど……それでも、最初からあそこまで行けるなんて。おまけに……()()を体験しても、精神が壊れていない……まぁ、ギリギリみたいだけどね」




 気が付けば、グレイは立っていた。何ともなく、訳も分からず……ただそこに――――ノーマンへと接近を始めた、そのスタート地点に。

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