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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
転生村娘編

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#5 あまりにも突然な提案

 そして、それからほんの少し年月が過ぎ―――


「っやあっ!」


 この体も齢十歳を迎え、肉体も以前より頑強になってきた。

 少し前からようやっと剣が振れるようになり、あまりに嬉しかったものだから、つい毎日やり込み過ぎてしまう。

 やはり剣は良い。はじめはこの剣にも拒絶されたようであったが、扱えるようになってからはすぐに手に馴染んでくれた。持ち手が成長すれば、剣もそれに応えてくれる。この世界で最も正直な存在だ。


「……っはは! せいやっ!」


 楽しい。心の底からそう思う。そりゃそうだ、実際何十年も振ることは叶わなかったのだから。

 生き残るために、敵を殺すためにかつて磨き上げたはずの剣術であるが、用途はどうであれ、それ自体を嫌いになることはなかった。


 剣の柄を握っているときは、なんというか、落ち着く。しがらみだらけのこの世界から乖離したようなあの感覚。一つの物事に打ち込んでいる者にしか分からないであろう、一種のゾーン状態のようなもの。この感覚だけは、遥か昔と全く変わらない。それは、変化ばかりの今世においては、己に安心感を与えてくれる重要で数少ない存在――


「お、今日もやってるなぁ、シルカ」


「あ、父さん」


 今私が鍛錬の場として利用しているこの場所は、修練施設など存在しない村から少し離れた場所、そこをほんの少し拓かせていただいているわけだが、そこに父がやってきた。


「相変わらず相当剣が好きみたいだな。武器なら、槍や弓なんてのもあるが……」


「いや、私は絶対に剣がいい」


「ははっ、本当に一途だな! シルカに惚れられた男はさぞ幸せ者だろうな!」


「多分ないと思う」


 生憎同性愛者ではないのでな……尊重すべきだのなんだのあるが、人は人だ。そもそも、前世も含め、約九十年ほど。その間、誰かに恋心など抱いたことはない。ほんの一時期だけ息子娘の顔が見てみたいなど考えもしたが、当時は戦争の真っ最中。当然そんな時間など存在するわけもなく、その考えは一瞬で消え去ってしまったのだが。

 だがまぁ、今となってはもういいや。そんな風に考えている。子供の成長を見たいのであれば、冒険の果てに剣術の指導者にでもなればいい。第一、こんな考えの男(女)だ。結婚したとて、パートナーが可哀そうなだけだろう。


「えぇーっ。孫の顔を見せてくれよー」


「十の娘に言う台詞なのかそれは」


「うんまぁ確かに……って、そんなことじゃなかった。突然だがシルカ、今度の狩猟に参加してみないか?」


「狩猟に?」


 告げられたのは意外な提案だった。というか本当に突然だな。生まれ変わってから一度も戦闘を経験していない私であったため、前々から興味はあったが、


「もちろん、母さんにはちゃんと話してある。狙うのは小さい石ボアだし、そいつらは第十階級の冒険者が挑むクエストの中に名前があるような奴だ。シルカも冒険者になるのなら、今のうちに少しずつ戦闘の経験をしておいた方がいいんじゃないか……と思ったんだが――」


「やる」


「即答か、村の男の子とかでも最初は怖がるんだがな……」


 石ボア、正式名称ストーンボア。決して石の身体を持つ猪というわけではなく、体毛が石の色だからという理由で名付けられた獣だ。歯ごたえのある相手かと聞かれれば正直うーん……といったような感じだが、まぁ十歳の子供の初めての狩りだ。最初はこんなものだろう。


 ちなみに、父がさっき言っていた第十階級というのは、この世界における冒険者のランク、その一番下にあたるものだ。階級は十から一まで存在し、そのランクに適したクエストをギルドが見繕ってくれる、というものだ。正直これを考えた時、私は天才かもしれないと思った。確かその時は相当酔っていたんだったか………


「ちなみに、次の狩猟はいつなんだ?」


「二日後だ」


「明後日!?」


 本当に突然だったんだな……まぁ最近狩猟は行われてなかったし、そろそろだろうとは思っていたが…まさかそんなすぐとは………


「……っ…ふふふ………」


「し、シルカ? やっぱり…その次くらいにしておくか………?」


「待ちきれない! 早く行こう! 今すぐ行こう!」


「思ってた真逆の反応!?」


 出来る事が増えたのならば、それを早く実践したいのが人間というものだろう。

 相手がボアだろうが人だろうが、世界を滅ぼさんとするドラゴンだろうが、今は戦いたい!


 昔は、ここまで剣を振れることが幸せなことだとは思いもしなかった。

 だが年を取り、あの愛剣を持てなくなった時の絶望を知ったとき、ようやくそれに気付いた。失って初めて分かるというのはよく言ったものだ。なんせ、本当にその通りだったのだから。

 だからこそ、昔よりも私は戦いを欲してしまう。しかしそれは強さの頂を目指しているわけでも、周りから称賛されるためでもない。


 ただ、一秒でも長く、剣を振っていたい。それだけなのだ。本当にそれだけ。


 世界を全て見るために必要な最低レベルの強さがあれば、正直困らない。まぁ先ほどの考えと早くも矛盾してしまうかもしれないが、強くなれるのであればそれに越したことはない。最低でも、前世の自分(グフストル・アンバー)くらいは超えたいものだ。

狩猟していない日の男たちは、それぞれの家の家事をしたり、畑仕事をしたりなどをしてます。

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