#32 畏怖に似た驚愕
今この瞬間、レイア達はこの世の物とは思えないような光景を目の当たりにした。
さながら事故、さながら竜巻、さながら最強と思わせる何か。
シルカの圧倒的なまでの剣技は熟練の冒険者である彼女らの目すらを釘付けにし、一瞬気を抜くことなど一切許されないこのダンジョンの中での行動を忘れさせた。
「マジのバケモン………修羅……!?」
「エル……私なんだか怖い………」
「………そうね、ロヴィ………」
「ファレイルリーハとやりあったというのも、本当なんでしょうね………レイアさん……」
「………あぁ、本当に凄いな……………」
まだ十五の冒険者でもない娘が湖底の蒼洞窟にへと落ち、最奥で神魔ファレイルリーハと相対しそして生還した。
そもそも疑ってはいなかった。村の大人たちも同じことを言っていたし、シルカ本人も嘘をつくような人間ではないことを分かっていたレイアだったが、それでも嘘だと言ってくれた方がまだ信じられるような話。
だが、目の前で起こっている事を考えてみれば、十二分にその話も本当なのだなと頷けてしまう。
なんせ、第三階級、もしかすればそろそろ第二階級の冒険者にへとランクアップできるかもしれないというところにまで上り詰めたレイアでさえ、彼女のような芸当は出来ないのだから。
「……感心している場合ではないな。皆、シルカに続け!そしてその奥にいる元凶をなんとしてでも討伐するぞ!」
「ほんっと、本職が村の娘に負けてられるかっての!」
「大人の意地を見せないと、ですね……!」
「……行くわよ、ロヴィ」
「うん……エル。あの子には、なんか負けたくない………」
思いは重なり、強大な個を凌ぐ大きな力となり得る。今まさにそんな状態のレイア達は、シルカに負けじと彼女についていき、その奥に潜む何かがいる場所にへと向かう―――――
「ハハハハハ!!!もっとだ!もっと出てこい!!!このダンジョンの魔物全てを狩りつくしてやろう!!!」
私は今、幸せを噛みしめている。
ここ数年、毎日欠かさず剣を振り続けてきた私が、一週間も剣を触れなかった反動というものは、私自身が思っていた以上に大きなものだった。
腕が鈍っているわけではない。むしろ調子は絶好調だ。しかしこの溢れ出る衝動と楽しさを知ってしまったら、やはりもう剣無しの生活には戻ることはできない……!
それにしても、奥に進むにつれスケルトンの数は今までよりも更に増えてきている。この大量発生を促している奴の居場所が近いということだろうか。
レイア達もしっかりと私についてきてくれているみたいだ。少し振り返って見てみればなぜか相当驚愕しているような顔をしていたが。
だがまぁ、それでもやることは変わらない。とにかく目の前の骸骨共を私がなんとかせねば。今ここでレイア達に負担をかけてしまえば、この先に起こり得るであろう戦いに影響が出てしまうかもしれない。ここは一応最年少である私が体を張ろう。
(とは言いつつも、私が剣を振りたいだけなのだがな……!)
自分でもたまに思うが、こと戦いにおいて、私はかなり我儘な気がする。
流石に誰かの獲物を横取りするなどの真似はしないが、私の欲の内の多くの割合を占めていることは間違いないだろう。
何はともあれ、こんな奴ら、さっさと片づけてしまおう。色々言っているが、私の体力も別に無限というわけではない。剣を振れることにへの感謝と向上心を忘れずに、かつ迅速にこの大量のスケルトン共を私の手で斬り捨てよう―――――
「……っと………これで…っ……かなり減っただろう………!」
「………いや、信じらんねぇ………」
「本当にシルカさん一人で……あれだけの数を………」
攻めてくるスケルトンを片っ端から斬って砕いてを繰り返し、何とかその数を相当数減らすことに成功した。とはいえ、私の体力もかなり減ったがな。
「………ふぅ……流石に少し疲れたな………すみません、少し息を整える時間をください」
「あぁ、もちろんだ……その間は、私が残党を始末しておこう」
数は九割方減らしたとはいえ、それでもかなりの数のスケルトンが残っていた。
それでも、百体いかない程度であれば、私が心配する必要もないだろう。なんせレイアは―――
「はぁっ……!」
レイアは左腕を前に出す。掌は上を向いており、そこでは高熱の魔力の塊が生成される。
次に右腕を前に出し、こちらは掌を前方、スケルトンの集団に向けている。そしてそちらの手では風属性の魔力の塊を生み出し、先ほど左で作っていた炎の塊に重ね合わせる……………そして、それを前方にへと一気に放つ………!
「炎圧旋風波………!」
放たれた横方向に伸びる灼熱の竜巻は、次々とスケルトンを飲み込んでいき、骨共はその悉くが灰燼に帰した。
「………すみませんレイアさん、お手を煩わせてしまって」
「なに、むしろこれくらいはやらせてもらわねばな………本当に助かったよシルカ。ありがとう。この借りは、この先ですぐにでも返そう」
予想通り、何の心配もいらなかった。なんせ、第三階級冒険者レイア・オルフロストは、私の火属性魔法の師匠でもあるからだ。
シルカ魔術使えてるじゃんって思われるかもしれないんですけど、実は炎圧旋風波は魔術ではなくてですね………
この作品における魔法、魔術はざっくり説明すると、
魔法:空気中の魔力に属性のイメージを乗せて塊にしたもの
魔術:その塊を更に魔術構築式や呪文などで形状変化させたり更なる能力の付与、攻撃パターンを増やしたりして魔法から昇華させたもの
のような感じで(説明下手ですみません)、炎圧旋風波は炎の塊に風の塊を重ねて前方に押し出しているだけの技なので、魔術のようですが実際は単純な魔法の足し算なわけです。これを足し算ではなく火と風を同時に生成して竜巻を組み上げれば魔術です。はい。ややこしくてすみません………
ちなみに、この炎圧旋風波、あと#14に登場した超圧縮炎破はレイアが魔術の才能が全くない、でも魔法は使えるシルカのために考案したもので、その後も中々汎用性が高いのでレイア自身も使ってるといった感じです。
あともっと言えば、二つの属性の魔法をいっぺんに操るのは中々難しく、基本的に第六階級以下の冒険者とかからすれば極めて困難な技です。




