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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
転生村娘編

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#3 子はよく食べよく育つ。しかしパワーが足りない。

「シルカー! ちょっと畑の方手伝ってー!」


「はーい!」


 ヴェラリオ王国と隣国パルトスを繋ぐ国境付近の森の奥。そこに位置する街から離れた小さな村。そこで儂……いや、私は再びこの世界に生まれたようだ。

 

 授かった新たな名は、シルカ。リザリアという家に生まれた一人娘だ。もう六歳となる。

 生前は黒……年老いてからは真っ白だったが、今はサファイアによく似た真っ青な髪。始めはどこまでも伸びてくる髪が億劫であったが、今ではもう慣れっこだ。これだけ質のいい髪を後ろでまとめているだけというのは自分でももったいない気もするが、生憎そういったものとは縁のない人生を送って来たものだからよく分からない。母も、何なら前世の母も同じ髪型であったため、まぁいいだろう。

 客観的に見ても、中々顔立ちが整っているように見える。容姿にはかなり恵まれた子だ。と言っても自分なのだが。


 成長するにつれ、思うように体が動かせるようにはなった。魔術は相変わらずだが、魔法に関してはほんの少しならまた使えるようになったし、とりあえず順調に元の力を取り戻しつつある。絶対に出来るはずの動きができないというのはどうももどかしいものだ。


 さて、現在の一番の課題は、やはり剣だろう。


 村……今の我が家の物置に存在していた狩猟用の鉄の剣。始めは久々にお目にかかる剣に、老いぼれの身体ではなくなったのだから、これで再び振ることが出来ると年甲斐もなくはしゃいが、そこで大問題。


 何ということだろう。全っ然持ち上がらないのだ!


 まず根本的に筋力が足りない。早急に筋肉を増やしていきたいところではあるものの。こちとら体が幼女ときた。

 成人の、ましてや前世の自分の行っていた訓練―――体を破壊するまで追い込み、飯を食らい、城の魔術師に回復魔術をかけてもらってを以下無限ループ―――などこの体でやったら筋肉が付く前に死んでしまうわ!


 それに加え、性別の問題だ。

 これは差別でも何でもないが、基本的に女性の体というものは、男性のそれに比べて筋肉が付きにくいのだ。筋肉が付かないわけではないが、おそらく大人になったとしても、前世(グフストル)ほどのパワーはもう戻ってこないだろう………


「っていかんいかん! 早く手伝いに行かないと!」


 そんな苦悩もありつつだが、なんだかんだで私は二度目の人生を楽しんでいるのだった。


 周りが自然に囲まれた生活は、王城暮らしの自分にはとても新鮮だった。戦いなどない平和な暮らし。かつての私が望んだ世界がここにあった。

 誰も争わず、農作物を育て、動物を狩ってそれを分け合う。そこには忙しさなど欠片もない。今まで体験してこなかった何もしない日というのもある。始めの頃は何かしなければという罪悪感に駆られたものだが、もうすっかりそれにも慣れてしまった。だがそれは決して堕落ではない。戦士の休息、というやつである。




「くっ……鍬が重い………」


「耕すのはシルカにはまだちょっと早いかもしれないわね。じゃあ、後で種まきしましょうか」


「何たる不覚………」


 なんと非力で情けない……結局木陰に座って待機である。やはり幼少期は体を鍛えることに専念した方が良いのだろうか?いや、考えるまでもない。せっかく()()()()()()()チャンスを得たのだ。それを蔑ろにして再び人生を終えるなど、この体に宿った我が魂が許すはずがない………!






 そう決意を新たにしながらも時間は過ぎていき、あっという間に今日の畑仕事は終わりを迎えた。父も狩猟から帰ってきたようだ。


「お前たち見ろ! 今日は大物だ!」


「まぁ! クリムゾンバッファロー!」


 村の男たちが全員がかりで運んできたのは、そこらの牛の倍ほどの体躯を誇る真っ赤な牛。すでに仕留められておりその身はピクリとも動いておらず、もはや解体されるのを不本意ながら待つばかりである。


「今日はご馳走だぞシルカ!」


「お手柄だな父さん!」


 うぅむ……未だに喋り方だけは慣れん……前世のままの口調で喋ってしまっては明らかにおかしいと思い

直す努力はしているのだが……長年染みついたものは中々すぐにとはいかん。もう自分は男でも年寄りでもないのだ。心まで女になるつもりは流石に無いが、外面だけでも整えておいた方が良いだろう。




「むぐむぐむぐむぐ……」


「に…肉の山がどんどん消えていく……」


「育ち盛りね~~」


 その後夕食、大きめに切られ焼かれたクリムゾンバッファローの肉が机の上に鎮座していたのだが、待ちきれずついつい手を合わせたのちにすぐがっついてしまった。

 己の口内を、凄まじい肉汁が満たす。脂身がものすごく甘いために味付けは塩のみであるがそれでも絶品だ。


 かつての城では、騎士暮らしの時は硬いパンに肉、薄い汁に芋。城で出されていた物も、正直言って小洒落た味の薄い料理ばかりであったため、この目の前の肉は私にとってはどんな宝石よりも価値があり、今世の食事は自分の中の一日の楽しみの中でも上位に入るのだ。


 そしてここからが重要…!なんと、肉体が若いからどれだけこんな肉を食べても胃もたれしないのだ!あぁ素晴らしきかな若さ!

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