#31 償いの剣
「……エル、なんだかスケルトンの数が急に増えた………」
「そうねロヴィ………薄気味悪いわ……」
二人の言うスケルトンというのは、先ほどからこちらを襲ってくるこのダンジョン内の白骨化した魔物共の総称………ではない。
スケルトンというのは文字通り、人骨の魔物。脳ではなく本能で、そして筋肉ではなく魔力によりその身体を動かし、かつてこのダンジョンに挑んだ者たちの所有物であろう剣や盾を装備している。
人型であるがゆえに人である私たちが感じる嫌悪感や不気味さは他の魔物よりも数段階上だ。
だが正直、そこまで強い魔物でもない。動きは鈍く、落ち着いて対処すればまず間違いなく勝てる。これらに負ける要素があるとすれば、元は同種であったという恐怖やためらいによって体が動かなくなってしまった時、とかだろうか。
そしてもちろん、今ここにいる冒険者たちはそんな生半可な覚悟でここにきているわけではない。皆が己の命を賭け、試練に挑み、そして笑顔で帰って仲間に報告するためにこの場所に集っているのだ。こんなスケルトン如きでは、レイア達は命脈を絶つことを躊躇いはしない。
「しっかし何だコイツら………気が付けば大量発生しやがって………」
「流石にちょっときついかもね………よし、五分間僕が応戦するから、ほかのみんなは一旦休んでて!」
「オーケー、助かる!その後は俺が引き受けてやる!」
休む暇もなく攻めてくる骸骨。その個体数は決して多くはないのだが、まさに間がないといった感じだ。余裕がまったくないわけではないのだが、一分間に三十体くらいのペースで姿を現してくる。
それがかれこれ四十分くらいそれが続き、私たちはかなりの足止めを食らってしまっていた。
「ふぅ………だが、このままでは埒が明かないな………ここは私が魔術で一気に殲滅して………」
「いや、レイアさんはここでは温存しておいてください。」
「え……?いやだがしかし………」
十五の娘に温存するためにと止められる第三階級の冒険者は、疑問とほんの少しの不満を含んだような返しをしてくる。
「おそらく、現在のここの主が私たちの存在に気付いたんでしょう。これはそいつの先制攻撃……レイアさんには、後で存分に……万全の状態で戦ってもらいたいんです」
「………言いたいことは分かる。だがそれでも、まずはこいつらをどうにかしなければ……………」
「……………」
まったく、慎重な娘だ。
確かにスケルトン共の数はとてつもなく多い。並みの冒険者では数の暴力に圧倒されそこでおしまいとなってしまう可能性が高いと言い切れるほどには。
だが、逆に言えば数が多いだけなのだ。それならば……………
「………皆さん、しっかり私についてきてくださいね」
「……シルカ、どういうこと?」
「………エル、シルカに何か考えがある……ってことじゃない………?」
「考えっつたって……一体どうすんだよ………?」
テリーの質問に答える前に私は皆より一足先に立ち上がる。
そして剣を抜き、現在一人でスケルトンに応戦しているダロンの元にまで歩いて向かう。
「ダロンさん、代わります。レイアさんたちと一緒に、しっかりついてきてくださいね」
「え?どういうこと?ってシルカさん!一人じゃ危険だ!」
正直に言って、もう待ちきれないのだ。剣を振りたいという衝動が私を駆り立て、骸骨で満ちている通路の突破ルートを自然と教えてくれる。
「……ッ!!」
私は剣を構えた。集中力を一瞬にして引き上げ、目の前の骸骨の大群を見据える。
あぁ、一週間待った。この瞬間をずっと望んでいた。
私はまた剣を振ることが出来る。かつて触れなくなっていた剣を。
前世では、剣が己の全てだった。剣だけが私の命を守る盾であり、私の心を強くしてくれる存在だった。
私はかつて、平和な世のためと多くの人間を殺してきた。無論それは許されるべきことではないし、私は世界のいろいろな場所で恨まれていただろう。
目の前にいる魔物も、かつては人間だったはず。これから先戦っていく魔物たち、その中には絶対に、かつて私が殺した者もいるだろう。
これらは、この世界の魔物という存在は、私への罰でもあるのかもしれない。尤も、それは単なる考え過ぎなのかもしれないが。
だがそれでも、私は魔物の根絶を断念しない。世界がこうなった原因の中に私の存在があるのなら、それから目を逸らすことなどできない。してはならないのだ。
だから私は剣を振る。今日も、明日も、この先も。
そして見るのだ。平和な世界の全貌を。夢半ばで死んでやるほど、私はお人好しではない………!!!
「ハァァァアアアアア!!!!!」
剛に重点を当てて振るった戦王剣による斬撃の竜巻とも呼べるそれは、一瞬にして目の前に見える骸骨を次々と粉々にしていく。
「せえぇぇぇぇぁぁぁぁああああああ!!!!!」
もっと、もっとだ!!この場所に存在する魔物は一気にまとめてかかってこい!!その悉くを確実にこの世から消滅させてやろうではないか!!!!!




