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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
合魔乱行編

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321/685

#321 己が力では

 ―――――そこからは、モナ自身もあまり覚えていない。視界はぼやけて、叫び疲れ、泣き疲れ。耳もあまり機能せず、煙のせいで呼吸すらままならない。ただ覚えているのは、対峙した化け物の剛腕に担がれ、屋敷から連れ出されたことだけ。


 最愛の妹がその後どうなったのか、共に戦った使用人たちは何人生き残ったのか、父は。母は。その他の皆は……ツァリバーの人々は、一体どのようになってしまったのか。


 考えたくもなかった。どのような都合の良い解釈をしても、最終的には最悪の結果にたどり着くのだから。しかしそれでも―――知りたかった。


 


 だが今の状況では、それを知ることも出来ない。真実へと辿り着くためには、目の前の怪物……そして、全ての元凶であるその男を倒す他無い。


「シルカ、ヒユウ、グレイ。どうか、私にあの男を倒すための力を貸して欲しい。悔しいけど、私一人ではあいつに勝てない……から――――」


「いや、何言ってるんだ?」


「え……?」


 青髪の少女から帰って来た言葉は、あまりにも予想外だった。

 

 たしかに、突拍子も無かった。急に自分のために力を貸せと言われても、疑問が浮かんでくるのは仕方のないことかもしれない。それに本来、こちら側が向こうに力を貸さなければならないだろうに、それを自分は―――――


「当たり前だろう? というか、敵は同じだ。奴を倒したという手柄が欲しいわけでもないし…………それに、私は人を動かすよりも、人に動かされる方が性に合っている。生憎、戦うこと以外能が無いんでな!」


 動かされる方が…………その言葉の真の意味を、モナが理解することは無い。だがそれでも、こんな状況でも明るくニヤリと笑ってそう言ってみせた少女が、彼女にはその瞬間――とても眩しいものに見えたのだ。






「さぁ、それじゃあそろそろやろうか……話していても何も始まらん……!」


 本来ならば、このように立ち話をしているこの状況もおかしいのだ。あのヴィーグルスの横にいる番人もずっと直立不動のまま。襲い掛かっても来ないし、暴走したりなどもない。理性が存在しているのか、それともヴィーグルス(やつ)の支配下にあるか…………おそらくは後者だろうが、まだ断定は出来ない。




 そう考えていると、ヴィーグルスは突然何かを喋りだす。まるで誰かがそれを尋ねたように。


「ディバノス君の魔力への適合性は私の想像を遥かに超えていてねぇ……人体がいくつあっても足りないほどの改造を施しても、それでもなお私に歯向かおうとしてきたんだ。人間の真の限界というものは、数多の歴史を築き上げながら進んできた人間自身にも計り知れない……」


「「「…………?」」」


(なんだ……? 急にどうしたんだこいつは……)


 とうとう完全に頭がイカレてしまったのか……いや、それに関しては今に始まったことではない。問題はなぜそれを今喋りだしたか、だ。


「私も色々試行錯誤したんだよ……人間器官の調整や組み換え、切除に魔法陣の追加……筋繊維の構造を調整したり単純に密度を上げてみたり……生殖器の完全なる破壊――強制的に子孫繁栄の必要のない生物として強化を促したり…………でも彼は強かった……彼自身ではない。彼の心が強かった……だから限界を超える改造だって耐えてみせたし、それでも己が牙を私以外に向けようとしない……実験材料とした他の研究員を殺すどころか、逆にその与えてやった力で逃がそうとした……実に頭を悩ませたよ。どうすれば彼が私に絶対なる服従を誓ってくれるのか…………」


 奴の口から出る全ての言葉が最悪のものだ。正常な人間であれば考える事すら嫌悪するほどの。


 だが奴は悠然とそれを語る。酒場で何気ない会話に弾むように。その時の情景を思い浮かべながら、自らの頑張りを共有したいのだとでも言わんばかりに。


「で、最終的な結論は…………無理。彼の心が壊れでもしない限り、これ以上どれ程の苦痛を与えようと耐えてみせるのだろうと。そう考えた。それほどの馬鹿げた正義感を、彼は持っていたんだ……だから――壊すことにした。一旦壊してから、私の理想の彼にしようと思ったんだ。結果、今の彼となった。素晴らしいよ。心は……精神は完全に死んでいるというのに、それでも体は生命活動を維持し続けている。私の想像を遥かに超えてみせたんだ……! 私は彼をこの研究所の名誉職員として、私が飽きるまで彼を使い続けると決めたんだ……! 滅多にないぞ、こんなことは……! その名の通り、実に名誉なことだ!! そうは思わんかね!? えぇ!? 愚かな餓鬼共ォ!?」


 狂気に満ちた、濁った瞳。そこにあるのは、己の研究への絶対的な自信…………




(中身は全然違うし、認めたくもないが―――同系統だな……私のそれと…………)




 それを。それだけを信じて突き進んできた者の眼。極め、極まった者の眼だ。それに至るまでの過程は想像を絶するものであり、とても生半可な覚悟では到達することなど出来ない領域。そこに運で辿り着くことなど不可能―――――故に、強い。

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